5.遺伝子
親子注意


「おなまえさん」長く家を空けたのが悪かった。「おなまえ」結婚して子どもを産んで、裕福な家柄に甘えて、国内外構わずに家を空けて自分のしたい事ばかりしてきた。それがいけなかったんだ。思えば母親らしい事をしてやった覚えなんて無い。10年以上も前の、まだ必死に私の乳房に吸い付いていた頃の、彼が赤ん坊の頃の記憶くらいが霧の向こうのイメージとしか浮かべることが出来た。ひたりと私の胸元に乗せられたては、そのイメージの中のふくふくとしたぬいぐるみのような手とは違い、知らぬ間に、男の手になっていた。親が無くとも子は育つ。そんな言葉が頭をよぎったけれど、耳の裏に這わされた舌の熱さに、ぬめりに背筋がぞくりと粟立って、そんな場合ではないと気を取り戻した。「こっちを見ないでね」かちゃかちゃと金属がかすかに触れ合う音と、綿のズボンの表面を皮のベルトが素早く這いずる音。振り返れるはずが無かった。正座している背後で、実子が欲求に駆り立てられ熱を持った性器を露にしている姿など、目を当てることなんて出来るはずが無かった。「おなまえ」ゆっくりと熱い吐息を吐きかけられ、鼻筋が肩から耳まで摺り寄せられる。すぅっとわざとらしく匂いをかぐ音。震える体で突き飛ばして、走って逃げてしまいたかった。でも出来なかった。これはきっと私の業なのだ。いままで自分の好き勝手に生きてきた私への罰なのだ。私の妊娠を機にした夫の不貞を嗅ぎ付け、まだ赤ん坊の征十郎を家のものに押し付けて、逃げて逃げて、逃げて生きてきた私への業だ。そっと熱い手に背を押されて四つん這いになる。つるりと火照ったものを内股に押し付けられていよいよ涙が出てきた。征十郎がのっ、と私に覆いかぶさり、その手で優しく乳房を覆いかぶせて、耳元で優しく、甘えるように、囁く。

『なぜだろうね?君には焦がれる様に惹かれてどうしようもないんだ』

ああ、なんて残酷な。同じ顔で同じ言葉を。そして私は身も心も引き裂かれ、死ぬ。

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