キスする時に目をつむる男鹿
私が男鹿くんのお部屋に遊びに行くようになってから何ヶ月か経つ。お付き合いをしているというそういう関係上…男鹿くんが私のことをお部屋に招きいれる時は女の子である私としてこう、なにかしらアレな事を心配して緊張する。だって正直いうと男鹿くんのお部屋ってベッドしかないんだ…!!そしてお部屋に招き入れといて何かテレビゲームをして遊んだりましてや教科書ノートを広げてお勉強をするわけでもないのだ。そんな男鹿くん、健康な男子である男鹿くんが私(彼女)をお部屋に招き入れるだなんて女の子としてはちょっと自分の身の危険を感じてしまうのではないだろうか?…少し期待して、しまうのが普通なんじゃないのか…?

なのに男鹿くんってばいつも何もしない何もしてくれない。お部屋に呼んでおいて自分は漫画読み出しちゃったりひどい時は自分だけ寝ちゃったりする。なんでそんな事するのかわかんない。わざわざ私のことお部屋に呼んでおいてそんなことするなんておかしい私を放置するってのがおかしい彼氏として男として間違ってる。私はお部屋に招いてもらうた度にいやらしくふくらんだ胸を弾ませては結局何事も無く無事に自宅に帰還するのだ。

古市くんに相談したことだってある。古市くんは中身おいといて外見は結構女性ウケいいからそういう経験ももちろんあるわけで私としては彼女が部屋にいて何もしないって言うのは男の子業界では当たり前なことなんですか?私はじらされてるんですか?私がいらやしすぎるんですか?って訊いてみた。そしたら古市くんは困ったように笑って『彼女を部屋に連れて来て何もないってのは…』ってその後は言葉を濁した。私じゃ役不足なのだろうか?たしかに男鹿くんの周りにはお姉さんやら先輩やらいちいち可愛くてきれいでスタイルがよくて人格的にも魅力的な女性が多い。そんな人たちと比べられてしまったらもちろん勝てる気はしないけどそれでも私のことを彼女として選んでくれたのは他でも無い男鹿くんなのだから、外見か中身かは定かではないけど私の何かしらが気に入ったわけなんでそんなおなまえの事気に入っちゃったぜ好きだぜお部屋に呼んじゃいたいんだぜ一緒にいたいんだぜの中にちょっぴりだけでもいいので性的な興味関心を抱いてて欲しい。愛してるなら私の事大切にして欲しいとかセックスはもっと大人になってお互い成熟してからにしましょ?って乙女心もあれば私みたいな…そういう女心だってあるんだ。


「ねぇ男鹿くん」
「んー?」

今日も男鹿くんのお部屋で漫画を回し読みする会。なんでだ?なんで?男鹿くんは自分のベッドに座って、私はベッドにもたれるみたいにして床に座ってる。男鹿くんの家に来てお手洗いを借りてそこで髪を梳いてスプレーのトリートメントをした。髪の毛が柔らかくなってさわり心地だってうんと良くなった。油取り紙と基礎化粧品で顔のお手入れもしてリップも丁寧に塗りなおした。来ていたベストを脱いでかばんに詰め込んでカッターシャツのボタンをひとつはずした。鏡を見ながら襟元を広げてみると少しだけ鎖骨の頭が見えたけど、自分ではいまいち色っぽいとは思えなくてちょっと悩んでボタンをふたつはずすことにした。覗き込めばブラジャーのふちっこが見える。デコルテに愛用の香水を少しだけふって、男鹿くんの部屋に戻った。

男鹿くんを見上げると男鹿くんも私の事を見つめ返した。この角度だったら絶対に胸の…谷間はあんまりできないから言い切れないけど、胸の膨らんでるのは見えてるはずだ。それでも男鹿くんはノーリアクション。用件を言わない私を『なんだよ』ってせかす。
「…キスして」
「はぁ?」

ベッドに手をついて身を乗り出し男鹿くんに顔を近づけると男鹿くんは赤くなって変な声を出した。後ろに手をついて私の事を避けようとさえした。別にはじめてキスするわけじゃない。キスだったらもう何度かしてるから男鹿くんはそこまで驚くこと無いんだ。私は男鹿くんの膝にまたがって男鹿くんのほっぺたに両手を添えて逃げられないように捕まえてしまう。男鹿くんのおかしなところはそんな事したくないって反応するくせに絶対に抵抗して暴れたり怒ったりしないところだ。

「…ん」

唇を合わせると気合を入れるみたいに男鹿くんが目をきゅっとつむっておなかのそこの方から短く息を吐いた。柔らかい唇が緊張してこわばっててなんだか本当はキスしたくないみたいで悲しくて悔しかったから私は無理やり男鹿くんの唇にべろを押し付けて、ほっぺたをぐっと寄せて無理やりに男鹿くんの唇の間にべろを押し込んだ。男鹿くんの前歯にべろが当たって私は唇で男鹿くんの唇をむにゃむにゃと揉むみたいに噛み付いた。男鹿くんは何か言おうとして(たぶんやめろとかそういう事)口を開いたから底にぬるっとべろを押し込んで、男鹿くんの顔を無理やり上に向けて私の顔も男鹿くんの顔もぐりぐり押し付けあって引っ付いちゃうんじゃないかってくらいにむちゃくちゃにした。

「ふぁッちゅ…んむァ…はッぅ」
「ちゅぷッん、ふぁあむッぁちゅぱッちゅ、ん」

男鹿くんがキスする時に目をつむるのはきっとキスしてる私の事を見たくないから。それは決して私の事が嫌いだとかキスしてる時は他に思い描くべき女性がいるんだとかじゃなくって、男鹿くんはまだちょっと子供なんだ。キスしたがる私とか、男鹿くんの口の中に自分のべろを入れたがる私とか、男鹿くんの腰に手を回したり自分の股間を男鹿くんの股間にすり寄せるそういう具体的に性的なことを欲してる私を見たくない、あるいは認めたくすらないんだ。小さいころの憧れのお姉さんには結婚して欲しくない自分の青春の清らかな思い出を汚して欲しくないって思考なんだと思う。

「男鹿くんはさ、なんで…目ぇつむるの?」

よだれでべちゃべちゃになった口元をぬぐいながら男鹿くんに訊いてみる。私の中の男鹿くんがキスする時に目をつむるわけってのは結局私の推測に過ぎない。当人に聞いてみるのが一番だと思って訊いてみたけど、男鹿くんはまだちょっと息が切れてて口元をぬぐうために宛がった手をまだ放そうとせずちょっと潤んだ目でちょっと私の事をにらんだ。

「…みょうじはなんでだよ?」
「私は目つむってないもん、ずっと男鹿くんの事見てる」

私は男鹿くんの全部見たい。見たいし触れたいし感じたい。キスしてる男鹿くんも息苦しくってつらそうな男鹿くんも私に股間をすり寄せられて困って必死に腰を引く男鹿くんも全部全部見てたい。なのに、男鹿くんは?

「男鹿くんは…私の事好きなんだよね?」

男鹿くんの膝にまたがったままの体制で、男鹿くんの肩に手を添えて軽く押してみると私に比べて大きな体の癖に簡単にぽすんっと後ろに倒してしまう。無抵抗な男鹿くんが気に食わない。ふたつ外したボタン、うつぶせになった所為でがばりと開いた胸元は覗けばきっとおへそまで見えてしまう…はずなのにまだ何もしない、しようともしない男鹿くんにいい加減いらいらする。わざと男鹿くんの股の上に乗っかって私のパンツを挟んだ陰部の温かさとか湿ってるのとか主張してみても、顔を背けてこっちを見ようとしない男鹿くん、好きか?って言う問いにも答えてくれない男鹿くん。情けなくて涙が出た。

「男鹿くんのばか…」

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -