2.浴衣
いくら県全域の約90%の地域が特別豪雪地帯に指定されてて、雪が多く降り積もりやすくって、冬季間の日照時間は全都道府県の中で最も少ない秋田県と言ったって夏祭りくらいあるわけでして、夏になればむんむんと寝苦しい熱帯夜になったりしちゃったりすることだってあるわけでして、そういう季節になれば誰しもが友達家族恋人となにやら浮かれて楽しく浮ついた気分でなんでもかんでもやってみたくなっちゃうどこにでもくりだしてみたくなっちゃうわけでして、私も漏れなくそういう地に足着かない浮ついた女の子の1人でありまして、だからもちろん大好きな劉ちゃんと並んで歩いてうちわ片手にカキ氷あーんとかかぶりついたイカ焼きのタレがこぼれちゃってあーんとか金魚すくいで金魚とってあげるとか射的で景品とってもらうとかおじいちゃんおばあちゃんが熱狂する町内カラオケ大会の歌声やら小学生の狂喜的な叫び声やら中学生の反抗的な喚き声やらを聞きながら手を繋いでぶらぶら歩いて人ごみから頭1つ飛びぬけた劉ちゃんにさりげなく歩行をリードしてもらったりにぎやかな通りから外れて恋人的イベントに突入するとかなんだかんだ妄想・計画をしてるんでありまして、してたんでありますけど「夏祭りなら、バスケ部の連中と行ったアル」しれっと言いのける203cmを見上げる首と、胸が痛んだ。「そ…うか、そっか…そうかー」「おなまえ?」そうだよね付き合ってるって言っても結局、バスケットの選手として留学してる劉ちゃんにしてみれば差し詰め私は現地妻…なんというか、なんというの?バスケ部の氷室くんとか福井先輩とかとかとかとの方が遊びに行くの楽しいですね私なんか一人で盛り上がっちゃってばかかあほかと心の中で罵りながら顔を両手で挟んで強制的に笑顔を作ってもう一度劉ちゃんを見上げる「わ、私も、劉ちゃんと異文化交流したかったなー」ぽかんと間抜け面で私を見下ろす劉ちゃん。ススキの葉っぱの先みたいに鋭く切れた眼で、じっと見つめられて、作り笑いが解かれそう「ゆかた」「えっ、…浴衣?」顔を挟んでた私の両手を、比べ物にならないくらい大きな両手で頭ごと包みこんでしまう劉ちゃん「今度あれ着て一緒に行くアル」劉ちゃん…「2mの人でも着れるサイズってあるのかな?」「どうにかするアル」

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