シャツのボタンをいつもより開ける

やぁ、おはよう。ついさっき、朝練にしてはハードすぎる朝練をこなし、爽やか朝一番の老廃物を垂れ流してきたすっぴんつるつるの森山由孝です。俺が思うに朝練ってのはさ、もっと、こう…ストリートバスケみたいな軽さで、ちょっと体動かす程度、ボールに体を慣らすくらいでいいんじゃないかと思うんだけどね。うちの頑張り屋さんのキャプテン様ったら、そんな甘くなくってね…まぁ、朝っぱらからとんでもない量の汗をかいたよね…。文句は言わないよ。それも正しいと思うから。バスケは好きだし、あのメンバーでするバスケは本当に最高だと思う。本当。心から。ただ、朝一で汗まみれってのは…ちょっといただけないよね…。シャワー設備のあるところでよかった…。汗臭いとか、あり得ないでしょ…。朝からバスケしててさ!汗臭いけどごめんね!でもスポーツしてる男って爽やかだろ?!なんて、通用しない事くらい分かってる俺です。だから、頭のてっぺんからつま先まで余すとこなく全身つるぴかに清潔感香り香る石けんで洗い上げてるとロッカールームから「森山長ェよ!!」って文句言われた…。そんな、理不尽な…俺が臭くてもいいのかァ?!

今日のミッション『相手を誘うエロチックな動作 3、シャツのボタンをいつもより開ける』…。学校指定の半袖カッターシャツは学生を輝かせる重要なアイテムだ。真っ白で飾り気の無い、一見ストイックそうな印象を与えるけど、ひとたび風が吹けば軽くはためく裾からチラ見える肌…光を吸収した白い布地が、柔らかく素肌を陰らせつつも照らし出す…最高の照明だ。大きな袖口は、腕を高く上げれば脇のギリギリまでさらけ出してしまうという危うさを持ちつつも、ゆったりと気楽そうで涼しげで…うん。やっぱりいいな…夏服…を、着た、みょうじさん…。朝の風に髪を躍らせ、席に座って読書にふけているみょうじさんの静かでいて力強い美しさは、もう既にパワースポットに認定されるべきだと思う。無意識に、ぐっと拳を握ってしまう。ああ…今朝も美しい…みょうじさん、目に入れても痛くないかどうか、ぜひ、試してみたい…。

「おはよう、みょうじさん」
「あ、森山くん。おはよう」

例の如くみょうじさんの前の席のイスを借りて、向かい合う。はにかむみょうじさんに高鳴る胸を抑えつつ、ぷちぷちっと、いつもより1つ多く解放されたボタンから、ちらっと俺の素肌が見えるように(わざとインナーは着てない!!)シャツの襟元をはだけさせる。自然に…。女の子がスカートを直すみたいに自然に、エレガントに、セクシーに!!

「今朝も、朝練?お疲れ様です」
「いやいや、ありがとうございます」

みょうじさんが冗談っぽく、俺の事を労うように深々と頭を下げる。さらりと髪が落ちて、かげるみょうじさんの顔が、白い肌と髪のコントラストですごく大人びて見えてどきっとした…だけにとどまらず、ふわっと香るトリートメントからくるらしいパッションフルーツのような、たっぷりとした花束のような…言いえない芳しい香りが鼻をくすぐって…うっかり涙がこぼれるくらいに、心臓が高鳴った。で、も…!!ちがう、だろ?!俺がみょうじさんにきゅーんってする場面じゃないんだ…!!あ、いや、そういう場面なんだけど…!!っていうか、俺はみょうじさんに対してはいついかなるときもきゅーんしてるわけで、それがデフォルトなんだけど!!違うだろ?!今日は、違うだろ?!俺が!!みょうじさんを!!きゅんきゅんきゅきゅーん!!って、させちゃう場面だろう由孝ァ!!…由孝ァ!!!!

「でも、みょうじさんがよければ」

肘を付いて、少し前かがみになってみる。シャツが、重みで、するりと下がるのが分かった。

「もっと褒めてもらえると、嬉しいな」

首を傾けて、首筋をさらけ出してみたい。みょうじさんは、どうすれば俺にドキッとしてくれる?ハッとしてくれる?思案しながら、ゆっくりとした動作でいろいろと試してみる。なかなか返事をしないみょうじさんから、わざと顔を背け横目で見て見たり、前髪をいじってみたり…。…今回のミッションは、なかなか難しいな…動作じゃない分、シャツをはだけさせた後は俺の自己判断だけでの行動になるという事か…やはりステップ3になると、難易度が違うな…。

「森山くん、いい香りがする」

ぐっと寄せられる、みょうじさんの顔。驚いて、身を仰け反らしても、みょうじさんは離れなくて、なッ、こ、これは…!!とうとう、みょうじさん…!!エロチックな気分に…なってくれたという事なのだろうか?!どう、いう…?!う、嬉しい…が、こ、れは…大変恥ずかしい…!!ぐっと首を伸ばして、俺の胸元で鼻をすんすんと鳴らすみょうじさんの、丸く形のいい頭を、ぎゅうっと抱きすくめてしまいたいような…でも、今すぐにその場から逃げ出してしまいたいような…いろいろな感情で顔が熱くなつのが分かった。え、え…俺?!そ…え?!こ、こんな乙女だったのか?!

「あ!シトラス!!」
「ぅ…あ、はい」

にっこり微笑んだみょうじさんに、確信を抱く。彼女、天使なだけじゃない…小悪魔も兼ね備えた恐るべき…みょうじさんだ。も、う…今日は、ドキドキし疲れて…笠松に報告はいけなさそうだ…。


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