あきらくんとたまごと夕焼け
今日はあきらくんが東くんにお料理をご馳走させるんだー!!って言って私も買出しに行くことになった。なんで急にあきらくんが東くんにお食事をご馳走することになったのかとか、なんでお料理なんてできないくせに手作り料理なんて思いついちゃったのかそしてなんで実行しようと思ったのかとかなんで私が手伝わなきゃいけないのか…しかも東くんにご馳走してあげるはずの料理なのになんでわざわざ東くんのおうちのお台所を借りるつもりでいるのか…などなど、この体は大人頭脳は子供その名もあきらくん!な恋人のあきらくんに訊こうとなんて思わない(訊いたってどうせ納得のいく答えが出てくるわけじゃないことぐらい知ってる)ので、私は休日の夕方に突然かかってきた電話を受けた後すぐに思考をシャットして買い物バッグと財布とケータイだけを持って家を出た。

家を出て少し歩くともうそこにはあきらくんがいて親子連れの人とか子供の集団とかがいるのにそんなのお構いなしで大きな声で「おなまえちゃーん!」って私のことを呼びながら千切れて飛んでいくのではないだろうかと心配にはならないにしろまぁよくもそこまで…とあきれる程度に両腕をぶんぶんと振っていた。周りの視線を受けながら私は急いであきらくんにかけよるとすごく満足そうに笑って私の肩をぽんぽんっと叩いた。なんだね君、その態度は…

スーパーまで歩いていく途中に今晩のメニューを訊いてみると「んー何にしようかなー?」なんてとぼけた事を抜かすあきらくん。小さい子みたいに人差し指を口元に当ててわざとらしく「うーん」なんて悩んでいる様が多少腹立たしいけど、ああ、あきらくんてこういう人なんだよなぁって納得してあきらめている自分がいた。まぁ、スーパーで食材を見てから決めればいいことだしねー。って、あきらくんが作るんだよね?なんかそんなにも適当な感じでいいのかな?東くんにご馳走してあげるためのメニューがそんな簡単なメニューでいいのかな?


「あ!これ見てすごい!トマトが黄色いよ黄色いっ!」
「あぁ、お肉料理に添えたりすると見栄えがいいかもね。買ってく?」
「ううん、要らなーい!今日はお肉な気分じゃないしー」
「そーですか…」

嬉々としてタイヤの回りの悪いカートをがっしゃんがっしゃん泣かせながら少し寒すぎるスーパーの生鮮食品コーナーを率先して更新していくあきらくん。カートまで使っていったいどれほど買い物をする気なんだろうか…。後ろをついて歩いていると、何がおもしろいのか目に付いた食材を手にとっては私のことを呼びしゃべりたいことだけしゃべって結局もとあったところに戻すとか言うまさに迷惑行為極まりない買い物という散策を続けるあきらくん。これは…なんというか、あの子メニュー決める気ゼロだな…絶対…私がちゃんと考えておかなきゃ…。東くんに申し訳ないものを無理やり食べさせるわけには行かない…特にあきらくんには東くんが風邪を引いたときにやっちまった前科がある…。さすがに彼女の私もついてきていてそういう粗相はできないので、ちゃんと考えよう…なにがいいかなぁ、あきらくんはハンバーグとか好きだけど…ひき肉安かったらハンバーグにしてさっきの黄色いトマト…あ、だめだ。あきらくんお肉の気分じゃないって言ってたな…あのわがまま坊主め…

「あ、たまご」
「ん?」
「おなまえちゃん!たまごッたまご!!」
「わかったわかった、あきらくん声が大きい…!!」

私より数十歩先を歩いていたあきらくんが電池が切れちゃったみたいにぼうっと立ち尽くしていた。静かになったカートに手をかけたまま棒立ちになったあきらくんはそれでも驚くくらいやっぱり大きな声で私を呼んだ。大きく開かれた口がちょっと間抜けで笑えた。

あきらくんに近寄ってみれば見ての通り聞いた通りそこにはたまごが売っていた。銀色の骨組みがむき出しになった特徴的なカートに少しだけ積まれたたまごには『本日限り!特売商品ッ!』と、心躍らせる文句が赤字でこれでもかって言うくらいに謳われていた。もちろんその隅にはおまけみたいに(お一人様お一つ限り)の規制がかかっている。たまご、たまご…万能なたまごちゃん。冷蔵庫に常にあってほしい食材のひとつだといっても文句を言える日本人はいないのではないだろうか?もちろん漏れることなく私もたまごは常に冷蔵庫にストックしておきたいタイプの人間なわけだけど最近たまごって高いんだよねーって、今はちょうど自宅にたまごは無い。お一人様お一つ限り…これはチャンスだ…。

「ねぇねぇ、たまご1パック98円って安いの?」
「ええ?!めちゃめちゃ安いよッ!!わかんないのあきらくん?!」
「へー!じゃあさ買ってこうよッ!そして夕飯のメニューはオムライスだッ!!」

かしょんかしょんッとあきらくんが2つたまごパックをかごに入れて、チキンライス用の鶏肉を探しに行ってしまった。やったー!たまごゲットー!そしてオムライス3人分作ったってまさか1パック使っちゃうようなことは無いだろうし…余る1パックは私が持って帰っていいんだよねッ!!よかったー買い物ついてきてッ!!




買い物も済ませて、あとは東くんのおうちに行ってお料理をして一緒にご飯を食べて…きっとそのまま飲み会になるんだろうなぁ…なんて考えながら買い物かばんを肩にかけて夕日の差す坂道を登る。あきらくんは優しいけど、ちょっとずれているのでこういうときに女の子に重い荷物なんて持たせられないよ…!!みたいな男の子らしさは持ち合わせていない。今だって自分ばっかり先を歩いて…歩いてっていうか、両手を広げて「ひこうきー」と長い坂道を滑走路に見立ててか頂上まで楽しそうに駆け上がっていってしまった。だからっていやな気持ちになったり大切にされてないなーって不満に思ったりはしない。だってあきらくんってこういう人だ。自分ばっかり楽しいことして思いついたことして自由なのに、そんななかでも私や東くんのことをうんと大事に思ってくれている。わがままがエスカレートすればするほど、それってあきらくんに信頼されてるって…証拠なんじゃないかなーって思えば、休日の夕方も肩に食い込む重たい買い物かばんも長い坂道だって大した事じゃないって思える。

頂上で立ち止まって大きな夕日を見てニコニコしてるあきらくん。わあ、珍しい…あきらくんが景色をゆっくり楽しむだなんて…。ちょっと声を張ればあきらくんに届く距離まで坂を上ったところであきらくんに向かって声をかける。うれしそうに振り向いたあきらくんは、それが彼の癖でもある陽気なジェスチャーというか愛らしい仕草で背中のほうで両手を合わせて胸を張るようなポーズをとる。夕日の産み出すコントラストがそれをいつも以上に魅力的なもののように感じさせた。小高い吹きさらしの坂道でざぁっと風が吹き抜ける。

「なんかうれしそうだね、あきらくん」
「うん!さっきね、レジのおばちゃんが言ってたんだけどねッ」




おなまえちゃん、レジに並んでる時に買い忘れがあったの思い出して戻っちゃったでしょ?その時、お会計の計算はじめてたレジのおばちゃんが1つのかごにたまごのパックが2つあるのを見て申し訳なさそうに言ったの。

『すみません、特売のたまごなんですが…特別価格でお買い求めいただけるのが、お一人様お一つではなくて一家族にお一つなんです』

レジにあったチラシを僕に差し出して言ったの。だから僕ちがいますよって、おなまえちゃんと僕は苗字も違うし、住んでるところも違うし、だからおふたかぞくなんですよって。そう言ったらまたレジのおばちゃんがごめんなさいって私はてっきり…って恥ずかしそうに笑って、たまご2つとも98円ってレジ売ってくれたの。おなまえちゃんはちょうどその後、サランラップもって戻ってきたんだけどねー




「こうやってなってくのかな?ふうふって」

ちょっとだけ恥ずかしそうに笑って、坂道をあどけないスキップで降りてくるあきらくん。私は驚きとかなんというか…言い得ない感動のような数え切れない激しい感情の波に揉まれていっそぼうっとしてしまった。すその長い服で手元が隠れてしまっているあきらくんがそれを自分の口元に寄せて女子高生みたいな仕草を見せる。きゃー照れちゃうーとかふざけたことを言いながら立ち尽くした私の肩から買い物バックを下ろした。
急にふっと軽くなった肩に少しだけバランスを崩しそうになったけど、あきらくんが私の手を片方だけ握って買い物かばんの片側を持たせる。反対側はもちろんあきらくんが持ってて二人の距離の半端さに買い物かばんが間抜けに口を開いた。まだ驚きに口を利けない私にあきらくんが笑いかける。

「あれ?一応プロポーズっぽくとってもらってもいいんだけど?」

くすくすいたずらに笑ってかばんごと私を引っ張って坂を上るあきらくん。愉快そうな声色で「おなまえちゃんったらつれないなー」ってわざと大きなため息を漏らす。あきらくんに連れられて坂を上り始める私の足はやっと現状に追いついてきたみたいで嬉しさと恥ずかしさと緊張にかくかく震えてた。なんて返していいのかわからない。まだ、そんな…急にけ、けけ…結婚…だなんて…!!

「で、でも…そしてら、たまご1パックしか…買えなくなるよ?」

少しだけ震える声でやっと搾り出した言葉がとんでもなく色気の無い言葉で、何か言わなきゃって思ってそれこそ何でもいいからって必死になったけど、まさかそんなこと口走った自分を呪い殺してやりたいと思った。しかも今のせりふ…バッドエンドの選択じゃない?遠まわしに断っちゃってない?!ああああ!!私のバカぁ!!

「じゃあ、もうちょっとこのままで」

自分の失言に泣きそうになっているとあきらくんが振り向いて、不意打ちにキスを降らせてきた。急に縮まった距離にかばんの中で2パックのたまごがゆれて小さくかしゃんと鳴った。



(って事でこーちゃんは僕たちの養子ねッ!!さぁお父さんって呼ぶんだッ)
(どういうことだよッ?!)
(お母さんって呼んでね?いいの、時間がかかったって…)
(何年経とうと同級生の事お母さんとかお父さんとか呼べないよッ!!)


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