10.カミングアウト
"レズビアン"なんだ、と、リコちゃんに言えば、優しくて賢い彼女のことだからあからさまな態度で私のことを拒絶することはないだろう。そんな事、気にしないよって笑ってくれるだろう。いつも通り微笑んで私の隣を歩いてくれるだろう。部活の用事が無ければ一緒にお昼も食べてくれるだろう。彼女が夢中になっているバスケットボールの選手育成ゲームの話だってしてくれるだろう。ちょっと頂戴?請えば、今までは何の抵抗もなく差し出してくれたパックの牛乳のストローは?下校時間が偶然合った帰り道、私の手を握ってくれる?「リコちゃん好き」「私も、おなまえのこと好きよ」笑ってくれる?今までの当たり前が壊れてしまうだろう…。分かりきった事だ。私が異質なんだ。私がおかしいんだ。だからリコちゃんには言わないでおこう。変な奴だと、思われたくない。私のために、少しも、リコちゃんに気を遣わせたり迷惑になりたくない。だから、辛くなったときにはこっそり泣こう。一人で。一人きりで。何でも相談できるリコちゃんだけには相談できない、たった一つの秘密事が私の全部の支えで私の全部を壊してしまう。感情におぼれてしまわないように体の外に涙を逃がそう。誰もいなくなった教室で、いつかおそろいで買ったハンドタオルに顔をうずめる。あと2年。あと2年我慢すれば全部思い出になる。私はリコちゃんの、リコちゃんは私の友達として、高校の友達のまま終われる「おなまえ…泣いてるの?」「…リコちゃ、」どうしたの?なんて言わないで。私を思ってくれるその唇に、自分の感情を押し付けてしまいたくなる。友達のままじゃ…終われなくなる。

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