たいへんな火曜日
「今日から僕のペットになりきって、僕をがっかりさせなかったら合格だよ」

…えっと、よく意味が分からないんだけど…。

教室で移動教室の準備をしながら、昨日の赤司くんの言葉を思い出しながら、ああ、いい夢を見たなァ私…あれは夢だ、だって赤司くんのような人が私なんかにわざわざ声なんてかけるわけが無いんだ…昨日はあったかかったから友達とおしゃべりしながらついうとうと寝ちゃったんだ私は。そして寝る前に赤司くんの事考えていたから、都合よく夢に赤司くんを出演させてしまったんだ…赤司くんに出演料をお支払いたいくらい素晴らしい夢だったなァ…やっぱり赤司くんは素敵だ「みょうじさんっ」なァ、赤司くんかっこいいな「みょうじ、1度で返事、駆けつけろ!2度目は死刑だよ」ァ…?

廊下に呼び出されて、赤司くんが美しい腕組みをなされ素晴らしいおみ足を交差なされる前に正座させられている私、みょうじおなまえ16歳っ洛山高校1年生!!同級生の赤司征十郎くんにゾッコン☆ラブなフツーの女子高生…だったはずなのに、憧れの赤司くんからとんでもない条件で恋人にしてあげなくも無い…みたいなツンデレ全開の申し出を「僕の話を聴いているのかな?それとも死刑宣告が聴きたくて耳を澄ませているのかい?」

「…赤司くんの美しすぎる声に聞惚れておりました」
「素直でいいね。そういう素直さを大事にしなよ、僕は聞き分けのいい子は好きだよ」

ごすっ!!とわき腹を蹴られた。…蹴られた?!あ、あかしくん?!そ…え…?!な、なんで今蹴ったの?!痛みと驚きに赤司くんを見上げると「何か文句ある?」みたいな圧倒的な態度で私の事を見下ろしてて…結局なにも言えずにまた俯いた…赤司くん、かっこよすぎるから直視は出来ないし…でもなんで?なんで私蹴られたんだろう?!嬉しいことが爆発しそうなのと、訳がわからないことが起きすぎて爆発しそうで、とにかく私は爆発しそうなんだけど…どうも今わたしが爆発してしまうと赤司くんには具合が悪そうなので…我慢、がまん…

「ペットだからね、寝るときは僕の部屋でね」
「ひょえっ?!」
「ねぇみょうじさんは一応人間なんでしょ?人語を使ってよ、日本人たる自覚があるなら日本語だと助かるね」
「あっ、わ…赤司くんのお部屋に、遊びに行っていいの?!」
「遊びじゃないよ、テストだよ。昇格テスト」
「ね、寝るって…その、おままごとみたいな…『おやすみー、ぐーぐーむにゃむにゃ…じゃあもう、朝ね?、はいっおはよー!!』みたいな寝るってことでいいんだよね?本当には寝たり」
「するよ。ペットは主人と行動を共にするのが基本でしょ?それに何、今の小芝居…共感しかねるよ」
「そ…そんな…わ、わたし…だ、赤司くんと…」
「いかがわしい想像をして居るのなら大間違いだから引き裂いてやりたいけど、今回は我慢しておいてあげる。次は無いよ」

引き裂く?!な、なにを?!驚きに声をなくしていると、赤司くんは「部活が終わるまでどこかで待っててね」と言って、どこかに行ってしまった…。え、え…ほ、本当に赤司くんのお家に…お泊りしてもいいの?!それだけでも十分、私は人間として、赤司くんのお友達バロメータ?的には相当な昇格を成しているんだけど…!!そ、そして…ノートを綺麗に正方形に切り取った紙を渡されて…こ、こ…これは…!!

「赤司くんの電話番ごッ」
「うるさいのは好きじゃないな」

顔面を蹴られました。私女の子なのに…



「待たせたね」
「う、ううん!全然っ!!」
「…待ったでしょ?嘘言わないでよ、僕は十分に部活をしてきたんだからその間、みょうじさんだって十分時間を費やしたはずなんだ。変な気遣いで嘘を言って僕の機嫌を損ねないでね。以後、気をつけて」
「は、はい…お待ち、しておりました…」
「うん、いいねそれ。僕の好みをよく理解してる」

部活の後にシャワーを浴びたらしい赤司くんは、ほんのりと石鹸の香りがして…本当に…なんだか、こんな風におしゃべりしてるのが夢見たいで、まだまだ足が地に着いてない気がする…。えりあしのあたりがまだちょっぴり濡れてる赤司くんが、私の方を振り返って笑う。…赤司くん、なんだか暴力だったり厳しかったりして…心底驚くけど、一番驚くのはこれだ…この笑顔…いつもはキリッとかっこいいのに、笑った時は、本当に…女の子みたいにかわいくて、でもそれよりももっともっとかっこよくて…ひどいこと言われても、こんな風に笑ってもらえたらなんでも許してしまう…いや、内容がどうあれ赤司くんとおしゃべりできる時点で私は死を覚悟しておいたほうがいいくらいの幸せ者なんだ…思い知れ私

「じゃあ帰ろうか」
「あ、うん…ぁ、はいっ」
「面白いね、みょうじさんは」


歩き出した赤司くんに引っ付いて歩き出す。外はもう真っ暗で、おーあー待ってる間に宿題終わらせておいてよかったなー!今日のお夕飯何かなー?ってか、まだ残ってるかなー?お母さんには友達のところに遊びに行ってくるってメールしたけど…ご飯の事言い忘れてたなーなんて考えてた。歩いてる赤司くんはしゃべんなくって、私から赤司くんに話しかけるなんて恐れ多いことはできなくって、だから2人で静かに歩いた。おしゃべりできるのは嬉しいけど、なんだかこんな暗い道を2人っきりで歩いているってことの方が私としては本当に奇跡みたいなことで嬉しいとかそんな言葉じゃ表せないくらい幸福な事で、ずっとずっと心臓がどぐんどぐん言ってて、赤司くんにも聴こえてるんじゃないかって心配だったので、ぎゅううっと握っておいた。
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