19.無防備
隙のない人が隙を見せる時って言うのは、むしろ隙がないな〜と思う。だってあざといじゃないか。ずるいじゃないか。いつもお坊さん顔負けにストイックな太郎くんが、こんな風にリビングで居眠りしてるんだ。ライフラインの眼鏡をかけたままで、すぅすぅ寝息なんて立てちゃって。普段は意識的なのか無意識なのか知らないけど、隙がないくらいにかっこいい。粗探しするわけじゃないけど、大体いつもかっこよくて隙がないそつが無い。だから、こうやって、あえて隙だらけな姿を見せられると、どうにも弱い。母性本能とか庇護欲だとかがこんこんと湧いてくる…あざとい…。あたたかい日差しの中、ソファに沈み込むような格好で、それでも寝倒れてしまわないように頑張ったんだろうなーってわかる位に後ろの髪の毛がくしゃげていた。疲れたサラリーマンのおじさんが腕を組んで電車で寝ちゃってるような格好が、太郎くんの年齢とか普段のキャラにはあってなさ過ぎて、日曜日の午前限定の激安たまごパックを買いに出かけていた私は、その穏やか過ぎるレアショットに膝から崩れ落ちてしまった。かわいい!かわいすぎるよ太郎くん!!買い物袋をキッチンに運ぶのも忘れて、夢中でポケットの中のケータイを探り出す。少しだけ、開いたままの太郎くんの唇はたっぷり濡れてて、日差しをてらりと反射させていた。長いまつげも、すっと通った鼻筋も、ゆるゆるの表情も。全部可愛くて全部愛しくて、その欠片だけでも記憶装置として何か形に残そうとこっそりぱしゃりと写真を失敬。ケータイ画面の中の眠り姫太郎くん。高尾くんに送ってやろうかな?そしたらきっとすごく面白いことになるだろうな!いろいろバラまかれちゃって太郎くん大きな声で怒るんだ、恥ずかしがって顔真っ赤にしてデータを削除するのだよ!!とか怒鳴ってさ、かわいいんだー「んっ…ぅ」身じろぐ太郎くん、あ、シャッター音の所為??夢とも現ともつかない様子で頭をもぞもぞ動かす太郎くんの隣に座って、まだ寝てていいよってつもりで、でも危ないからって眼鏡を外してあげようと手を伸ばす。太郎くんの綺麗な顔に傷なんてつけたりしないようにそうっと眼鏡を外してローテーブルに移動させ、もう一度太郎くんの隣に深く座りなおす。太郎くんの肩に顎をのっけて、耳元で「太郎くん」って囁くと、可愛い反応を返すわけでもなく、私の声を雑音と認知したのか反対側へ首をかしげた。ぬっと覗いた色っぽい白い首筋。太郎くん、頂きます。

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