まるななにーきゅう笠松くん
夏休みが始まったらすぐに誕生日だねってみょうじが笑った。あれは期末テストの最終日だったか?暑いと呻って乱暴に後ろ髪を掻きあげたみょうじの、汗ばんだうなじと、そこに張り付いた数本の髪の毛が途轍もなくえろかった。うわ、えろ。と思って、先週クラスメイトからまわされてきた浴衣特集のエロ雑誌の事を思い出した。うなじもいいけど、俺はやっぱどうしようもなく胸が好きだ。浴衣の前がはだけて、胸が片方だけ見えてるのとか…あのポーズ?構図?考えた奴すげぇと思う。「笠松くんは何か欲しいものある?」飛び跳ねるように振り返って笑うみょうじは、夏の太陽のエネルギーを直通で摂取してるのかと思うくらい眩しくてわくわくしててパワフルだ。当たり前だけど、飛び跳ねた拍子に上下に揺れるみょうじの胸は、雑誌の女みたいに片方だけ胸が飛び出しているわけでも、(何故か)濡れた服が体に張り付いて膨れ上がった乳首の形が分かるわけでもないのに、とんでもなく俺を動揺させた。巨乳って呼べるサイズじゃない。マニアを喜ばせるほど小さくもない。それでも、平均的な成長を遂げたみょうじの胸は、俺にとっちゃ2つの兵器だ。やわらかくてあたたかい、俺の思考を機能停止させるそういう兵器だ。

「別に」

誕生日プレゼントに何か欲しいもの無いかって聞かれたのに、胸の事ばっかり考えていたことが恥ずかしくてそっけなくしてしまった。もちろんそんなことで機嫌を損ねるみょうじではないし、ギクシャクしちまうような関係でもない。ただ、罰が悪くて(あとエロい事考えちまって)みょうじを見れなかった。「つまんないなー!」と笑い飛ばされて「私なら当たりつきの宝くじ!」とみょうじの話は勝手に脱線していく。お前、そんな…宝くじをアイスの棒みてぇな言い方しやがって…。1億円あったらどうするだこうするだとくるくる回りながら心底楽しそうに夢の話を繰り広げるみょうじに、釣られるように寄ってきた森山の1億円談義でますます話は俺の誕生日から遠ざかっていく。「1億円で遊園地を買ってたった1人の女性のためにメリーゴーランドと言う名の運命を乗り回す」「それだとなんか森山くんが1人でメリーゴーランド楽しんでるだけじゃない?」「あれ?あ、本当だ。じゃあ合コンの費用にあてるわ」「急にリアル!!森山くん急に冷めたね?!」ああ、なんてあほな会話だ…

あほな会話を耳だけで聞きながら、俺の欲しいものについて考えてみる。新しいバッシュ?は、こないだ小堀と買いに行ったばっかりだし、ボール?も、今持ってるので十分だし…好きな洋楽の輸入版CD?は、あれ中村が誕生日にくれるって前もって言ってたし…あー、好きなゲームのシリーズの続編…はやってる時間ねぇし…、偏差値、とか…無理だし…。みょうじを見遣れば目が合って、脱線した話がどうなったのしらねぇけど、なんか必死であほなジェスチャーを送ってくる。森山とああでもないこうでもないと白熱してる…あいつらあれで成績いいからなあ…あー帰りにルーズリーフ買っていかねぇと…気に入ったルーズリーフが実はどこでも売ってるメーカーじゃなくて、買いに行くのが面倒で、でも途中でかえるのやなんだよなーと文句言いながらみょうじ連れて買い物に行くのがささやかなデートみたいになってるこの頃…夏になって、あたりまえにお互い薄着になって、肌と肌が触れることが増えた。欲しいもの。いっかい口でしてみて欲しい。俺が出したの、そのまま飲めとは言わないから、ただちょっとくちびるで触ってみて欲しい。へたくそでもいい。むしろ上手いと困る、たぶん。みょうじが上で、そういう体位でしてみたい。そん時は、浴衣で、片方だけ胸が出てるとすげぇいい。こないだ森山と見たネタっぽいAVの、えげつないプレイとか…は、さすがにさせられない…。欲しいもの、ほしいもの…あんまりみょうじの口から言われると、思考が素直になりすぎる。そういう自分が恥ずかしくて、でもなんか、ちょっとどっかで微笑ましくて?呆れて笑える。

課題は一緒にやったほうが盛り上がる、という、課題やるのに盛り上がりって必要なのか分からんが、とにかく色鮮やかなぴったりしたタンクトップと、とろけるようなシャーベット色のゆったりさらっとした短パンで遊びに来たみょうじを追い返せるほど、俺の精神は強靭じゃない。クーラーの利いた部屋で、たまに麦茶の氷を鳴らしながら課題に勤しむ。ローテーブルの下で素足がぶつかったり、みょうじがシャーペンを握りなおす仕草に、いちいちドキドキした。課題に集中して少し開いた唇とか、大きく開いた輝く胸元とか、急に飛び出すくしゃみとかに心臓が跳ね上がる。誕生日プレゼント。口でして欲しい、浴衣で片方だけ胸を出してみょうじが俺に乗っかる体勢でやりたい。当たり付きの宝くじで1億あてて、メリーゴーランドでも観覧車でもなんだっていいから2人っきりになって、どうにかなりたい。

「あ、そうだ!お誕生日おめでとう!」

弾かれたように立ち上がり、自分のリュックから何かごそごそと取り出すみょうじ。何が始まるのかと思いきや、取り出したるは小さめのウクレレ。それが正式なポーズなんだろうが、ふざけて肩をすくめるような格好で、胸の前にウクレレを持ち、弦をつまんでぽろりぽろりと音を確かめる。思った事が済んだのか、あっけにとられている俺を見てにっこり笑い、口を開く。「きみとでーあーたきーせーきが こーのーむねにあふれてるー」調子はずれのウクレレをごまかすように、リズムを取るように体を左右に揺らしながら、ずっと緩んだ口元で歌を歌うみょうじ。そのうちに立ち上がり、くるくる回ったり、部屋中を歩き回ったり、しまいには床に座ってる俺の背中に尻を下ろし、もう笑い声なのか歌い声なのかわからなくなってきている。誕生日に歌う歌じゃねぇだろそれ。突っ込もうにも、下手くそなウクレレと、背中に乗った尻の柔らかさと、体中に響く笑い声が、全部がくすぐったくて、俺も笑うしかなかった。頭ん中支配してたエロい事とか、偏差値とかそういうの、すっからかんになるくらい笑った。

ずっとそばで、笑っていて欲しい。そう歌いきったみょうじを背後から引っ張って、手繰り寄せ、赤ん坊でも抱くみたいな格好で、腕の中に閉じ込める「みょうじ下手くそ過ぎ」「来年までには聴けるようにしておくよ」笑って体をちぢ込めたみょうじの膝が、思いっきり俺のこめかみを蹴りこんだ。めちゃくちゃいてぇし笑えるし、みょうじなんて声がでないくらい笑ってでも懸命にごめんごめんって手合わせてて、あーもう、なんだ。みょうじとなら、空も飛べそうだ。

!HAPPY BIRTH DAY !

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