ベタなことしましょ
共同の食堂の柱にかけてある辞書のように分厚い日めくりカレンダー。習字の半紙より薄い透ける紙の端をつまみ「4日」を破り捨てる。5月5日。現世から私が持ってきたこのカレンダーにはちゃんと国民の休日が赤字で記されていて、小さな字で「こどもの日」と書いてある。そうだ。今日はこどもの日。調理場の主もとい燭台切も薬研も遠征に遣って、本日この調理場は私の島なのである。広く分厚いテーブルはよく使い込まれて、でもちゃんと手入れが行き届いていて、これにだって付喪神が宿っても不思議ではないくらいの代物だ。いつもそこに並べられる40人前後の男士を満腹にするべく大皿に大盛りの料理の数々も、日本昔話顔負け山盛り白米がそびえ立つお茶碗も、あたたかい湯気がのぼるおふくろ(燭台切)の味の味噌汁のお椀も無い。それらは既に片付けられて、いまは非日常的な食材の数々が並んでいる。上新粉、白玉粉、砂糖、たっぷりのあずき、そしてたくさんの柏の葉。そうです私、こどもの日にちなみ、毎日頑張ってくれている我が本丸の男士たちの健康?とかなんか今後の繁栄?とか色々、これからも怪我とか無くちゃんと返ってきてみんなで晩御飯を食べられますようにってお願いをこめて、みんなのためにかしわ餅をこさえようと思っているんです。

ようしやるぞー!と着物の袖をたすきがけにして、無駄な力こぶを作っていると、ひょっこりと鯰尾が調理場に顔を出した。私のたすきがけに力こぶポーズ、テーブルに並ぶ珍しい食材を目にして、何か面白いことが始まるぞと勘ぐった鯰尾はにやにやと笑いながら私の隣に並んだ。粉類の袋を手に取り、ボウルやら秤やらの調理器具をひとつずつ触れてものめずらしそうに声を上げる。

「何を作るんです?主さま」
「ないしょー!」

食材をかき集めて鯰尾に見えないように腕の中に隠してしまう。そうだ、だってこのかしわ餅は一応みんなへのサプライズプレゼントなのだ。鯰尾になんて知れたら、もうみんなに知れたようなものだ。内緒だと言われ余計に気になってしまったのか、鯰尾は「意地悪ですねー」と楽しそうに私の肩を掴んでどうにか内緒を暴こうとしてくる。だーめーだー!私1人でやるんだー!みんなに「さすが僕らの主さま!」って喜んでもらうために、あーあー!!上新粉とられたー!!当たり前だけど私よりも身動きすばやい鯰尾にかなう訳もなく私の腕の中から上新粉の袋がさらわれてしまった。他の食材はとられまいと、さらに力をこめて抱きしめる。まあ上新粉だけでは何を作るのか想像もつくまい。鯰尾は上新粉の袋を持ち上げてひっくり返して封を開けてしげしげと眺めた。なんじゃこりゃあ?と言った風な顔がなんだか間抜けな猫とか犬みたいでちょっと可愛かった。

「そっちはなんですか?」
「教えなーい」
「ケチですねー」
「結構ですよー」

上新粉に飽きた鯰尾に背を向けると「それなら俺にも考えがありますよ」と楽しそうに笑った。そんな要らん考えなんてめぐらせてないで早く出てってくれと、振り向こうとした瞬間、背後から脇の下に手を滑らせ、思いっきりおっぱいを鷲掴みされた。「ぎッ」腕に抱いた食材を押し上げて、ちょっと痛いくらいの力でぐにぐにとおっぱいを揉み込まれて、気持ちいいじゃない声が漏れる。背中にぴったりと体を寄せてきた鯰尾が、耳元で囁く。

「ほら、主さま、白状してください!」
「ばか鯰尾ばか!痛い痛い!離して!」
「離しませんよ。主さまが何を作るか教えてくれるまで」
「う〜っ、わ、わかった!もち!かしわもち!!」

だんだん鯰尾の手つきがおかしくなってきたので観念すれば、かしわ餅の言葉に嬉しい悲鳴を上げる。うちの刀剣男士はみんな甘いものが好きだ。おまんじゅうとか団子とか、とにかく甘けりゃあなんでも喜んで食べてくれるのだ。だから絶対に喜んでくれる確信を持って、かしわ餅をこさえようと思っていたのに、やっかいな奴に知られてしまった。というかおっぱい、おっぱい揉むのもうやめてよ教えたじゃんかしわ餅だよかしわ餅作るんだよ!着物のあわせからするっと、するっとそれはもう鯰が湖底の穴にするっと難なく滑り込むように巧みにするっと!侵入してくる。

「おおい!鯰尾さんこら!手!」
「端午の節句ですもんね!俺もかしわ餅作るの手伝いますよ!」
「うっ、ひあ!やめろおお!!揉むなら、揉むなら白玉粉をッ!」
「ははは!主さまの胸柔らかいなー」
「てめぇ本来の目的はなんだ?!」

さんざんおっぱいを弄ばれた挙句、結局鯰尾に手伝ってもらう(手伝わせてやる?)ことになってしまった。反対したけど「人数分、1人で作るんですか?」と微笑まれて、かしわの葉の枚数を見て、仕方なく手伝いを許可してあげた。というか、嗅ぐな。人の生おっぱい揉んだ手のにおいを嗅ぐな。調理始める前にちゃんと手洗いなさいねあんた。

「まず、何をするんですか?」

上着を脱いでシャツ姿になった鯰尾(白玉粉揉んでる)がわくわく訪ねる。私は大なべに水を汲んでる私を手伝いもせずに…ぐぬぬ…こいつ本当は手伝う気なんて無いな。だって手伝うならこういう重たい仕事を手伝うでしょう?大事な主さまにこんな重たい大変な仕事させないでしょう?

「あずきを炊くよ」
「あんこですね!甘く!甘くしましょうね!」

砂糖を持ち上げて頬ずりする鯰尾は、ムカつくけどやはり可愛くてなんだか色々諦めた。かまどによいしょーと鍋をおくと、衝撃に水面がゆれて私に水が飛んだ。うわっ冷たっ。顔にかかった水滴を指先で払い、髪が濡れないように耳にかける。着物にはまだ生地に沁みていない水の玉が乗ってかっていて、急いでそれを払った。砂糖を頭に乗せて、まだ白玉粉を揉んでいる鯰尾に、イスにかかっているタオルを取ってもらおうと彼を振り返る。と、いつもの間抜け面でいると思ったのに、ビックリするくらい真顔でこっちを見ていた。頭の上にのせた砂糖だけが時間を間違えたように不自然だ。「どうぞ」とタオルを渡されて「ありがとう」と受け取る。頬を拭いて、首筋を拭いてからそのタオルを畳みなおす。肝心の小豆を手にして、ふと思いたつ。

「そういえば、こしあんがいい?つぶあんがいい?」
「ぎしあんがいいです」
「は?」

ぎしあん、って?え?餡じゃないよねそれ?何言ってんだこいつ?あっけにとられてると、ずいっと鯰尾が私との距離を縮めた。急な動きに、頭の上から砂糖が落ちた。え、あ!いやいやいや!!ぎしあんてお前?!ぎしぎしあんあんのぎしあん?!なんでお前そんな?!え?!というかここ!本丸!!純和風!!みんな畳みに布団敷いて寝てるじゃないか!!ぎしあんてあれベッド…!!というかなんで鯰尾そんな事知ってるの?!疑問は尽きないし、ずりずりよってきて体を押し付けてくる鯰尾の鯰尾が腰に回された手とか足の間に滑り込んできた膝とか色々許容範囲を超えて、真っ赤な顔で言葉にならない声しか出せなくなる。

「え、あ、わ…ちょ」
「鶴丸さんが現世から取り寄せた書物に載っていました」

あああああ!!!!鶴丸あいつ!!!!無駄(じゃ無いかもしれないけど)なもんにハイテク技術と給料使い込んでんじゃねぇよ!!!!あいつだけかしわ餅なしッなし!!するっとおっぱいに這い上がってきた鯰尾の手つきは今度こそ指1本1本が鯰のようにうにゃうにゃと粘着質な動きをして、的確に私をおかしくさせる。ゆっくりと壁まで追い詰められて、ちゅっちゅと額と耳に口づけをされた。こいつ本当にさっきまで白玉粉揉んで砂糖頭に乗せてへらへらしてたアホなのか?耳に吐息がかかる。

「どうして端午の節句にかしわ餅を食べるかしてますか?」
「えっ、あ…わ、しらない…それやめてっ」
「柏って、家系が絶えないって縁起物なんですよ」

するすると鯰尾の手が私の体を這い、とうとう足の付け根まで許してしまう。「あ」っと恥ずかしい声が漏れると、鯰尾が嬉しそうに笑った。

「現世ではこどもの日って言うんですよね?俺、手伝いましょうか?」

びくっと体がはねて、手に持っていた小豆がばちばちばちと激しい音を立てて床に零れ落ちた。

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