22.ため息
文字通り息を飲む。口に含んだ空気を舌の上で転がして味わって惜しむように誘い込むように喉の奥へ飲み下す。それは私の気管支を通って肺を満たして肺胞からそれぞれ伝わるべきところへ伝わり私を生かす。はあ、美味しい気がする。甘い気がする。あったかくて湿ってて愛おしくて尊い。

「みょうじ、勝手に僕のため息を飲まないでくれ」
「だってねだってね、もったいないでしょう?」

私真剣に答えれば赤司くんはさらにため息を漏らした。今度は怒られないようにそっとにおいを嗅ぐだけで我慢した。ため息をつくと幸せが逃げるって言うけどもしそうだとして、赤司くんがため息をついたことによって赤司くんの幸せが逃げたのだとしたらたぶんその逃げた幸せは私が捕まえた。赤司くんの口を気管支を肺を静脈を巡り巡って赤司くんにたっぷり染まったあたたかい二酸化炭素と水蒸気。それが外気で冷える前に、大気に溶け込んでしまう前に口で捕まえてのみこんでしまう。赤司くんの中の体の中を巡ったものが私の体の中を巡っているだなんてとても官能的で興奮する。これって私にとっては十分すぎるくらいの幸福で、赤司くんにしてみればまあ目の前にため息吸引機(赤司専用機)みたいな女が居て気持ち悪くて居心地が悪いかもしれないけど「ため息にもったいないも何もないだろう」ってなんでもない風に返して詰め将棋を進めてるから、私が心配するほど赤司くんにとっては"無し"ではないようだ。

ぱちん、ぱちんと赤司くんが将棋の駒をあっちからこっち、こっちからあっちに進める不規則的だけど迷いの無い音に安心感と眠気がこみ上げる。うとうとしたまま赤司くんを眺めていられるなんて最高じゃないか。我慢しきれずにくわっとあくびをした瞬間、ふっと赤司くんの顔が近づいて「ほあっ?!」とおかしな声が出る。「もったいないんだろう?」にやりと笑われて「あくびは吸うものだよ」眠気なんて吹き飛んだ。

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