可哀相で可愛いへし切り長谷部
旧・従順な猫であれ
「ねぇ長谷部、知ってた?私って処女なの」

遠征結果の報告書をしたためつつ、ふと畳み二枚後ろで堅く座してる長谷部にこぼした。まだ日は高くて中庭で非番の短刀たちが声をあげ遊びまわっている様子が遠目に伺えた。見ずとも長谷部が神経質に眉をひそめるのが分かった。きっと相手が燭台切だったら「女の子がそういう事言っちゃだめだろ」って、人差し指を立ててメっしただろう。それはそれで面白かったかも。でもとにかく今日の近侍は長谷部で、彼は真面目でお堅く他とは少し違うから本当はとっつきにくいと思っていたのだけれど…ずっと報告書とにらめっこして頑張ってる私の遊び相手くらい、してくれるだろう。よく、主命とあらばって言うし。私の言うことなら何でもきいてくれたりするのだろうか?筆をおいて座ったまま長谷部を向く。着物が畳を擦る音がした。「ねぇ、長谷部、知ってた?」怒っているのか少し顔を下げているもんだから、さてどんな顔をしているのだろうと、覗き込むように首をかしげれば「存じ上げませんでした」とか細い声で答えた。あら意外。怒られるかと思ったのに。キーキー怒鳴ってくれれば十分に満足で仕事に戻れたというのに、存外可愛いところを見せてくれるじゃないか長谷部。足を崩して、ずいずずいと畳の上を這うように長谷部に近づけば、少し仰け反り私から避けようとする。「ねぇ長谷部、あなたは経験あるの?セックス…ん?交わり?まぐわい?男女の…そういう、ね?」無論、刀だった頃の彼にそんな経験があるはずはないんだけど、いや、狂気的な持ち主が相手の女を殺すこと前提で長谷部の刀身を抜き差ししていた可能性は完全に否定しきれないけど…そんな刀剣の付喪神がこんなにお堅い性格であるわけが無い…。でも、正直、非番の日は許可さえ取れば外出できる。買い物にいくもよし酒を飲むもよし、店さえ知っていれば女だって買える。十分な小遣いはやっている。事実、和泉守兼定なんかは前の主の影響か、好んで花街へ赴くそうだし。長谷部だって憂さ晴らしでも色恋でもそういう所ですっかり筆おろしは済んでいるのかも知れない。あるいはどこかで女役に興じているかもしれない。耳年増な私としては、色々と気になって仕方が無い。「いえ、俺は…」私の視線から逃れようと、いつもの切れ目が嘘のように、困惑を見せてきょろきょろしている。私が言うのもなんですが長谷部いますっごい処女。かわいい。「じゃあ長谷部は童貞なの?射精したことないの?溜まったりしないの?朝勃ちとか…あ、朝勃ちって分かるかな?朝起きたときに知らないうちに勃起してるの言うんだけどね?そういうのも無いの?エッチな、なにその妖艶な?淫らな?夢とか見ないの?」正座してる長谷部の膝に手をつき身を乗り出す。私から逃れようとして長谷部はもう後ろに倒れこんでしまうそうな格好だ。それでもしっかりと筋肉がついた体は震えることもなく、片腕だけで自分の姿勢も私の体重も支えてしまう。もう一方の手で、もう勘弁してくれとでも言いたげに、前髪をくしゃくしゃに掴み、顔を見られないようにうつむいてる。男の人にぞくっとしたのは初めてだ。これがアレか、発情なのだろうか「ねぇ、長谷部、顔見せて」白い手袋をまとった手に私の手を添える。長谷部の手が少し冷たくて、自分の体が熱くなっていることが分かる。その手を取って、髪に絡めた指をほどいてやれば抗うこと無く私の手がそうするままに、私の指に指を絡め合い、長谷部の膝の上に跨った私の股ときゅっと力をこめている長谷部の股間の間に収まった。潤んだ瞳の理由はわからない。恥ずかしいから?欲情してるから?それとも泣けるほどに私が嫌だから?くしゃけた前髪の下のまっさらなおでこに、たまらなくなって舌を這わせた。ちゅっと優しくキスしてやるべきだったのかもしれないけど、処女の私にはどうしたら長谷部が嫌がらないかなんて分からないし、自分の昂りを抑えることもできなかった。べろべろと長谷部のおでこを下から上、上から下、右から左左から右へと舐め上げしゃぶりつき音を立てて吸い付いた。いつのまにか髪の毛まで食べてしまっている事に気が付いて、ぢゅうっと最後にきつく吸い付いてから、唇を離した。「ねぇ、長谷部、私の言うこと、なんでもきく?」

男の人の誘い方なんて分からないし、主導権を彼にやる気は無かった。これは男女の問題ではなく性癖の問題なのかもしれないけど、私は触られるより触るほうが好きな人間なのかもしれない。できれば長谷部が触るより触られるほうが好きだったらいいなーと思うよ。お互いに服の上からだけどとりあえず長谷部の膝に乗ったまま、私の性器がある部分と長谷部の性器がある部分を重ねて体重をかけたり前後に揺すったりしてみる。私は特に気持ちが言い訳ではないけど長谷部はどうだろう。完全にうつむいてしまっているけど、触れ合っているところが硬く熱くなっているということは悪くは無いのかな。どうしてやれば長谷部は素直に喜ぶだろうか…その手をとり私の胸に押し付けてみる。鷲掴めばいいのに、手の甲で撫でるみたいにしか触ってこない。もしかして私の胸はそんなに気持ちよくないのか?着物のあわせを崩して後ろ手にブラジャーのホックを外してカップをずらす。長谷部の白手袋を絡めていた指でするっと外す、つもりだったけれど、手袋があたたかく湿っていて長谷部の手の平にへばり付いてなかなかうまく外せなかった。指の1本1本から外してやると、なんだか長谷部はお姫様みたいだ。裸になった長谷部の手の平を私の胸とブラジャーのカップの隙間に招いてやる。長谷部の汗ばんだ手は熱くて、私の胸の形に添うように触れると、吸い付いてくるような感じがした。胸に触れた瞬間、びくっと長谷部が肩を揺らした。「触って」命じれば腫れ物に触れるようにそっと怖がってるような手つきで揉み始める。気持ちいいとは言い難いけれど、これがきっと長谷部の精一杯なんだろう。なんといってもお互い初心者だ。雄に任せて押し倒して辛抱溜まらず無理やりにでも犯してくれれば面白いのに、彼はそうしなかった。そもそも、彼と呼ぶのだっておかしいのかもしれない。性別なんて無いのかもしれない。たまたま男性の体でここに在るだけであって、刀剣に性別はなければ性欲だって無かっただろう。手の中にある少し湿った長谷部の手袋を見つめながら、少し慣れてきたといった感じにさまざまな角度で私の胸を揉みあげる長谷部の手を想像してみた。ズボンのチャックを苦しそうに押し上げている長谷部の性器についても想像をめぐらす。男性器なんて本物を生で見たことが無い。私の想像をはるかに越えてグロテスクな様相だったらどうしよう。そんなもの、私の体の中に受け入れられるのだろうか…そもそも私はほんとうにこんな暇つぶしの延長で長谷部とセックスしてしまうのだろうか…。「もういい」ぴたっと、長谷部の手が止まった。自分から私の着物の中から去っていきそのまま口元を押さえた。熱い息を抑えるように何かに耐えるように辛そうな顔が可愛くて、でももしも急に目の色を変え襲い掛かってきたらどうしようという不安も生まれてきた。犯してくれれば面白い。そうは思ったが、私はほんとうにそんな事が平気なのだろうか。初めては酷く痛いときくし、相手が相当の技術の持ち主であればどうにかなれたのかも知れないけれど、私と同じく初心者の長谷部だ。やり方が下手くそで怪我などしたらどうしよう、まさか私と長谷部の間に子どもが出来てしまったらそんなことありうるのか分からないけど、突然恐ろしくなった。「ねぇ…長谷部、ごめんなさい…私」そっと長谷部の膝から降りれば、彼は瞬間で姿勢を崩し自分の股間をぎゅうっと握り締めて私には見えないように隠した。俯きたれた前髪の隙間から見えたぎらついた瞳が恐ろしかった。「ごめんなさい…はせべ、わたし…」はーはーとゆっくり、深い息遣いを繰り返す長谷部が、その姿が、目を放せないくらいに強烈で、妖艶で、下がらせることも、触れることも、逃げることも出来なかった。「ご、ごめんなさい…はせべ、あなた、だいじょうぶ…?」目の前の長谷部がまるで私の知っている長谷部ではなかった。恐ろしい別の生き物のようだった。私のいたずらに怒り震えて居るようにも見えるし、情欲を寸前で堪えているようにも見える。どちらかの判断がつかないほど私は無知だ。「ねぇ…はせべ、ごめんなさい」恐ろしくて涙が滲んで声が震えた。垂れたその頭に触れようと手を伸ばすと「あるじ」と呼ばれ、思わず引っ込めた。「そろそろ第三部隊が遠征より戻る時間です。手入れの用意を」すっと柔らかい笑顔を上げて、私に(出て行ってくれ)と乞う。私は頷き部屋から飛び出した。すぐ角を曲がったところで燭台切にぶつかってしまい「廊下を走っちゃだめだよ」と人差し指を立てメっとたしなめられた。とっさに震える手でその体にしがみついた。「え、ちょっと、どうしたの?」そんなに強く怒ったつもりは無いんだけどなあ。そうなだめるように私の頭を優しく撫でる。燭台切の服に沁みた調理場の匂いがあたたかい温度が心地よかった。ああ長谷部、ごめんなさい。私って処女なの。

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