4.苦笑い
「大丈夫だと思ったんだけどなぁ」保健室のベッドに横たわる小堀くんがへらっと笑う。私のご機嫌取りのために取り繕ったその苦笑いが無性に腹立たしかったので、ベッド横のパイプイスから立ち上がって小堀くんの鼻をぎゅと摘んでやる。大きな体を少しだけ丸めて真っ白なシーツに包まれているのは、別に熱がでたとか急性白血病だとか生まれつき心臓が悪いだとかそういう大それたことじゃない。授業が終わって、みんなが部活動に移動する時間。小堀くんが部活前に職員室に行こうと階段上ってたら、丁度自分の前を登ってたクラスの女の子がいて、その子が階段を上り終えた瞬間、その階段を降りようと駆け込んできた男子生徒とぶつかりそうになって後ろによろけたのを小堀くんがその根の優しさと屈強な体で受け止めようと、とっさに階段を1段2段強く踏み込んだ・・・ら、無事に女の子のクッションにはなれたけど、その反動で足を滑らせて2段3段ほど階段を転げたらしい。最後まで落ちる前に受身を取れたのはよかったけど、階段のふちで額をぶつけて、皮膚がぱくりと割れてたくさん出血した。針で縫うとかそういう怖いことにはならなかったけど、とりあえずガーゼと包帯で止血。このあとお母さんが迎えに来て大事をとって病院でエコーだかなんだかの検査を受けるそうだ。もちろん今日の部活はなし。ついさっきまで笠松くんと森山くんにこってりお叱りを頂いてた。「もっと自覚を持て」とか「そんな格好良いことしてずるい!」とか・・・森山くんはちょっとズレてる・・・。「ごめんね」小堀くんは私に鼻をつままれたままの情けない鼻声で、それに似つかわしくないくらい優しい目で私を見た。痛々しい包帯が巻かれた真っ黒な頭が、私の手が届く低い位置にあるのが不自然で、もしかしたらこれを失っていたかもしれないって恐怖に、いまさら体が震えてきて、わしっとその黒い頭を抱きこんだ。私の左のおっぱいを押し上げるように小堀くんの包帯が巻かれたおでこが当たる。私の心音が小堀くんに伝わるのがわかって、小堀くんも「これ、おちつく」って私の心音を感じている。ベッドに横たわる小堀くんの頭をぎゅっとしながら、頭のてっぺんに唇を寄せる「もう2度としないでね」そういって腕を放せばまた小堀くんが苦笑う「みょうじにこんな風にしてもらえるなら、ちょっと悩んじゃうなぁ」やさしくってバカな小堀くん「こんなのいつだってしてあげるのに」涙と苦笑いがこぼれた

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