1.放課後の教室で
「誰にも見られたくないからなの?」

さぁ、キスするぞ!そんな意気込みがひしひしと感じる笠松くんの大きな両の手の平が私の頬を挟んで、自分の唇が押し当てやすいように少し斜めに持ち上げる。窓から差し込む西日に目を刺され、ちくっと痛むような沁みるようなムードを壊すような刺激に私のいちゃいちゃらぶらぶテンションは簡単に崩れた。「どうして放課後の教室なの?」くちびる同士が触れる前に口を開けば、私のしゃべった息が笠松くんのくちびるを湿らせた。「はぁ?」何が言いたいんだこいつ?そんな感じに眉をひそめて私の事を見つめ返す笠松くん。正直めちゃめちゃかっこいい。大きな夕日をバックに、誰もいない教室なんて、きっと学生にとっちゃ取って置きのシチュエーションだ。告白とか、キスとか、勇気と性欲が有り余ってればセックスにとってだって最高の風景だろう。

でもさ、あのさ、いつ誰が、忘れ物をとりに来るか分からないでしょ?こんなところ。施錠見回りの先生がふらっと教室にはいって来るかも、知れないでしょ?グラウンドで大きな声を張り上げてるサッカー部の子が、ふと窓ガラス越しに私達を見つけちゃうかも知れないでしょ?学校中探せば、もっとこっそりひっそり触れ合えるところがあるはず。トイレとか、多目的教室とか、どこか鍵のかけられる教室とか。それでもどうして笠松くんは自分のクラスの教室を選んだんだろう?それは、自分の教室がいちばん居心地がいいから?それとも普段自分達が白々と学生をしているこの教室で、制服を着たまま親密な行為に及ぶことに、ギャップとか非日常的な背徳感に興奮するから?…もしかして、本当は偶然うっかり誰かに見つかってみたいから??

私の頬に触れる笠松くんの両手に、自分の手を添えて、答えてくれるまでキスはしないよと視線で訴える。「なにみょうじ、どうしたんだよ?」ぽかんとした間抜けな顔。なんでキスさせてくれねぇの?とか、考えているんだろうか?そのちくちく頭の中で。夕日を反射させた机が真っ白に光る。日中の授業で酷使された黒板には誰かの落書きとか消し忘れが残ってるし、チョークの粉を含んだ空気は当たり前だけどチョークの匂いがする。微細な埃が空気の中をゆらゆら浮いていて、夕日にちらちらと反射してちいさな虫みたいだ。

「どうして放課後の教室でキスするの?」

私がまっすぐにそう問えば、笠松くんは何度かめをぱちくりさせてから、一度視線を外して、またこっちを見て、珍しく照れるような、ごまかすような顔で笑った。「さぁ、どうしてだろうな?」そう言って、そんなの答えになってないから私としてはまだまだキスを許しちゃダメだったのだけれど、ぐいっと屈んで近づいてくる笠松くんをよける事も出来なかった。(いつまでも学生じゃいられないから)

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