メローネはひねくれアサシーノ
ソファの上で膝を抱えて映画のDVDをみているとキッチンでなにやらごそごそやっていたメローネが1つのグラスと1本のワインを持って来た。ちらっと見遣ると、メローネの視線はテレビに映った拳銃をぶら下げてハットを深くかぶったマフィアたちの映像に熱心に注がれている。こんっと小さな音を立ててワインのボトルをテーブルの上に置くと、そのまま手元のボトルは一切見ずに、器用にコルクを開けてしまう。ギャングとマフィアの違いが、私には分からないけど、メローネはこれが面白いのだろうか?というか、グラス1つって……私には飲むな、と?

「自分の分だけ?」

そう問えば、グラスにいっぱい、どっぷんどっぷんと波を打たせながらたっぷりと注いで、私の前にスッと差し出した。器用なことに1滴もこぼさずに、信じられないことにずっと映像に見入ったままで。お礼を言って、ワインをこぼさないようにグラスを受け取り、くちびるを触れる。くちびるがすこしワインで触れてから「メローネの分は」と聞こうとしたら、手にしたボトルをそのままぐいっと煽った。ごくんごくんとメローネの喉がワインを飲み下すと、ボトルの口とメローネの唇の間からボトルの中に空気が入り込みボコンボコンと不吉な音がした。乱暴に飲むものだから、こぼれて垂れた赤い液体が、メローネの白い肌によく映えた。舌を突き出して舐めとってやりたい気持ちを抑えて、自分もワインをひとくち含んで、ごくんと飲み下す。私の隣に座ったメローネはボトルを手に持ったまま腕を広げて背もたれに大きくもたれた。背もたれの上でかるく握った手を、開けば指先が私に触れそうな距離。

映画のストーリーは銃撃戦とベッドシーンをテンポ良く繰り返し、次第に事の深層に辿り着いていく。私の手にあるグラスのワインも順調に量を減らし、メローネはピクリとも動かなかった。最後のひとくちを口に含んでしまおうと傾ける。舌先にワインが触れたところで、そういえばと思い出した。ボスの女と駆け落ちを決め込んだ若い男と、その女がベッドを激しく揺らしてセックスに勤しんでいる最中。ボスの部下が1人、部屋に乗り込んできて、迷わず女を銃弾3発で撃ち殺した。ばん、ばんばん。理由は、その若い男は有能で、彼を失うことは、組織の損失になるからと言うわけだ。黒ずんだちくびを晒したまま、どうにか若い男の腕の角度でアンダーヘアが隠れているという格好で女は死んでる。

「もしも私が堅気の、つまり一般の男性と結婚したらどう思う?」

ソファの上の自分の足の指をばらばらに動かしながらそれを眺める。メローネが私の話を聞いているのかどうかは分からない。同じ質問を、なんとなくプロシュートにしてみた事がある。彼はかぱっと口を開けて、口の中にあったタバコの煙をふわあっと空気の中に溶かし逃がした。私が答えを待ちながら、空中のその煙を眺めていると、プロシュートはふーっと息を吹いてその煙をばらばらに蹴散らした。「めでてぇな、と思うぜ」そう言って私の事をじっと見つめてから、タバコをくわえなおしてちょっと笑った。さすが兄貴か、と後腐れ無さに感心したが、今思えばあの「めでてぇな」はどんな意味の「めでたい」だったんだろう。

「おなまえが一般の男性と結婚したら?」
「あ、聞いてたの?」

メローネはワインのボトルの残りをザァっと飲み干して、ボトルの口を演練を描くようにべろりと舐めた。ボトルの口の中に舌をねじ込み、粘着質なだ液を流し込むように前後に動かし、ずぽんっと下品な音を立てて舌を引き抜いた。

「どんな子どもが産まれるのかなあ、と思うね」

メローネに振り向こうとした瞬間、その手が私の後頭部に回りこんできた。ぐいっと頭を引き寄せられて、無理な格好でキスされる。持っていたグラスは、驚いて落としてしまい、残っていたワインはカーペットにシミを作る。ゆっくりと侵食するように赤いシミが広がっていく。どうして、いま、キスなのか。メローネの体を(無理だけど)押しのけようと腕を伸ばすと、体同士の隙間で、メローネが片手でペニスを扱いているのが見えた。キスは次第に乱暴になって頭を押さえつけていた手はいつの間にか私の首を掴んで、ソファに押し付けられていた。

「で、君の好みは?」

もしもの話だということ、完全に忘れているギラつきながらとろけた瞳にぞくりと背筋が凍った。どんな子どもって……とんでもないあまのじゃく。素直じゃないのが可愛くて、垂れ下がった前髪を掴んで引き寄せ、下唇を噛み切ってやれば、彼は嬉しそうに笑った。

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