6.写真部の暗室で
文化祭だ祭りだパーっと行こう!と上手く言いくるめられて丸め込まれて、文化祭がほとんど公開撮影会みたいな1日になってしまった黄瀬くんに「探すの手伝って!!」って泣きつかれて、職員室で嘘ついて鍵を借りて、こっそり忍び込んだここは暗室。写真部の手書きの張り紙『関係者以外立ち入り禁止!!』を無視して、少し重たくて他とは違うドアノブをガチャリと黄瀬くんが開いた。真っ暗で嗅いだことのないような薬品の匂いがして、閉めきれてないドアの廊下からの明かりでわかる、洗濯物を干すみたいに張られたロープに写真が挟んである。ドラマとか映画とかでしか見たこと無い、ちょっと不気味な暗室に圧倒されてると、そそくさとその長身を暗室に潜り込ませる黄瀬くんに乗り遅れた。「みょうじっち、はやく!ドア閉めてドア!」小声で私を手招く黄瀬くん。ああ、そうだった。私たちはいま不法侵入の最中だったんだ。

「で、なんで写真部の暗室?」
「プライベートだからって、あんまアホな写真が残ると色々面倒なんスよー」
「アホな高校生なんだから、アホな写真くらい1枚でも10枚でも当たり前じゃない?」

そうなんスけどねー。ぽちりと手元に蛍光灯が灯る。困った風に笑う黄瀬くんが私の方を見て、ちょっとだけさみしそうな顔をする。両手の人差し指で小さくバツを作って「事務所的に、ね?」理解のない子供に言い聞かせるみたいに優しい声だ。ああ、彼は本当にモデルさんなんだと、実感する。今のご時世、写真が残ってネガが残ってって思い出を撮る機会は少ない。大抵がケータイでパシャリ、デジカメでパシャリ。そういえば私も黄瀬くんとちゃんと形に残ってる写真なんて、クラス写真くらいしかないかもしれない。データに残る黄瀬くんはきっと流出を規制できない。物理的に潰しておけるネガとか写真とかだけでも・・・って感じかー・・・。ばさばさっとネガを広げて光にかざして確認する黄瀬くんを傍観してると「手伝ってよー」って、あの泣きの入った鼻声で言われちゃって、不覚にもキュンと甘く痺れるものがある。黄瀬くんは庇護欲をくすぐるのがうまい。

「そんな変な写真取られたの?」
「わかんねスけど、着替えとか撮られてたら普通に気持ち悪いじゃん!」
「あー・・・たくさん着替えさせられてたしねー」
「そうそう・・・あッ!ほらこれ!!こんなん隠し撮りじゃないスか!!」

黄瀬くんが騒ぐ1枚には休憩室に指定してあった教室の、隅っこで窓に頭を預けてうとうとしてる黄瀬くんが写っていた。おお、かわいい。これは写真に収めたい気持ちわかるなー・・・。きらきらさらさらの髪に日光の天使の輪が出来てる。「黄瀬くん、これ、かわいい」ついぽろっと漏れてしまった。確かに黄瀬くんはモデルで、イメージ崩しちゃうような写真が徒らに世に回ってしまうのは不都合だし、普通に気分が悪いっていうのも理解できる。寝てる写真とか、着替えてる写真とか、そんなの知らない人に見られたらきっと気持ち悪い。でも、私はどちらかというと黄瀬くんは写真に収めて大事にとっておきたい派の人間なので・・・撮った犯人の気持ちもわからなくないというか・・・いや、でも、そりゃあ・・・誰にでもこんなかわいい黄瀬くんを見せてやるっていうのも、ちょっと・・・あれだけど・・・でも黄瀬くんの美しさかっこよさは世の中に広められるべきみんなで共有すべきだとメディアの方々が判断したからこそモデルさんしてるわけだし・・・。隣でどんどん自己判断アウトだったネガや写真を処分してる黄瀬くんのように、この手の中で安らかな眠りにつこうとしている黄瀬くんをザッパザパと切り捨てることはできない・・・

「ちょっみょうじっち手止まってッ・・・?!」

振り向いた黄瀬くんの、制服のネクタイをぐっと引っ張って、くちびるにくちびるを押し付ける。黄瀬くんの頭が写真を干してあるロープに当たったらしくヒョンヒョンってロープが揺れる変な音がした。かわいい黄瀬くん、私の黄瀬くん。引っ張ったネクタイを放しても、身長差すごいからきっと体勢キツいはずなのに放れないくちびるに大満足。とっても惜しいけど、写真は処分してあげる。その代わり「私には全部見せてね?黄瀬くんのこと」顔を真っ赤にして口元をヒクつかせる黄瀬くん。ああ、ぶさいくでかわいいそんな顔。ほかの誰にだって見せてやりたくないかも知れない。



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