切なくて支離滅裂するスナフキン
スナフキンと親密なことをするのは初めてじゃない。ムーミンやミイが居なければ二人っきりで野原をぶらつきながらキスだってしたことあるし今みたいに、川べりに張ったスナフキンのテントの中でキス以上の事だってしたことある。キスと、その次の間には決まって二人とも黙り込んで何も知らずに流れていく川の音だけが、まるで私とスナフキンの事を置き去りにするみたいに冷たく聞こえてた。

「あ、あっ、…っああ、」
「あまり大きな声を出しちゃいけないよ」

そっと私の口に人差し指を添えるスナフキンは、器用に腕と胸だけで私のことを抱きすくめてしまうと、穏やかな表情には到底似つかわしくないくらい力強く私の濡れたおしりに腰を打ちつけた。体が燃えてるみたいに熱くって、吹き出てくる汗はぜんぜん冷えずに熱いまま私の体の上を流れて床に落ちていく。たまにスナフキンの汗も私の体に落ちてきて、それがどうしようもなく愛しくて、はっはっはってたくさん走ったあとの犬みたいな息遣いが一緒でおんなじ匂いのおんなじ温度のおんなじ空気を吸っては、吐いた。

「や、スナフキンっ…あ、あん」
「ふふ、おなまえの声はきっとおさびし山のアナグマを起こしてしまうね?」
「だ、って…わた、わたしっ、我慢できっなァあッ」

必死に空気を掻いて、スナフキンの背中にしがみつく。緑色のワンピースを着たままの彼からはたくさんの匂いがした。さっき飲んでたココアとか土ぼこりの匂いとか…きっと私の知らないものの匂いがたくさん染み付いてしまっているんだろう。スナフキンのそういうにおいを感じると私はとても寂しい気持ちになった。スナフキンはとっても遠い存在のように思えた。だって彼は旅をする人だ。私みたいに年中穏やかなムーミン谷に腰を落ち着けているような人じゃない。私は、私の感じる寂しさというのは、もしかしたら彼の寂しさなのかもしれないって考える。

スナフキンが寂しい人だから、こうして一緒に居るとそれが私にもうつってしまうのかもしれない…。だから私はスナフキンと特別に、こうして親密な事をして、一瞬の錯覚でもいいからまるでひとつになれたみたいに感じていたいのかも知れない…。出来はしないとわかっていても、そんなことこれっぽっちも望んでいないってわかっていても、もしもスナフキンの寂しいのを私が少しでも溶かしてあげることが出来たらそれってどんなに素敵なことなんだろう?私がそんな風に考えてるなんて、まさかスナフキンは夢にも思っていないんだろうなぁ…

「ねぇ、スナフキン…」
「…なんだい?」

二人の間に手を滑り込ませて、しっとりと濡れて、熱に蒸れているそこをなでてみる。しっかりとスナフキンは私に入っているし、私もしっかりとスナフキンを飲み込んでいる。スナフキンは私のことを見て、ちょっと分からないなという感じの困った笑い方をしていた。

「私たち、ひとつになれるかな?」

落ち葉が腐った、深い匂いを含んだ風がテントをはためかせた。秋が終わろうとしている匂いだ。私が嫌いな匂い、…スナフキンの心を躍らせる匂い。バサバサという乱暴な音が私の声を掻き消してしまったのではないかと心配になったけどスナフキンはしっかりと私の言葉を聴いていた。それでも何かを答えてはくれなくって、スナフキンが誰かの質問に答えなかったのなんてこれが初めてだった。だまったまま、また腰を動かすスナフキン。さっきまで見たいに私のことをからかったり、微笑んだりはしてくれなくて、ちょっと怒っているみたいにも見える顔。

「僕はね、おなまえ…君とこうして親密な事をしている時に、どうしようもなく孤独を感じているんだ」

予想もしていなかった言葉に、驚きとか悲しい気持ちとか複雑な感情がどろどろに溶け入った涙がぽろっと一粒こぼれた。でもそれは、汗だったかもしれない。その判断が出来ないくらい私は混乱した。

「だって、だって僕たちは今、こんなに…違う生き物なんだって事を認識しているわけだ。おなまえと僕がひとつだったらキスだって出来ないし、こんなこと…出来るわけないよね?」

スナフキンが私のことを揺するのをやめてくれないから、うまく頭が回らなくって…そうじゃなくてもスナフキンの言うことはいつも難しいからちゃんと聞かなきゃ考えなきゃわかんないのに…スナフキンはまるで私のことなんて考えてくれなくって、ちゃんと聴いているのかどうかだってどうでもよさそうにしゃべり続けた。私はなんだか無視されているみたいでとっても寂しかった。

「僕はおなまえの事を想っているし、君も僕の事を想ってくれている。それって突き詰めれば相手を完全な他人だって、全くの別の存在だって認識してるって事だと思うんだ。違う?」

「僕は孤独と自由を愛してる。冬になると南に旅をするのだって、それを感じるためなんだ。自分の足でね、孤独と自由を求め歩くのがすきなんだ。他の人にはわからないかもしれないけどね。僕は確かに孤独を愛してる。誰かにその事についてとやかく言われてしまえば僕は本当にどうにかなってしまうくらいにね。ひとりぼっちでいることが大好きなんだ」

「それでも今、おなまえとこんなに近くに居て触れ合って感じあっている…一緒に居るのに別々の生き物なんだって…、一生ひとつにはなれない。僕が溶けて君になることは出来ないし、君だってそうだ。そう考えていると君の事を抱きしめながら溢れるほどの孤独を感じるんだよ。君と居ると、ああ、僕はなんてひとりぼっちの存在なんだろうって深い深い孤独を感じるんだ。こんなに好きなのに…僕らはひとりぼっち同士で、でもそれが嬉しくてたまらなくって、君がその事について辛く思ったり寂しく思っていたとしても…僕はどうしてあげることも出来ないんだ。だって、僕は…ひとりが好きで、でもおなまえの事も好きで…君と居ると、余計に…ひとりぼっちで…」

私の事を揺するのをやめたスナフキンは繋がったまま座り込んで、うつむいてしまった。私はなんだかもう、悲しくてたまらなくて…私もスナフキンが大好きで、こんなにも大好きでこんなにも近くに居るのに、スナフキンはそれだけじゃ足りなくて…涙で顔がぐしゃぐしゃになるのを止められなかった。このテントの中に鏡がないのが救いだ。

「言ってる、ことが、…むちゃくちゃだわスナフキン…」

「どうやら、今夜の僕は、…あまり具合が、よくないみたいだ」

そういって額に手を当てて参ったように笑ってみせるけど、それは全然面白そうでもないし情けなくって笑っているって感じでもなかった。ただ寂しさに、なにかもっと大変なものに、笑うしかない、お手上げだとでもいう感じがした。そして私は、そのとき初めてスナフキンの涙がこぼれたのを見た。でもそれは、汗だったのかもしれないけど。その判断が出来ないくらい私も、スナフキンもたくさんのうまくいかない感情に混乱していた。



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