安田くんとハロウィン
「やすだくん!とりっくおあとりーと!」
「ん?」
「え?あ!だから!トリックオアトリート!!」
「え、ちょっと待って…今日英語の授業なんかあったっけ…?」

なんかにこにこしたみょうじがわくわくした様子で俺の席に駆け寄ってきた。というか、なんかデカイ(典型的な魔女のイラストのそれ的な)帽子をかぶって、小さな黒いマントを肩に引っ付けてる。何それ?魔女?はりーぽったー?いやいや、かわいいんだけどね、わんころみたいにきゃんきゃん寄って来てくれるのはすげぇうれしいんだけどね?とりっくおあとりーと?ちょっと意味わかんねぇ…ごめん…

「あの、あれだよ!安田くん!ハロウィン!お菓子くれなきゃ悪戯するよーって!」
「…ぁあ!!」

そうかそうか!だからそんな、飴とかチョコとかグミとかこっちゃこっちゃした菓子を抱えてるのか…!!ていうか、え?ハロウィン?もうそんな時期なの?ってか…え?菓子とか…持ってねぇよ?俺…

「あーわりぃみょうじ…俺なんも持ってねぇわ」
「そっかぁ」

もう一回謝るとみょうじは笑って「いいよ気にしないでッ」ってにっこにこ笑ってぶんぶん手を振った。ああ、これは…結構ショック受けてるときの反応だよな…みょうじこういうイベント事好きだからなぁ…なんか持ってねぇのかな俺…ガムとかかばんに入ってねぇかなー。かばんをごそごそ探ってるとみょうじが俺の机の上に、自分がもらってきたチョコ、グミ、飴をころころと並べ始めた。紫とかオレンジとか黒とか、まったくもってハロウィン仕様のもんばっかで、何で俺忘れてたのかなーってなる。たぶんコンビニとかだいぶかぼちゃのなんやらが飾ってあったんじゃないだろうか?

「安田くん!どーぞッ」
「へ?」

カラフルな包み紙を綺麗にはずして、いやらしく笑うかぼちゃをイメージした一口サイズのチョコをつまんでみょうじがこっちに突き出した。よく意味が分からなくてぼうっとしてるとみょうじがくすくす笑って「おすそわけッ」って首をこくんと傾けた。帽子の先端がふにんと曲がる。あっ、かーわいー。

「さんきゅ」
「はい!あーん」

あーんって口を開くとみょうじは俺の口の中にかぼちゃのチョコを放り込んで、俺は反射的にくちをぱくんと閉じて、もぐもぐもぐあーおいしい!ありがとなみょうじッ!!ってなるはずだったけど、かぼちゃのチョコは俺の口の中に入らずすん止めユーターン。ぱくっとみょうじの可愛い口の中に納まった。…え?みょうじさん?

「お菓子くれなかったからいたずらしたんだよー」

嬉しそうにチョコをもぐもぐしながらにやにや笑うみょうじ。え?何この可愛さ?アホじゃん?バカじゃん?どう考えたってこれ、アレしていいフラグびんびんじゃん?俺はお約束なシナリオと古い歴史を重んじる伝統芸と、まぁはっきりいって俺の気持ちを大事にして机から身を乗り出してみょうじの口にかぶりついた。

「んッもが…!!」

みょうじのよだれにどろどろ溶け込んだチョコが甘い。チョコまみれになってるみょうじのベロに自分のベロをねっとり這わせて口ん中のチョコを全部舐め取ってやった。歯の隙間とかに入ってるやつも全部丁寧に舐めとってやってると、びっくりしたのとか色々に耐えかねたみょうじがちょっと口を開いてたらたらよだれが机にたれた。口の周りについたよだれが冷たくなる頃に口を離した。

「ごちそーさん」
「わ、わたしが悪戯したつもりだったのに…」

口元のよだれをぬぐいながらみょうじにお礼を言うと、気持ちよかったからなのかびっくりしたからなのか、ちょっとだけ目を潤ませたみょうじが俺を睨みつけてつぶやいた。かわいい、もっかいキスしてやりたい。



俺のは悪戯じゃありません。本気です。
(教室でべろべろすんな)
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