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『放課後、中庭の保健室前でまってます! みょうじ』

下校前の掃除をサボって、まだ掃除中の教室に戻って帰る準備しようかなーって机の中をさぐってるとぽろっと紙が落ちた。そこにはみょうじの丸っこい字で俺らのスーパー☆イチャイチャタイムのお知らせが記されていた。う、うおおおおおお!!その場で抑えきれない興奮を腹のそこからの雄たけびに還元させると、教室を掃除してた本好にでかいモップ(臭くて汚い)で殴られた。…い、いてぇ…そして、くせぇ…!!で、でもいいんだッ!!俺はいまからみょうじとスーパー☆イチャイチャメロメロヌレヌレタイムなんだからッ!!

「あ、安田くん!こっちこっち!!」

教室から出ると、外は風が冷たくて寒かった。あー、もう冬なんだなーって思いながら学ランの中に着てるパーカーのすそをぐいぐい伸ばして(これ、みのりちゃんとかに見つかると叱られる)寒さがちーんと沁みる鼻をおおった。すぅって鼻から息を吸って、はーって口から吐くと白いもやが出来た。なんかすすくせぇなー、誰だよなんか燃やしてんの?えろ本の証拠隠滅?燃やすくらいなら俺にくれすな!!もしそれに飽きて不要になっちまったって言うんなら!しかるべき、その…神社とか行って供養してもらえ…!!じゃないとえろ本のモデルさんたちが報われねぇ…!!って思ってたら、原因は自分の彼女でした。

「みょうじさん、なにしてんの?…放火?」
「え?!ち、ちがうよ!!ハデス先生にちゃんと許可取ってるよ!!」
「なら、いいんだけど…なにそれ?」

焼きいもッ!にっこーって笑うみょうじは校庭の掃除当番だったらしくて、マフラーをぐるぐる巻きにしてた。せわしなく木の棒でつんつんつついてるのは落ち葉の山で、赤とかオレンジとか黄色とか茶色がくすぶってかさかさぱちぱちにぎわってる。ああ、焼きいもね…もうそんな時期だよね…。焚き火に近づいて、っていうかみょうじの隣に移動してポケットに手を突っ込んだまましゃがみこむ。焚き火の熱気で顔がぼやぼやするけど気持ちい。あったかいしとなりのみょうじのまぶしい白い足が顔に近くてまぶしい。

「あーあったけー」
「ははッ!安田くんサルみたいだよー」
「もはや人間じゃないっすかー」
「うん、バナナ食べさせてあげたい」
「えー、それは俺がればいいのになー!!ってかえろ本を燃やみょうじにさせることでしょー?」
「えー?このタイミングで下ネタっすかー?!安田くんお下品ー、サル並ぃ」
「きゃー!!バナナを下ネタって…!!そっちの方がお下いっすよみょうじさんー!そして俺は馬並です」
「えー?!まさか安田くんにそんな事言われるとは…!!そして下ネタかぶせてきますねー、さすが安田くん」
「いやあ、そんな褒めたって何も出ませんよ?」
「じゃー私が何か出してあげましょう!」

あほな掛け合いが楽しい。二人だけでゆったり流れる時間が好きだ。こんな風にくだらない会話が愛しいって思えるなんて…俺も大人になったなー…しみじみするわ、みょうじさん。にこにこしながら木の棒でまだまだ焚き火をつついてるみょうじさん。

「何かってなに?おっぱい?」

『防火用』って文字が重々しくプリントされた銀色のバケツ(べっこべこ)の中にたっぷり溜められた水の上に灰が浮かぶ。指先だけでその水面を撫でて渦を作って遊んでるとみょうじが「学校ではおっぱい出しませんよー」ってきゃらきゃら笑った。「学校以外なら出すんすかー?!」って言いながら、濡れた指先でみょうじの白い足をびゃーっと勢いよく撫でた。

「うーわー!!冷たッ!安田くんそれは無いわー!!」
「無いっすか?!」
「無いわー!!」

ぎゃはぎゃはきゃらきゃら笑う声は乾いた空気によく響いた。耳を澄ますと校庭で部活をしてる声が聞こえる。冬はサッカー部がいっそう元気になる。水泳部が外周を走ってるファイトーの掛け声が近づいては遠ざかっていった。もっともっと耳を澄ませば焚き火の火がぱちぱちなる音、みょうじが隣ではぁって息を吐いた音が聞こえる。俺も真似してはぁって息を吐いてみた。けど、さっきみたいに白い息なんて出なかった。

「ようし!もういいかな?」
「おっぱい出す気になった?」
「ちがうってば!」

みょうじもしゃがんで、カーディガンの袖を引っ張ってなんか焚き火のふちっこをいじり始めた。あーあー、カーディガン汚れちゃうじゃん、何してんすかみょうじさんー。みょうじが、がしゃがしゃ焚き火をいじるからまだ火がくすぶってる葉っぱが地面を転がってった。俺は立ち上がってそれを追っかけてふみ消す。さっきと立場逆転した俺とみょうじ。

「はい!安田くん!」

みょうじが焚き火から取り出して、大事そうに抱いてたアルミホイルにぐるぐる巻きの、ところどころ黒く焦げてるそれを差し出してきた。ああ、焼きいも…。受け取るとあっつくって落としそうになって、急いでじかに触らないように胸に抱いた。あったけー…。

「あー、これ抱いてるとすげぇあったけー」
「さいきん寒いもんねッ」
「うーん…もう11月も終わりだしなー、12月だよ?冬だよ?冬」
「うん。11月終わっちゃうね」

あ、そういえば俺誕生日じゃん。はたっと気がついてみょうじのほうを見ると、まだにこにこ俺のこと見上げてた。みょうじは俺の誕生日覚えてんのかなー?どうなんだろう?知ってたらプレゼントとか欲しいよな…いや、でも…彼女にプレゼントねだるのも恥ずかしい話だよな。男としてさ…なんか器ちいせぇっつうか…がっつきすぎっつうか…。いも抱えたまま悩んでるとみょうじが笑った。

「早く食べないと、お芋冷めちゃうよ?」
「お、おう!」

まだあつあつのアルミホイルを破るように剥がすと、濡れたのがもう一回乾いてぱきぱきになった新聞紙が顔を出した。それごと芋を半分に割る。ぱこっと簡単に割れて、ちょっと拍子抜け。

「…ん?」

芋はなんか、あらかじめ半分に切れ目が入れたあったみたいで綺麗な断片をしてた。ほくほくの黄色の中に、筒状の紙が突っ込んである…。トランプの手品で、選んだカードがレモンから出てくるみたいな感じに。紙を取り出してみるとそれはメッセージカードだった。

「…みょうじ、これ…」
「へへッ、お誕生日おめでとう!安田くん!」

みょうじはもじもじしながら立ち上がって芋と紙を持った俺の手をとって、ほそっこーい指輪を俺の右手の小指にはめた。そして、自分も恥ずかしそうに右手を出して小指に光るおそろいの指輪をちらりと見せた。

「…おそろいっすか?」
「おそろい…っす」
「あ、ありがと…みょうじ」
「ううん!お誕生日おめでとう!」

俺はもう一度みょうじからもらったメッセージカードに目を向ける。みょうじは恥ずかしそうに笑って「恥ずかしいから、あんまり読み返さないでね」って言った。ああ、でもみょうじさん…そんな事言われたって…


「いもで蒸された所為でインクがにじんで読めません…」
「…?!え、あ…!!」

みょうじは、ばっと俺からメッセージカードを奪い取ってそれを確認する。文字がうにゃうにゃ泳いでるみたいに不安定で、みょうじの丸っこいもじってのも祟って全くの解読不可能品。みょうじは口をパクパクさせて頭をかきむしってから、泣きそうな顔で俺のほうを見た。え、あ…いや、悪いのは俺じゃねぇよね?なんだか言いえぬ嫌な予感がしてみょうじの肩に手を置く(いも持ったまま)

「…みょうじ、さん…?」

嫌な予感的中。みょうじはメッセージカードをさくっと焚き火の中に投げ込んだ。

「ぅえええええ?!」
「うわー!!あんな恥ずかしい事もうかけないよー!!」
「ええええ?!なに?!そんなに恥ずかしい事書いたの?!なのに捨てたの?!燃やしたの?!」
「もうやだー!安田くんのバカぁあ!!」
「ええ?!俺の所為じゃなくねぇ?!」

焚き火にざぱーっと水をかけて、もくもく煙が出る中で一生懸命カードを探したけど、もう燃えちまったようだった。焚き火の跡を必至でカード探す俺と、俺が持ってた芋を預けられたままぎゃあぎゃあ騒いでるみょうじ。あー、そのうち先生来ちゃうな…

「みょうじさん!!」
「うわッ、はい?!」

ばっと、ぶつけるようにキスしてから、また叫びだそうとしてるみょうじの口に芋を突っ込む。みょうじのびっくりした顔が本当に間抜けで笑えた。

「その恥ずかしいメッセージ、また来年書いてください!」

「ふぐッ(うん)」って頷いてくれたってことは、来年もまた一緒に誕生日迎えてくれるって事だよな?その約束が一番の贈り物です。

『愛してます、ずっと一緒にいてください。安田くんの小指は私がもらったので、私は薬指を空けとくね?いつでも予約受け付けてます。 お誕生日おめでとう!!』

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