15.カフェイン
辰也はコーヒーを好んで飲む。高校の後輩にもらったとかいう大きな大きなマグカップに真っ黒な液体をなみなみと注いで私のところまで、その香ばしい匂いを漂わせながら近づいてきた。楽なカーディガンにスキニージーンズ。細いのに筋張った平たい真っ白な素足。ソファに座って大好きなチョコレートを摘みながらあたたかな紅茶を楽しんでいる私には刺激的すぎる匂いをまとって、ゆっくりと絡みつくように隣に座る辰也。私の頭に綺麗な手を添えて、髪の毛だけをすくい上げるような優しい仕草でなで上げながら、ずずっと音を立ててコーヒーを一口、二口。片手には大きすぎると思うそのマグカップも辰也には片手で済む問題らしく、マグを握った腕の筋が、私の頭を撫でるその仕草とは見合わないくらい力強さを感じさせる。身をかがめて目の前のローテーブルにマグを置くとき、そっとのぞき見えた鎖骨がとってもセクシーだ。「マカダミア?」テーブルに広げられたチョコレートの粒を指先で摘んで、辰也が無意識なのか意図的なのか、耳元で訊く「アーモンド」答えれば、吐息とも言葉とも取れないン〜なんていやでも外国暮らしを意識させるような声を漏らす。その息が、またコーヒーの香りがして「辰也コーヒーばっかりね?」私が好きなのは紅茶だ。色がきれいだし香りはまろやか、チョコレートにはもってこいの飲み物だ。チョコレートを口の中でコリカリっと噛み砕きながら辰也がくすくす笑う「おなまえは紅茶派だもんな」またマグを手にとって、大きく一口仰ぐ辰也の顎の裏っかわ。真っ白で血管とか筋とかが浮いててすごく病的。あんな白くて綺麗な皮膚をまとったその中で、アーモンドチョコレートが真っ黒なコーヒーにとかされているのを想像する。体に悪そうだ。香ばしいローストアーモンドと、甘いチョコレート、彼の毛穴から匂うように染み付いたコーヒーの匂い。「カフェインの摂り過ぎで、寝れなくなったって知らないから」「っていうけど、おなまえが飲んでる紅茶にだって、そのチョコレートにだって。カフェインが含まれてるんだからな」小さい子に優しく愛おしんで意地悪するみたいにあたたかく笑う辰也。でも、と続けて私の膝にまたがって、ゆっくりとその体を添わせてそっと両頬を包みこみ「おなまえが眠れなくなっても、俺がちゃんと寝かせてあげるからね」ちゅっと重ねられた唇が、チョコレートのように甘いコーヒーの味がして、ああ、コーヒーも悪くないな。なんて。

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