2.授業中に屋上で
授業を抜け出して屋上でぼうっとしてみたいことなんて、多感な中学生の頃から数えて何度もあった。嫌いな授業とか、午後1番の眠たい授業とか、水泳の授業とか。とにかくそういう煩わしいものから逃げたくて、逃げたくて逃げたくて仕方ない日ってあるもんだ。とは、頭の中で何度も思い描いては空想の中のアウトローな自分に酔いしれてみるものの、本当のところ授業をサボるだなんてそんなことできるはずもない。きちんと自分の席について、ガラスの窓の向こうの青空を眺める。シャーペンをこつんとノートに押し当て、屋上で風に吹かれ乱れる髪を押さえつけ、グラウンドの体育の授業の音に耳を済ませ、授業の終わりを告げるチャイムがなるまでゆったりとわけもなく存分に青空を仰ぐ自分を想像してみる。そういうの、いいなーって

「なにおなまえチャン、授業サボってみてぇの?」

机に伏して私を視線だけで見上げる高尾くん。授業が終われば目の前の席の高尾くんが180度回転して私の机の上のノートに落書きをはじめる。そうそう、サボってみたいの。そういうの学生のうちにしか許されない軽犯罪でしょう?大人になったら許されない。今のうちにやってみたいの。もう一度、窓の外を見上げる。閉じ込められてるとか、大それた閉塞感はない。ただ、私の学生時代に一瞬でいいからドラマチックな時間を作っておきたいのだ。

「じゃあ俺がその願い叶えてあげよっか?」

休憩時間のうちに教室を出てしまい、始業のチャイムが鳴る頃には屋上の出入り口に繋がる扉の前で、薄暗く埃っぽい階段を駆け上るあいだも、ドアノブに手をかけるいまだって、高尾くんは私の手を強く握ってはなさなかった。ぎぃっと錆びた音をたてて扉が開く。つよい昼の空の光の逆光で、扉のこちら側は真っ暗になってしまう。切り取られたような青空がそこにはあって「んじゃおなまえチャンにも俺の願い事、叶えてもらおっかな!」手を引かれ、屋上に脚を踏み出し、よたつく体を高尾くんに支えられる。触れたくちびるは私の想像を遥にこえるドラマチックだった。

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