1.かわいいあの子を待っている
早く目が覚めた土曜日ほど素敵なものがあるだろうか?いいや無いだろう。ふかふかの枕にくしゃくしゃの髪を押し付けうふふと気色のいい声を漏らしながら私は布団の中で寝返りを打った。一人暮らしの部屋はまだ薄暗く、ダイニングキッチンの向かいの窓から朝の真新しい太陽の光が、フローリングの床を二分するみたいに差し込んでいる。耳を澄ませば鳥の鳴き声と、新聞か牛乳か何かの配達に勤しむオートバイのポクポクというなんとも平和な音が聞こえてきた。ばさばさと音立てながらシーツの上のスマートフォンを探す。少し冷たい枕の下、しわくちゃになったシーツの上、やっと見つけたその画面をなぞれば表示されるのは6:40の数字。にやりと自然に微笑んでしまう。たっぷり寝た自覚がある。目は嫌味なくぱっちりと開いているし、自然と目が覚めたのだ。ベッドの上でもぞもぞと体を動かして、ダイニングのテーブルの上のビールの空き缶の数を目だけで数える。1、2、3…4…いやあ、昨晩は一人で思う存分楽しんだ。気持ちよく酔っ払ってベッドに潜り込んで寝入ったことを思い出し、それでこの寝覚めのよさ!!今日は絶対にいいことがある!誓ったっていい!「おはようございまーす」返事があるはず無いのにそう叫びながら不毛布団を蹴り上げてベッドから飛び出す。おはようございますお日様、土曜日。

トレーナーにパンツという格好で自分でも理解に苦しむ謎のダンスをしながら、レーズン入りのコーンフレークをボウルにざらざらと盛って、たっぷりミルクを注いでるうちにスイッチを入れておいたコーヒーメーカーがピポパポ陽気に歌いだす。テレビもつけずにお気に入りの音楽を流しながら、最近メーカー食べ比べをしているコーンフレークと熱いコーヒーを楽しみながら好き勝手にハミング。テーブルからささやかなベランダに並んだ大切なわが子を眺める。プチトマト、きゅうり、枝豆、ラディッシュのプランターは黒々とした土に満たされていて、待ってました!という感じに、おのおのその葉にたくさんの日差しを浴びていた。プチトマトの第一群がそろそろ収穫時だろうか?角切りにしてオムレツに包んでしまうのもいいけど、洗ってそのままサラダというのも捨てがたい。ささやかな朝食が済んでしまえば鼻歌交じりで食器を片付け、やっと部屋着のハーフパンツをはいた頃にはスマートフォンの表示は7:56になっていた。

洗濯物を洗濯機に放り込み、気ままに踊りながら部屋を片付け、さてと一目ぼれで購入したゾウさんジョウロに水をためてベランダに出たのは9:31。だいたいいつもこのくらいの時間に姿を現すあの子を目だけで探す。真っ白な野良猫ちゃん。もう数ヶ月は私のベランダに通いつめている白猫ちゃん。始めてみたのはガラス越しで、ベランダの扉を開けたら驚いて逃げてしまうのではないかと思って、部屋の中から眺めてた。いつのまにかプランターに水をやっている私の足に擦り寄ってくるくらいになつかれて、今では毎週土曜日には私のベランダに現れて、ひっくりかえって私におなかを見せて甘えた声を上げてくるまでになった。これがなんともかわいいのだ。どのくらいかわいいかというと、この野良猫ちゃんのために猫缶やらにぼしを買いだめて置いてしまうくらいにはかわいくて、私はアホほどにぞっこんなのだ。でも、そういう態度は見せない。何で読んだか、猫に媚びてはいけないと。ぐっとこらえてビークール。なんでも無いフリで私は赤く染まったプチトマトに水を注ぐ。ざらついた葉を撫ぜながら今日は何をしようかとせっかくの休日のプランを練り始めた私に、それは突然訪れた。

ドサっ!!ガラガラドシャっ!!

「ぅッ!あ……」
「にゃあ」

私の大切なプチトマトのプランターの上に、見知った白猫と、見知らぬ男が降って来た9:46。

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