さみしい金曜日
憧れの赤司くんの、恋人昇格テスト(と言う名の主従ごっこ)が始まって5日目の夕方。金曜日には、週末の休暇用にとなんでかどっさりと各教科からの宿題やら復習・予習の強要なんかがあって、いつものように赤司くんの部活が終わるまでの図書室での待機時間が濃密なものになった。今までなら、かるく宿題をこなしちゃえば、あとは私の脳内で、バスケに励むかっこいい赤司くんを想像してちょっとよだれをたらしてちょっと後悔するって作業を、3分の休憩を挟んで大体10セットくらいこなせちゃうんだけど、今日はそんな暇がないくらいガツガツ学業に勤しんだ。さて、なぜか?金曜日、明日は土曜日、その次は日曜日…。つまりですね、決戦は金曜日なわけです。お母さんには友達のお家にお泊りに行って、水族館に行ってくるって言ってある。今朝はやく学校のロッカーにぎゅうぎゅうに詰め込んリュックサックには、先週の休みにショッピングモールで買ったばっかり下ろしたての可愛いカットソーやらお気に入りの柄パンツとかがきゅうきゅうに畳み込まれて詰め込んである。ちゃんと、替えの、パンツも、ブラジャーも、ミニタオルもバスタオルも入れてあるし、ブラシも洗い流さないトリートメントもスキンケアのなにやらボトルもいい匂いのボディシートもトランプも、お気に入りのお菓子とかも入れてある!!つまり、私、みょうじおなまえ、今回は、なんか真面目に!真面目に?!ちゃんと1から10までしっかりがっつりばっちり赤司くんのお家にお泊りしちゃう…しちゃう?!しちゃうの?!あの赤司くんのお家に?!お泊り?!しちゃう?!…しちゃう!!ん、です!!だから、その、宿題とか、来週の授業の予習とか、そういうのは今ここできっちり終わらせちゃって、赤司くんとのお泊りに、そういうのを持ち込まないようにしよう!!ってなんかもう取り付かれたようにシャーペンを走らせてたんだけど、もう、これ…1か月分くらい勉強してるね私…なんだか脳みそがじんじん痺れてるもんね…そのお陰で、宿題等々は全部終わったんだけどね…は、ぅっ…抑制が利かなくなって勝手に脳内で赤司くんが「週末の課題、全部終わらせたの?偉いね、みょうじさん」って頭よしよししてくれる…なっなんだこれ?!まだ知られざる私のポテンシャル…!!

ふぅっと1つのため息で、脳内で微笑む赤司くんをそっと煙に替えて空気に溶け込ませるように吹き流す。ぎゅっとイスの上で体を縮込ませて自分の体を抱きしめる。私の腕で私の腕を確認して、私の肩が私の頬を撫でる。窓の外はもう夜の空の色になりつつあって、ぽつぽつと星が出ていた。赤司くんのお家にお泊り、なんて…まだ夢みたいだ。昨日も、一昨日もその前も、同じ部屋(赤司くんはベッドで、私は床)で寝てたはずなのに。赤司くんの部屋で過ごしてる間、9割は睡眠状態だから、本当に赤司くんのお部屋にいること自体が夢みたいだ。朝には赤司くんに寝起きの間抜けた私を見せてこれ以上幻滅されないようにと思って、せめてでも赤司くんよりははやく起きて、顔を洗って髪くらい梳かそう!ってケータイのアラームをかけておくんだけど…私、ケータイにはちゃんとパスワードかけてるはずなのに、いつの間にか赤司くんにケータイをいじられて早朝アラームが解除されてしまっている…そして結局は赤司くんに声かけてもらうまでぐっすりと、床なのにぐっすりとたっぷりと寝こけちゃって…!!今朝なんて赤司くんのクッションによだれ垂らしちゃってて、ものすごく絶妙な顔で「そのクッションはみょうじさんにあげることにしよう」って言われちゃって…本当に、私、末代までの恥…。…こんな風に、赤司くんと、おしゃべり…してるんだ、私ってば。私のくせに、私なんかが…。

今夜は学校から帰ったら、1度だってお家に帰る事無く、そのまま赤司くんのお家に行くことになるんだ。一緒に晩御飯を食べて、一緒にテレビなんて見ちゃったりして?頼めば一緒にトランプとかしてくれるかな?赤司くんって神経衰弱とかすごく得意そうだなぁ…コツとか教えてもらえないかな?トレーニングルームみたいなところあったし、お家に帰ってからもがんばってるんだろうなぁ、ランニングとか筋トレとかしてるの、見ててもいいかな?かっこいいんだろうな…いや、絶対かっこいい。だって、赤司くんだもん。普通にしてても、立ってるだけでも座ってるだけでもあんなにかっこいい…というか、美しい…というか、なんかもう、ミケランジェロのレベルだよ…。ダビデ像がダンベル運動してるのよりも、赤司くんがランニングマシーンで走ってるほうが絶対かっこいいけどね!!汗とか、かいたら…シャワーするよね…湯上りの赤司くんとか、見れたりするんだろうか?…い、やらしい、こと…は、考えてないけど!!赤司くん、この間はパジャマ代わりに軽いTシャツとハーフパンツで寝てたし、なんか、そういう、プライベートな格好で、髪が、濡れてるとか…なんか、うん、妖艶だ…うん。そういう、あんまり、みんなが見たことない赤司くんを、見れるんだと思うと、なんかもう…とんでもないくらい遠いところに来てしまった気がする…。それがいいとか、悪いとかって言えないけど…、なんだか、今まで見たいに、盲目に、無責任に、赤司くんかっこいい!!素敵!!とか、騒いでていい距離感じゃないんだろうなぁ…私たちって、既に…。なーんて…、かっこつけるわけじゃないけど…。実際は、あれ、大きな山。富士山とか、そういう。圧倒的なものを、遠くから見てるだけなら良かったんだけど、近づいてしまって、さらに、その存在の大きさに、圧倒されてる、感じだ…それに近い…。目を閉じて、今度は、自然に湧いて来るんじゃない赤司くんのイメージを思い浮かべてみる。赤司くんの部屋で、制服から部屋着に着替える赤司くんとか、お食事する赤司くんとか、お、お風呂上りで、濡れた髪の毛から水滴が滴る、あ、あか…あかしくんとかっっ!!!!

「みょうじさん、帰るよ」

図書室まで迎えに来てくれた赤司くんが、ぎゅっと私の耳を摘み、強く引く。

「あだっあ、いたいいたい赤司くんっ千切れるッ」
「電話したのにみょうじさん出ないから。この耳は飾りか」
「飾りじゃないですっごめんなさいごめんなさい」

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