さりげなく唇を舐める
みょうじさんは俺のクラスメイトで、一番後ろの席で、窓側から二番目とかいうクラスで一番の美少女(俺的ランキング)が座るにもっともふさわしい席に鎮座されている女の子なんだけど、何が可愛いって何が?説明しろって方が無理だよね?だってそもそも俺とみょうじさんの出会いは運命であって、あとから取ってつけたような説明じゃあ俺たちの燃え盛る(これから着火予定)愛をしらけさせてしまう事間違いなしだからな!

「みょうじさん!」
「あ、森山くん」

美少女席に鎮座していたみょうじさんを取り囲んでいた女の子達(クラスメイトでみょうじさんのお友達)が、俺を見るとくすくす笑って、女の子らしくリップクリームやらパールグロスやらで武装した愛らしい唇を小さな手でこっそりと隠した。席に座っているみょうじさんだけが、にこやかに俺を見上げる。ああ、その微笑みたるやみずみずしく爽やかな匂いをたっぷりと含んだ夏風の如き…!!俺の胸を駆け巡っては、恋焦がれた炎にありったけの酸素を送り込む愛の疾風!!

「じゃあおなまえ、うちらはおいとまするわ」
「森山くん、ばいばーい」
「あっはは…後でねー」
俺とみょうじさんを2人きりにしてくれるために、女の子達は席を外してくれたようだ…なんて粋な計らいだろう?!笠松にもこれくらいの配慮とか思いやりが必要だと俺は思うんだよなー、やっぱりみょうじさんのお友達となると違うな。類が友を呼ぶように、素敵なみょうじさんの周りには自然と素敵な人が集まってくるんだ…

「それで、今日はどうしたの?森山くん」
「みょうじさん、今日も素敵だね。特に今日はネクタイの結び目が決まってる」
「あっはは、ありがとう。曲がってたのをさっき友達が直してくれたんだよ」
「えッ…?!っと、そして今日も相変わらずに美しいね!あ、マニキュア替えた?」

頬杖を付くみょうじさんの指先の色が変わってる。うっすらと桃色に、ぬるりと溶け出しそうなたっぷりとした色だ。みょうじさんは満足そうに微笑んで(可愛い)自分の爪を眺める。その間に俺は失礼してみょうじさんの前の席の椅子を拝借。ああ、高い位置から、こう…見守る感じのアングルも素晴らしいが、同じくらいの目線で真正面から眺めるみょうじさんは、本当にたまらない。この感情を上手く言葉にしてみょうじさんに伝えられることが出来ればいいのに、ふさわしい言葉が見つからない。

「よく気がついたね?そう、塗りなおしたの」
「前の色も素敵だったけど、今度の色も素敵なみょうじさんを際立たせる素晴らしい色だね」
「ありがとー」

ぺろっ

ちらっ

みょうじさんが正面から俺を見たときに、例の『相手を誘うエロチックな動作 1、さりげなく唇を舐める』を実行。下唇を、不自然になり過ぎないように、ぺろっと一発。ちらっとみょうじさんの様子を伺ってみたけど、今のところエロチックな変化はなさそうだ…。これは、あれか?見えてなかったのか?それとも何度か試さないと効果は無いのか?…ぬかった、そこまで調べては来なかった…まぁ、何度やっても効果が薄れるなんてことは無いだろう。もう一度、ぺろり。今度はちょっと大胆に、しっかりと舌を出して、下唇全体をなでるように、そして、みょうじさんに見せ付けるように、極力、自然に…ナチュラルに…

「あ、次って数学だっけ?」
「そうだね、宿題やってきた?(ぺろり)」
「やってきたよー設問5だよね?」
「設問5の問1問2だよ(ぺろぺろ)」
「ねー、問2難しくなかった?私まだ式の途中なんだよねー」
「あぁ、確かに。難しかった(べろーん)」
「当てられたらどうしよう」
「問2は授業で解説してくれると思うから(べろべろ)心配ないよ(べろりーん)」
「そっか、よかった!ところで森山くん」

机から、空気を乱すような数学の用具を取り出してしまったみょうじさんだったけど、とうとう来たッ!!俺のさりげなく舌を舐める動作でエロチックな気分になったんだねみょうじさんッ!!ああ、でもシャーペンをくるくる回したり、授業で当てられたらやだなーなんて不貞腐れてるみょうじさんも月、星、花のごとく魅力的にかぐわしく、それだけでも俺としては地球3週したって惜しいとは思わない…!!みょうじさん好きだッ!!大好きだッッ!!

「くちびる乾燥してるの?リップ貸してあげようか?」
「…え?」

…え?

「いや、だってさ。さっきからずーっとくちびる舐めてるから…かさかさ?」
「え…あ、え?っと…そ、うだね…乾いてるのかも」
「やっぱり?私もリップ取れてくるとくちびる舐めちゃう癖あってさぁ」
「って、え?!みょうじさんのリップ?!みょうじさんのリップクリーム?!…みょうじさんのッ?!」
「リップクリーム」

ガタガタっ!っと大きな音を立てて椅子から立ち上がる。さりげなく唇を舐める作戦が通用しなかった事を、嘆いている暇なんてない…!!みょうじさんのリップ、リ、リップクリームだと?!それは、アレだよな?!常にみょうじさんの胸ポケットに入っていて、何度もみょうじさんの手によって蓋を開けたりくりくり伸び縮みさせられたり、あ!ところでリップクリームって言う時のくちびるってすげぇいやらしい…!!んで、最終的には、みょうじ、さんの、く、くちびる…くちびるに…を、お、俺…に、か、し…貸し…貸して

キーン、コーン、カーン、コーン

「あ」
「あらら、授業始まっちゃったね?」
「あ、俺まだ授業の用意…!!」
「ははは!ばいばい?」

慌てふためいて席を離れれば、俺が拝借していた席の持ち主である女子が少し迷惑そうにしていたのに気がついた。急いで謝って自分の席へと駆け出すときにもう一度みょうじさんの事を見てみると、きらきら輝く太陽3つ分の笑顔で、戻ってきた前の席の女の子と何やら楽しげに会話を弾ませていた。…ああ、平和と刺激が同時存在する混沌という名の美…みょうじさん…。席に着くと、数学の用意をロッカーに入れたままだったことを思い出して、結局また席を立つ事になってしまったけど、みょうじさんの笑った顔を何度も見れた事を思えばそんな事朝飯前の、前日の朝飯を抜いたって構いやしないことで取るに足らないことだ。

「リップクリームであんなにはしゃいじゃって。おもしろいなー森山くん」




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