女の子の淫語にたじたじの田沼
この間、一目惚れした田沼要くんに思い切って告白してみた。 同世代の男子に比べると貧弱そうに見える細いからだ。真っ白で細長くて、ちょっとだけ頼りなさそうに見える。黒い髪はふわふわで、ちょっと長めの前髪は優しい瞳を撫でるようにはえそろってる。 「好きです!田沼くん!わたし田沼くんが好き!!」 校舎裏に連れ出した彼に、もうほとんど叫ぶように言い放つと、田沼くんは最初口をあけたままぼうっとしていた。わ、可愛い…。返事は…?って思ってちょっと顔を覗いて見ると、田沼くんはさっと顔を赤らめてぱっと自分の手で口をふさいだ。な?!どうしたんだ?! 「あ、の…おれ…」 嬉しい。田沼くんがつぶやいた言葉に私の体液は、血液から膣分泌液にいたるまで全てのものが蒸発してしまうんじゃないかって思うくらい体が熱くなった。う、わは…た、田沼くん…かわええ… こっそり田沼くんのお家に侵入成功…っていってもね、あれだけどね!田沼くんのお家、お寺さん?だからね!ある程度のところまでは誰だって入っていいんだけどね!もちろん漏れなく私だって入っていいところなんだけどね!!こういう…プライベートなところ(田沼くんの自室の前)は…はぁ、はあ…!!…はぁはぁはぁ…!!田沼くん…!!ああん…!!! 人差し指を、ぴっと立てて、口の中に入れる。ねっとりとベロで舐めあげて、私の指を満遍なくでろでろにぬらす。ああ、なんだかエロい…えっちだわッ!! てろてろに濡れて光った私の人差し指を…た、田沼くんの…田沼くんの…!!お部屋の仕切りの障子につうっと突き刺す。ずぶッと音がして、ずりずりずり…っと指が田沼くんのお部屋に…ああ!侵入していく…!!わたし、私の指…!!田沼くんの中に…田沼くんのお部屋の中に…入ってるぅッあっあああ…!! 「みょうじさん…」 上手に開けた覗き穴。私がとうとう田沼くんのお部屋を覗こうと、荒く熱くなる息を抑えつつ四つん這いになって居たら、サンっと障子が開いて田沼くんが現れた。 「ぼ…ボンジュール、田沼くん」 田沼くんは四つん這いの私を見て、片手で顔を隠してため息をついた。ああ、そんななまめかしいため息…!!ってか、う、わッ!!田沼くん!田沼くん私服…!!私服シンプルえろッ!!ハーフパンツって!!膝ッあ!!なめ、膝舐めッ!!膝ァア!!あッあん…田沼くッあ膝ンあ…!! 「声に、出てる…」 「え?!」 心底恥ずかしそうに、田沼くんが搾り出したような、苦しそうな声を出した。え?声に出てるって…?あ、え?!わ、わたくしか?!私のこの、心の叫び的な…自分会議の中で導き出された洗練された個人的意見と言うか…!!アレが田沼くんに聞かれていたのか…!!死ぬ…!! 「と、とにかく…いらっしゃい。中入って?」 「あ、ああん…入ってだなんて…田沼くん…」 「だから声に出てるって」 「あ、すまんそん」 わあ、田沼くんの…田沼くんのお部屋だー。お部屋お部屋、田沼くんの…うふふ、ふふふふうふふ!!なんというか、お香?お線香?みたいな香りが、かすかに…心地いいなあ。ってか!!田沼くんの部屋なんも無ぇ…!!!!シンプルイズザベストな世の中ですが…!!ベッドに本棚に学習机だけって…!!すげぇ!!私なんて自分の部屋に何か良くわかんないものとかいっぱい保管してあって、いっそ、倉庫なのに…!!やっぱり、田沼くん見たいにしっかりしてると、ちゃんと生理整頓とか…出来るんだなぁ…大人だなァ…かっこいいなァ… 「何か様だった?」 「へ?あ、ああ…えっと…」 「えっと?」 向かいに座った田沼くんが、にこっと笑って首をかしげて、私の次の言葉が出やすいように、優しい相槌を返してくれる。う、わ…かっこいい… 「あ、の…それは」 「うん」 「た、田沼くんに…会いたくって」 田沼くんの私生活を覗いてやろう、うっへっへっへへへ…だなんて言えなくて、もっとその感情を綺麗に可愛らしくして伝えてみる。と、田沼くんは、ぷわぁああって魔法みたいに顔を真っ赤にして、ぱっと口を押さえてしまった。何だそれ?!癖なのかな?!めちゃめちゃ可愛い…!! 「あ、ご、ごめんね!俺、なんにも気ぃ遣わずに…お茶でいい?」 「あ、いえいえ!お構いなく!!」 そう言っても田沼くんは聞かなくって、一言断ってからばたばたばたっとあわただしく部屋を出て行ってしまった。あーあ…ひとりぼっち〜…。ってさ、私…。こんな簡単に、何のためらいも無くさ…男の子のお部屋に上がりこんじゃっていいのか?アレじゃないのか?男の子は狼なのよ、気をつけなはれや!!じゃないの?いや、でも…田沼くんだし…?あ!いや、でも待てよ…!!だってさ!田沼くんがさ! 「部屋付いて来たって事は、いいんだよな?」 「え…田沼くん?…ちょっと、私」 「みょうじさん、じらさないでよ?俺だって男だよ」 「やッ!田沼くん…やめッあ…!!」 「ふふ、みょうじさん…可愛いぜ」 みたいな?!いや、最後の「可愛いぜ」って、「ぜ」は無いよね!!わはは!田沼くんが「可愛いぜ」って、っぷ、笑っちゃう…うぇっへっへへ!!っていうか、無いよね。本当に。田沼くんに限って。そういう、エッチな展開は無い。絶対って言っていいくらい。だって、田沼くん、お坊さんの息子さんだよ?絶対に無理でしょ…。というか!私的にはさ!田沼くんにはそういう…性欲的なものって無い…というか、あんま強引な感じじゃないって言うか…。そういう衝動は自分でどうにかできるタイプだと思うんだよね!あ、オナニーとかそう意味じゃなくて、ああ!!でもそれもとっても素敵だけど!いいんだけど!!違くて!! なんか、女の子優先してくれそうって言うか…いや、女の子って言うか私。私が嫌がったら、絶対に何もしないで居てくれると思う。こういうのって、女の子の勝手な妄想なんだけどね…いや、まぁ。私って一般よりも妄想強いほうなんだけどね…ほら、田沼くんって私の中ではうんこしないタイプって言うか?おしっことかもしないし、おならもしない系?してもいい匂いみたいな?故に田沼くんの精液は甘い…と 「みょうじ…!!」 「わッ!田沼くん…!!」 「声でてるってば!!」 「や、やだ!!田沼くん!声でてるだなんて…!!そんないやらしい言葉!!どこで覚えてきたの?!私にも教えて!!というかむしろ、私の身体に教え込んで…!!」 「〜!!」 お茶のお盆を持った田沼くんがいつの間にかお部屋に戻ってきてた。あ、また、声に出しちゃったよ…ごめんね田沼くん…。なんかちょっとプンプンした田沼くん(可愛い)が折りたたみ式のテーブルに、ことんっとお茶を載せてくれる。 「わ、いい匂い」 ふわっと香る、お茶の匂い。紅茶派の私には、ちょっと新鮮な…少しだけ苦味のある爽やかな匂い。ああ、邪気が洗い流されそう…ん?邪気が無くなったら、私には何が残るんだ? お茶を両手で包んだまま、自分の中で自分がいかに穢れた人間なのかと言う事に思考をめぐらせていると、ずっとお茶をすすっていた田沼くんの「ふ」っと漏れた息が聞こえた。うわ、なんともセクシーな声… 「な、なに?」 「え?!あ、いや…!!」 じぃっと見られていて、ちょっと恥ずかしくなったから私から田沼くんに声をかけてみる。田沼くんは、またぱっと顔を赤らめて私から視線を外した。う…そんな、可愛い反応されると…私だって、照れちゃう…。う、なんか…話題を…。 「あ、そういえば!田沼くんって本好きなんだね?」 「え、ああ!うん…嫌いじゃないよ!みょうじさんは?」 「あ、え?!私?…あんまり、マンガばっかりかな…」 「そうなんだ、恋愛物?」 「あ、わかる?そうなの、少女マンガばっかり」 えへへーって笑う。田沼くん、私の事なんでもお見通しなのかな?恋愛物が好きだって、何でわかったんだろう?へへ、なんか嬉しいなァ…くすぐったい感じだ…。田沼くんは、なんでかまた顔を赤くして、ぱっと立ちあがってしまうと、私の背にある本棚に行ってしまった。そ、そんなに本大好きなのか…?! 「しょ、小説って言っても、難しいものばっかりじゃないんだ。もちろん、女の子が読んでも面白い様な、恋愛系の物語だってあるし…!推理小説なんかは、性別なんて関係なく面白いし…ああ!それに、伝記とか!昔の人の話だって…」 少しだけ上ずった、急いだような声で田沼くんが本の魅力について語ってくれるんだけど…私としては、そんなことよりも、今、目の前にある田沼くんの飲みかけのお茶のほうが気になるわけでして…。た、田沼くんと…か、間接…間接…!!う、うきゃあああ!!そ、それ以上は…っは!!それ以上は言っちゃいけないわッ!私!!おなまえ!落ち着くのよ!!…ああ!ほら、田沼くんがせっかく!私に本の魅力…本の…ああ…。 ちらりと振り返ると、田沼くんはまだ少し赤い顔をして、本を何冊かぱらぱら捲っていた。細長い指…綺麗に切りそろえられた大きな爪はつやつやと光ってる。本のページを指先でなぞる…なぞ…ああ!!わ、わたしも…田沼くんに、なぞられたい…ああん!!田沼く、田沼くんの指で…本みたいに!!なぞられて、捲られて…読み解かれたいぃッあッあんんん…!!!! 「頼むからみょうじ…!!」 「む、ごめーん…」 お向かいに戻ってきた田沼くん。いい加減にしないと私、嫌われちゃうな…。ああ、でも、これ…。口に出ちゃうのって、田沼くんの事が好きだから故にっていうか…そんなの直接言うの恥ずかしいけど…田沼くんにもわかってもらいたいなァ…わかってもらえたらな…。 「ん?」 「どうしたの?田沼く」 「みょうじさん…お茶、俺のと代えた?」 「え…?」 「あ、いや…ごめん。へんな事言って…、でも俺、もっと飲んだ気がしてたんだけど…」 湯飲みを覗いて、田沼くんが首をかしげる。あッあああんッ!!たッぬまくッ…田沼ァアア!!可愛すぎるぅう!! 「ち、ちがうの!!あの、お茶に田沼くんの唇が触れたのかなーとか、田沼くんの唾液とか唇のなんか細胞とか粘液的なものお茶に溶け込んでいないだろうか?!とか、いっそ私の何かが溶け込んだお茶を田沼くんの口内に、体内に…!!とか、あの!!そういうのは!!考えていなくて…!!本当に…!!ただ、純粋に…!!」 「…みょうじ、さん…」 「あああ!!ごめんね!キモいとか思うよねッ!!エロい事考えすぎだとか!変態過ぎとか!…ごめんね、でも嫌いにならないでね?!あの、私ほんとうに、その…純粋に」 田沼くんと間接キス…出来たらなって、思って…。そういうと、田沼くんは、ガタガタ!!って大げさに立ち上がって、やっぱり顔を真っ赤にした。うー、えーっとって言葉を濁した田沼くん。ああ、いいんだ…キモいって言ってくれて構わないんだ…ただ嫌いになって欲しくないだけで…ああ、もう!私ったら!なんだってこんな気色の悪い性格をして居るんだ?!どうして変な妄想をしては、ソレが自然と口をついてしまうんだ?!ああ、もう!!私なんて…私なんてェ…!! 「そ、そう言う事は…もっと、ちゃんと…段階を、経て…から」 WHAT?田沼くん…?! 「今日は、もう送るよ」 「へ?あ、うん…ありがとう」 帰り道、田沼くんは私よりもちょっと前を歩いて、八つ原を抜けていく。夕日が落ちたばかりの八つ原は、とっても幻想的で、ちょっと怪しくて、綺麗で…もっとゆっくり景色が見たかった。から、私は、田沼くんに「待って」って言いたかった。けど、なんだか、田沼くんは急いで居るみたいで…そんなこと、迷惑かな?って思ってはばかられた。 ちょっと遠く感じる田沼くん。今日はたくさん迷惑かけちゃったしな…嫌われちゃった?いや、でも…さっきの田沼くんの、言ったこと…本当かな?それって…いつかは、私と…。田沼くんも、私と、そう言う事したいって…思ってくれてるのかな?だったら… 「田沼くんっ」 「ん?」 振り返った、田沼くんの手をぎゅっと、握ってみる。あったかい、大きな手だ。 「もっとゆっくり!」 叱るように、お願いするように。田沼くんの手をぐいぐいっと引っ張ると、やっぱり。暗くてもわかるくらいに田沼くんの顔は赤くなる。可愛くて、私まで赤くなりそうだ。 「みょうじさんは…」 私から視線を外した田沼くん。前髪が目にかかっちゃって、表情が見えづらくなっちゃった。 「へんな事言うくせに、急に可愛い事言うから困る…」 尻すぼみに田沼くんがつぶやいた言葉。かすれた声が、彼の余裕の無さを感じさせる。つないだ手が、さっきよりずっと熱く、汗ばんできた。やだ、田沼くん…。私だって困る。 |