13.空中分解
ぴたっと指をくっつけた右手の親指と小指を広げて、手の平だけで再現できうる限りの飛行機を作って、私の腕のめいっぱい届く限りの空をすいーっと飛ばしてやる。ベランダには気持ちのいい風が吹いてて空は青くて本物の飛行機がすいーっと飛んでたりする。『乗るな!跨ぐな!もたれるな!』の三ヶ条が記された注意書きがガムテープでベタッと張られたベランダの塀に外向きにもたれて思い通りの飛行機を操縦してる私の隣には、同じくベランダの塀に教室向きにもたれて横目でわたしの事を見ている緑間がいる。さらさらと風が、緑間を緑間たらしめる緑色の髪をなびかせてなんとも罪深い。絵にして額に飾ってつるしたって誰も文句言わないだろう。直視でき無い。緑間は綺麗だ。隣に居るだけで、なんだか自分が恥ずかしく思ってしまうほど。緑間の髪をなびかせてる風が、私の髪までなびかせてるんだと思うと、嬉しくて恥ずかしくて、匂いまで運んでくれてしまわないだろうかとすんっと鼻をすすってみたくなってしまう。私は変態なのかもしれない。隣に居る男のにおいをそれとなく嗅ぎたいがために自然を装って鼻水が出るでもなく鼻が痒いわけでもなく鼻毛が伸びているわけでもないのに、すんっと鼻をすするなんて、変態じるしの判をおされたって文句言えない。だからだから、どうしてか偶然に私と緑間が同じタイミングですんっと音を立てて鼻をすすってしまった事に胸が熱くなって口元がぐにゃぐにゃになってしまう。「何がおかしいのだよ」緑間が何を考えてるのかなんてわかんないよ、だけどだけど、どうして嬉しそうな声突然私の髪に触れてきたテープでグルグル巻きの指先に何か期待をせずにはいられないし心臓が破裂しそうなときめきに私の右手の飛行機はその空を飛ぶ形を忘れてぎゅっとグーに握られる『乗るな!跨ぐな!もたれるな!』私の心臓の鼓動でベランダが崩れてこのまま2人でどうにかなってしまいたい。

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