加州 清光
審神者って大変だ。やっと雑務にキリがついて執務室限定壁掛け時計(現世からこちらに持ち込めるものはすごく限られていて規制も厳しくてたくさんの審査を受けたり何個もハンコをもらったり、とにかく面倒だったからこそ愛着が強い)を見上げれば夜中の2時…マジか…。主である私がお仕事大変だというのにさっさと決められた寝室にひっこみ寝息やらいびきやらをかいている殴り飛ばしたくなるくらい愛おしくてくそがつくほど可愛い刀剣たちはみんな夜中の2時の事を丑の刻って言うけど、なに?丑三つ時?草木も眠るやつ、藁人形とかの奴みたいでたいそうこわいし、24時間の数えで生きてきた私には子の刻丑の刻は大変アバウトで使い勝手悪いから24時間方式で突き通してる。2時。夜中の。よなかのにじ。うら若き乙女が滋養強壮薬湯(薬研特性)を飲みながら目の下にクマ作ってうんうん呻りながら諸々の書類作成しなければいけないのだ…はあん、つかれた…。布団に潜り込んで、うとうとし始める。ああ、この瞬間いちばんきもちいスパァァァン!!!!

聴き慣れた現世のポップでテクノなリズムが私の寝室のふすまやら障子やらをその空気振動を持って揺るがすほどの爆音で流れ込んでくる。すぱーんと派手な音を立てて開いたのは奥の間に通じるふすま…転がり込んできたのは

「ぅぅあるじぃぃいいぃ!!」
「きよみつ…ううっ、爆音勘弁して…」
「あるじ、なんで俺の事刀解したの?!おれ可愛くなかった?!」

体中を殴られるような巡り巡るこの爆音の中、布団の中の私の体をぎゅうぎゅうと抱きしめて、涙鼻水ちらしながらぎゃんぎゃん泣いているのは先日訳あって刀解した加州清光だ。ちなみにこれで真夜中の2時に彼が私の元に現れるのは3度目(しかも連続)だ…。

初めての夜はそりゃあ驚いた、腰抜かしておしっこ漏らす寸前だった。でもほんの少しだけ透けた体で必死になって私にすがりつくそれは間違いなく私の加州清光だった。初めて刀解した刀剣。あるじあるじって、私に付いて歩いては愛されたいがため一生懸命になって、私の気を引こうと必死になって途轍もなく愛おしい刀剣…だった…けど、どうしても刀解しなくちゃいけなくなって、一晩泣いて、こんのすけに励まされつつさよならした加州清光だった。刀剣男士が怨霊に成りうるのか…各地の審神者が集まる定例会議では、刀剣が己の記憶(あるいは歴代の持ち主への執着)に囚われ自身の存在意義を見失い暴走を始める『闇堕ち』なんて恐ろしい言葉を耳にしたことがある…もしも、刀解した清光が化けて出て、私のことを斬り殺そうって言うなら…それも本望だと思った。けど、清光は刀を抜くことは無かった。ただ私に抱き付いて、全身で泣いた。体を震わせて、嗚咽をもらし何度も私の体を抱きなおしてたくさん泣いた。悔しくて泣いてるのか悲しくて泣いてるのか分からなかったけど、私も清光と同じくらい泣いた。ごめんね、ごめんね。もう取り返しの付かない謝罪だけど、許してもらえると思ってないけど、その言葉にすがるしかなかった。朝が来て、外が白み始めると清光はその体も温度も気配も、全てを消した。ゆっくりと霧が晴れていくみたいに、ふわーっと、そっといなくなってしまった。初めての夜のそれを、私は夢だったんだと思っていた。が

「きよみつ、3日連続はつらい…寝かせて…」
「やだあ!!ねぇあるじ俺そんなに可愛くなかった?!なんで刀解したの?!俺の事飽きちゃったの?!」
「飽きたとかそういうんじゃなって…ねぇ本当にごめん、3日間まともに寝れてないの…」
「寝ちゃダメ!!あるじ!!一昨日はずっと抱いてくれてたじゃん!!ねぇぎゅってして!!あるじ!!!!!」
「やだー寝るー」
「あるじのばか!!やっぱり俺に飽きちゃったんだ!!だから俺の事刀解したんだ!!」

布団に丸まってる私に馬乗りになって「あるじのばかー!!こんなに愛してるのにー!!」を繰り返す清光。なんで刀解したのか、とかよくもきいてくれたよね?!だって清光「風呂厠以外の理由で主と5分以上離れたくない」って真っ暗な目で言ってたよね?!その所為でこんのすけが「加州清光にはお気をつけ下さい」ってなんかセコム機能付いちゃって、それだけならどうにかなったけど、短刀たちと安土城の警備お願いしたら1時間も経たないうちに一人だけで帰ってきちゃったでしょ?!あのあと大変だったんだよ?!短刀たちがどうにか任務はこなしてくれたけど清光が本当にいなくなっちゃったと勘違いしてずっと探してくれてて、時間通りに返ってきてくれなくて…あの時の一期一振の顔…私忘れないからね?!すごいオーラはなってたんだからね?!なのに清光短刀の事探しにも行ってくれないし、短刀みんなすごい負傷と疲労で帰って来るし……それで私が手当て部屋に篭りっきりになったら「主は俺の事要らないんだ」って今度は勝手に単騎で出陣しようとするし…っていろいろ問題起こした清光を見かねたこんのすけが私に刀解するように言ってきて…それで…ほかのみんなにこれ以上危害が及んでいいのかって…

「わたしだって、清光のこと、刀解なんてしたくなかった…」
「あるじっ…」

ふとんからもぞもぞ這い出して、滲んできてた涙をごしごし拭うと、私より少し温度の低い透けた手でそっと触れられる。赤くなっちゃう、そう呟いて、清光が本当に悲しそうな顔をする。私の心臓が割れものなら、きっとバキバキに砕けきっちゃうくらいに切ない顔だ。定例会議で聞いた話。闇落ちしてしまった刀剣は、つまるところその主である審神者にすら制御できない状態であって、それでも野放しにはできないし他の刀剣に影響を及ぼさないようにさせるため刀解命令が下される。でも、審神者の制御が利かない刀剣を刀解できるのか?簡単にはいかない。ので、強硬手段が存在する。ひとつは、他本丸の練度の高い刀剣に破壊してもらう。この方法は迅速でシンプルだけど、対象刀剣の練度が高ければリスクが伴う。練度の高い刀剣が闇落ちして制御不能になってしまった場合に使用する、政府のブラックボックスが存在するらしい…。噂では、検非違使とは練度が高くさらに闇落ちした刀剣たちを、さらに未来の政府が遣わせているのではないか、なんて物騒な話もある。問題ばかり起こす清光を、それでも刀解に戸惑うのであればこんのすけがどちらかの方法での処分を手配すると言ったけど、どうしてもどっちも嫌だった…。私が顕現させたんだ。最期まで私がやるのが道理というやつだ。そう思って、この手で…

「あるじ。俺は愛されてた?」

俯く私の胸に耳を寄せて、清光が私の体にそっと腕を絡める。唇が震えて、声が出なかった。それでも一生懸命頷いた。だって、当たり前だ。あんなに慕ってくれて、愛するなってほうが無理な話だ。本当は、本当に、刀解なんてしたくなかった。好きだよ清光、大事だった。つややかな黒髪は透き通っていたけど、触れて撫ぜればその感触は忘れられない今まで通りのそれで、余計に涙が出た。そのまま清光の頭を掻き抱くと「痛いよあるじ」って清光が笑った。

「ねぇ主、俺は愛されてたんだね」
「うん」
「いまでも愛してる?」
「うん」
「証明できる?」
「…うん?」

お?どうした?清光?ぎゅっと肩をつかまれて、ぐいっと体重をかけられ、布団に押し倒される。おっと?清光おっと??さっきまでの感動の抱擁はどうした清光?愛されてたんだねよかったって、輝く涙だけ残してふわっと消えていなくなっちゃうパターンなんじゃないの?あれ?おかしいな?!清光?!なんで私の寝巻き浴衣の帯ほどいてるのかな?!息遣いもおかしくない?!清光そんな子じゃなかったよね?!あっあ!!ちょ、どこ触って?!清光?!落ち着け清光!!

「なっ!あ、きよみつ?!やめて!!」
「主、お願い。俺の事愛してるなら、俺の事男にして!!」
「ああああ!!やだああ?!ええええ?!清光マジ?!私の事そういう目で見てたの?!」
「あたりまえじゃん?!俺かわいいけど男だよ?!主と交わりたい!!」
「ぎゃああ!!犯される!!犯されるぅー!!!!だれかたすけてー!!」

いままで見たこと無いぎらぎらした目を見開いて、私の寝巻き浴衣を乱暴に脱がそうとする清光。う、うそでしょ…そうだったの?!清光わたしのことそんな風に見てたの?!というかえええ?!ちょ、本当に?!清光、あ、の…私に跨ったその、股の、もの、ものが…すごいことに…!!マジで犯される…!!力でかなわないなんて分かってるけど、抵抗しないわけにはいかない…!!私、清光とは友達以上恋人未満みたいな、なんでも相談できる親友ポジみたいなの期待してたのに…!!

「や、だ…!!きよみつッ…あっ」
「あるじッ、可愛い…俺の次に」
「やかましいわ!!」
「ね、お願いあるじ、大人しく俺と交わって!!ぜったい気持ちよくしてあげるから!!」
「きもちいとかじゃなくてッわ、ちょ…!!どこ触って」
「あるじ、あるじッ…!!ちょ、本当に、俺もう我慢できっあ!」

とうとう清光がズボンを脱いでその股の物を取り出そうとしたところで、ふわっと私を押さえつける力が弱まった。いまだ!と思って力の限り蹴っ飛ばしてみたら、私の足は清光に触れることなく空を蹴った。霧のように薄く空気に散ってく清光。朝が来たのか…。細かい水蒸気が空気の流れにかき乱されるように消えていく清光はまだ必死にズボンを脱ごうとしていて、私はほぼ裸の状態で朝日に照らされながら、それを眺めていた。ああ、清光…お前の所為で今日から私人間不信になりそうだ…ん?刀剣不信?…だめだ…睡眠不足すぎて頭回らないわ…


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