安田と電車
通学と君

〜電車編〜


がたん、ごとん、がたん…

たくさんの人でぎゅうぎゅう詰めになった朝7:40の電車。会社に行く人、学校に行く人、遊びに行く人…色んな人が乗ってる電車は8両編成の各駅停車。何の変哲も無い各駅停車の、揺れる箱の中で私の心臓はその揺れに負けないくらいに揺れていた。

毎朝駅のホームで見かける男の子。制服が常伏高校の制服だから、きっと学校が一緒なんだろうけど、学年も、クラスも、名前も知らない。名無しの男の子。背がすらりと高くて、いつも手をポケットに突っ込んでる。つまらなそーにケータイをいじる、大きな欠伸、鼻をこする。いつも彼と同じ車両に乗ってる事に気がつくと、心臓がぴたっと止まってしまった。体中が熱くなって、汗がにじんで、顔がニヤニヤする。一挙一動に気を使うようになった。駅に居る間に、何度も鏡で髪の毛をチェックして、リップを塗りなおして、スカート丈を確認して、一生懸命可愛く見えるように気を使う…くせに、彼に声をかけられるわけではない…はぁ…私ってば意気地なしぃッ!!

『上常伏駅』は右側のドアが開く。学生のほとんどは、満員電車の人の波で降り損ねたりしないように、ちゃんと右側に居る。私も漏れなく右側のドアの近くに立っている。ちらりと、横を見ると、座席に座って居る人達のずらりと並んだ頭の上に彼が見えた。…わっ…!!声を上げそうになるのをこらえて心の中で叫ぶ。わッわぅ…よ、横顔かっこいいなあ…!!やっぱり眠たそうな目は、相変わらずケータイに釘付けだ。

駅に着くと、一気にたくさんの人が降りて、降りるって言うよりは押し流される。階段(エスカレータ)を降りて改札をくぐるんだけど、そこまでしっかり歩けたためしがない。けど、今日はなんだか人の流れが穏やかで、ちゃんと歩けることが出来て、浅ましい私は、泥棒みたいに、悪いことしてるみたいに、ちらちらと目を泳がして彼を探す。みれるだけでいいんだ。見れるだけでラッキーなんだ。見るだけで、見るだけ…

見つけてしまったら?って考えるだけで火照る頬。階段を降り、最後の段に差し掛かる。ああ、見つけられなかった…。駅の構内に入ってしまえば、見つける確率はぐんと下がってしまうし、混んでいる。ため息をつきたくなる気持ちを抑えて、定期ケースから定期を取り出そうとカバンに手を伸ばした。

ら、階段の最後で前の人が定期券を落とした。あ。

私が立ち止まらないと、後ろの人たちが降りてきちゃって、もしかしたら定期が落ちている事に気がつかずに踏んでいってしまうかもしれない…。私は後ろの人に謝って、さっとしゃがんでその定期に手を伸ばす。


「あ、すんません」
「い、いえ!どうぞ!!」

ケータイから外された、もう覚醒しきったその目が、私を見てちょっとだけ笑ったように見えた。
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