春いろ結べ
小夜が畑当番に勤しんでいる愛らしい様を濡れ縁から眺めていると彼女の気配がしました。僕を見つけた瞬間歩調が変わり、抜き足差し足は粘着質で、想像たやすいにやにや顔は目を伏せてしまいたくなるほどに女性らしさに欠けた下品なものだ。濡れ縁に座している僕を見つけ、ひっそりこっそりねっとりと近づいてくる下品な女主は無視しましょう。ああ、土にまみれ懸命に根野菜の面倒を見る小夜。なんと愛らしいんでしょう。手ぬぐいの用意をしておいてあげましょうね。僕が気配に気が付いてるとも知らずに、背後でその下品で勝ち誇った勘違いも甚だしい笑い声を堪える主。貴女って人は、本当に……。

「隙あり!」
「ありませんよ」

大きな掛け声と共に後ろから僕の背に飛び込もうとしてきたその体を、避けて否せば「あーん!宗三のいけずぅ」と、体半分濡れ縁からずり落ちた、なんとも間抜けな格好で猫なで声を上げた。とろけるような笑顔を僕に向ける彼女に、思い切り眉をひそめると何を勘違いしたのか「ごめんごめん、次はちゃんと抱いてあげるから」などと不愉快にうんうんと深く頷いた。どこまでも楽観的で自分勝手な人だ。僕の許可も無く、それが当たり前のように僕の隣に座り、ずりずりと尻を寄せてくる。「宗三宗三、ねぇ何をしていたの宗三?」膝に乗せていた僕の手をとり、指を絡める。あたたかな体で擦り寄ってきては腕を絡めとり肩に頭を預けられる。いじらしい少女の仕草とは到底遠く、花街通いの色情狂のそれだ。「小夜の様子を眺めていたのですよ」そう小夜に視線を戻せば、つられて彼女も小夜に目を移す。

「あ、ほんとだ!小夜ちゃーん!小夜っ小夜ちゃーん!」
「ちょっと、あなた、小夜の邪魔はしないで下さいよ」

僕と主の姿に気が付いた小夜は、手にした農具と我々を何度か見比べ、少し悩んだ様子で農具をその場に置き、こちらに駆けて来た。ああ、可哀相な小夜。こんな女の言うことなど気にせずそのまま畑作業を続けていて構わないというのに……。駆け寄って来た小夜が何の用事かと主と僕を交互にうかがった。泥が乾いた土砂まみれの手足を擦り合わせては、着物の汚れを払い落とす様がいじらしく愛らしい。これは手ぬぐいよりも湯浴みの準備が必要ですね。この女の気まぐれですよ作業に戻りなさいとよく日を浴びてすっかりあたたかくなっている頭を撫でてやろうと手を伸ばすと、それよりも早く、隣の女が小夜の脇の下に手を滑り込ませて、引き摺り抱き寄せた。「畑仕事頑張ってるね〜」よしよしいい子いい子と嬉しそうな声で唱えては、抵抗も忘れあっけにとれらている小夜をよいしょと抱き上げ、自分の膝の上に乗せ腕の中に仕舞いこんでしまう。挙句は額に頭に頬ずりをして蓋までしてしまう。小夜の頭を撫でることが叶わぬままの手を引っ込めるのも忘れ、小夜を抱いた彼女に釘付けになってしまった。政府から支給された巫女装束は彼女の神気を高め維持し、我々付喪神の神気に中てられぬように特殊な製造加工が施された貴重品だ。以前食事中に鈍臭い彼女らしい粗相でしょう油のシミを作ってしまった時に酷く滅入ってしまっていた。叱られる叱られると頭を抱えていると、口やかましい燭台切に「だから食事のときは着替えろって言ってるだろ」と小言を言われていたのだ。それでも何も気にせずに土にまみれた小夜を抱き上げるものだから、なんとも愚直な女だ。懐紙を取り出し、小夜の手を拭き頬を拭き「休憩もちゃんと取ってね」と微笑み、寝かしつけるような格好に小夜を抱きなおし、その背中を調子良く叩いた。照れてしまって口を利けない小夜の頭を、やっとこの手で撫ぜる。この子は一生懸命になりすぎるところがありますからね。こうして誰かが制御してやる必要があるのかも、知れませんね。

「ねぇ宗三。こうしてるとまるで私たち、親子みたいね?」
「何を。貴女が"母親"なんて玉ですか」

小夜の背中を叩いていた手が僕の膝に伸びてくる。着物をずらし広げるように、滑らかに厭らしく僕の肉を揉むように撫ぜる。な、にを…考えているのでしょう、この女。心臓がいやな音を立てた。

「ふふっ、そうよ?"お母さん"は、宗三」

トンっと不自然な肌を叩く音がした。瞬間、小夜の体が骨を抜かれたようにぐったりとうなだれてしまった。自分の体にもたれる小夜の体を、支えつつもゆっくりと床に仰向けに転がした。なんということを…この女、小夜を一撃で気絶させてしまったのですか…。こんなことをして、どの口が"家族のようだ"と…。片手で僕の足の付け根を舐めるような手つきで撫でつつ、もう片手でいとおしげに小夜の額をかるく撫ぜた。

「ね、宗三。こども。欲しいね」

こちらを振り返り、いたずらに笑う彼女。僕が咎めようと口を開く前に、股の物をぎゅうっと握りこまれ、不覚にも女のような声を漏らしてしまった。「あなたという人はっ」柔らかく揉み、強く握り、指先で遊ばれ、確信的に愛撫を施される。帯から下を肌蹴させられ褌をずらされ、むき出しにされる。こんな明るい時間に、濡れ縁で。隣では小夜が気を失っている。彼女は、彼女の手淫に反応を示している僕の性器に嬉しそうに、到底男性器を見てたたえているとは思えない種類の愛らしく乙女的な微笑を浮かべた。この女は完全に気が違っているのかもしれませんね。

先ほどまで自分が小夜をそう抱いていたような体勢を僕に求め、向かい合い、僕の開いた膝に腰を下ろした。当たり前ですが座り辛いようで何度も体勢を整えようと尻を左右に揺らした。それでも何度も開いた膝の間から滑り落ちてしまいそうになるので、仕方なく抱き抱えるように腰に手を回した。そうしてやれば、もっと嬉しそうに笑って、猫が甘えるように僕の頬に顎に首筋に、額を摺り寄せ鼻を擦りつけあたたかな唇をおしつけた。彼女の手は陰茎だけにとどまらず睾丸まで伸びてきた。その淫猥な手つきからは信じ難いくらい愛らしい声で奥ゆかしく宗三宗三と名前を呼ばれる。いよいよ堪らなくなり乱れた呼吸も隠せずに汗ばむ額を彼女の肩に預けた。うなだれた彼女の耳と僕の耳がふれあい、その温度、音、距離を感じた。むっと湿った熱い空気が2人の間に篭っている。髪をこすり付けあいながら彼女の額が僕の額に触れた。何度も互いの汗で肌がすべる。片足の袴をたくし上げ可笑しな格好に腰をくねらせ僕の性器を受け入れようと挑む彼女。違う、そうじゃありませんよ。片手で彼女の腰を支え、もう一方の手を自身の性器に添える。彼女は片手を僕の首に回し、少し震えたもう一方の手で袴をたくし上げ真っ白な腰骨まで晒す。片足は真っ赤な袴を装っているのに、もう片方は肌を曝け出し、早急は交わりに足袋はそのままだ。袴の隙間から懸命に自身の秘部を晒し僕を誘い、まだ少し固いそこに力任せに受け入れた。吸い付くように先端だけでも受け入れてしまえば、後は彼女が彼女の調子で僕の股に座り込むようにゆっくりと飲み込んでいく。いささか狭くもどかしい思いをしたが、痛みと快楽に堪え息も切れ切れに囁く彼女の言葉がくすぐったくてそれどころではなかった。

「宗三、私、あなたとのこどもが欲しい。ふっ、あ宗三のっあかちゃん。あっあ、できれば、あなたに良く似た、女の子。わたしの、大好きな…桃色の髪っ、を、柔らかく…ん、たっぷりとたたえて、てぇっ、それを、撫ぜられるのが、好きなの。いつも、物憂げなかおしてて、あなたと同じで、ふふっ、すごく、陰湿なこっああ、あっ…でも、でもっう…でも、わらうと、はなでもさくみたいに、あっ宗三ッそうざ…!ううっ、ん…は、はあ、あ」

僕の頭を掻き抱き、その指に髪を絡め、僕の律動に振り落とされてしまわないように着物にしがみつく。頼りなくて、僕の方でも彼女の腰を抱き、仰け反った拍子に頭を後ろ向きに落としてしまわないよう胸元の布に噛み付き顎を引いた。僕と自分の空想のこどもの妄言もいよいよ紡げなくなり、ただうわ言のように宗三と繰り返した。僕の方でも熱いものがせりあがってくる。

「あるじ」

付喪神である僕が彼女の中で果てようと、きっと人間同士のようにうまく遺伝子が反応しあうはずはないのですが、僕の精液の所為で彼女が体調を崩すなどしたら寝覚めが悪い。彼女の腰を掴み、自らの腰を引き、彼女の中から射精を控えた陰茎を引き抜こうとする。と、俯いた僕の額に自分の額を押し付け彼女が必死に上ずる声で懇願する「宗三、おねがい…このまま」玉のような汗をこぼし、くちびるを涎で濡らし、紅潮した頬は涙に焼けていた。きゅうと力をこめて、全身で僕を放すまいとしがみついてくる。ああ、本当、あなたって人は……。彼女の望むまま、全てを注いでやれば、足の指先から髪の毛の先までびくびくと痙攣をさせ彼女も果てた。ぐずぐずと鼻をすすり泣き濡れた顔を僕の肩に押し付ける。繋がれたまま、一滴も零れないよう蓋をして、いっそこのまま彼女の中で何かが成されてもいいかのも知れないと。あやすように撫で、指を絡めた彼女の髪を感じながら目を閉じた。…さて、小夜が目を覚ます前に(へし切り長谷部が主の不在に本丸内の捜索を始める前に)この状況をどうにかしなければ…まったく困った子です。あなたって人は。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -