3.きみが泣いている夢を見たから
学校に行く前に寄るコンビニで、今日はフルーツ・オレにするかイチゴ・オレにするか時間が許す限り悩みに悩んでいた。味の好みはフルーツ!でもたまにはイチゴ?どうなのどうなの?と優柔不断な私の脳みそはある意味オレオレ詐欺?詐欺…?に捕まってしまい、なかなか決めきれずにいた。

「おい、みょうじ」
「あ、男鹿くん。おはよう」

中学まで同じだった近所の男鹿くん。ちょっぴり難しい顔をして、パックジュースのコーナーでしゃがんでる私の事を見下ろす男鹿くんは、この時間よくコンビニで出会うのだ。もちろんコンビニの中には古市くんも居て、でも彼は店員さんに声をかけるのに夢中なわけで…朝からよく、元気だなぁ…古市くん。私は男鹿くんの事を見上げてちゃんとあいさつをしたんだけど、どうにも男鹿君たち(不良?)の間には朝のあいさつとかは無いのか…?返事をもらえた覚えが無い…。なんだろう?もっと気合入れて、雄覇夜雨!!とか言わなきゃいけないのかなー?

「買わねぇの?」
「あぁ…どっちにしようかなー?って」
「決まんねぇの?」
「うーん…」

頭のもやもやが眉間にお引越し、いい加減決めて学校行かなきゃ…校門遅刻のチェック受けちゃう…ああ、でも、フルーツ…イチゴ…フルーツ、イチゴ、フルーあ!なんかいっそうの事メイプルミルクティーが気になってきた…!!

「どっちか買ってやるよ」
「えっ?!いいよいいよ!!そんな」
「うるせぇ、俺がフルーツの方かってやるからみょうじはイチゴの方買えばいいだろ?」
「え、でも…男鹿くん!」

本当にフルーツ・オレを手にして、さくさくとレジに進んでしまう男鹿くん。私が止めるのだって聴こえないフリ。嫌なわけじゃないけど、そんなの男鹿くんに悪いし、というか大体なんで急に男鹿くん、私にジュースおごってくれるんだ?!なにか私にやましい事でもあるのか?!って、私と男鹿くんの間に何?やましい事って…?と、とにかく…!!結局イチゴ・オレを買って、フルーツ・オレの代金は男鹿くんに返そう…!!そうすれば万事オッケー!フルーツもイチゴもオレオレなわけで!!

「ねぇ!男鹿くん、これ」
「いいって、要らねぇよ」
「でも…」

小銭を受け取ってくれない男鹿くん。拗ねたみたいに顔も合わせてくれない。こ、れは…何かいつか、とんでもないしっぺ返しが来るんじゃないだろうか…?!あの日ジュースおごってやっただろ?回ってねぇ寿司おごれよみょうじさんよォ…とか?!あるいは厚切りステーキを要求されるとか…!!はたまた一流フレンチコース運んで来いやァア!!みたいな…?!ちょ、そ…それは本当に困るから…きちんと計画的なご返済を計画したいんだけど…男鹿くん、

「あ、あとコレ貸す」
「え?…あ、え?『ごはん君』…?」

ジュース代を受け取ってくれるどころか、男鹿くんは私の手に一冊の漫画をぽんと置いて見せた。表紙には箸が刺さった元気なお茶碗がガッツポーズ。あ、これ…アニメ見たことある…うんこがでてくるアニメだよね、これ…。で、なんで男鹿くん…私に漫画を?

「えっと…これは?」
「時間がある時にでも読めよ」
「あ、ありがとう…?」
「返すはいつでもいいから」

そう言って歩き出す男鹿くん。…なんで?疑問がふつふつとわきあがる。急にジュースおごってくれたり、漫画を貸してくれたり…。何か、話題の感動作だったりするのだろうか?私の感受性の低下を示唆してるのか?これを読めば私の優柔不断が直るとか…?なんて考えこまなくったって、只単に男鹿くんのお気に入りの漫画なんだろう。結構読み込んだ感じが、紙のよれ方で良くわかる。ぺらぺら捲ると最後のページに『古市 貴之』って書いてあった。…あー、古市くんのなんだ…。…じゃあ、なんで私に?貸して(また貸しして)くれたんだろう?というか、なんで男鹿くんは私にコレを読ませたいんだ…??

「男鹿くん!待ってッ」

振り返った男鹿くんはなんでか、ばつが悪そうな顔をしてて…そういえば、さっきから男鹿くん、ちゃんと私の顔見てくれない…というか、目を合わせてくれない?私、なんかしたかな?

「どうして…」

ジュースも漫画も、目をあわせようとしないその態度も…

「そ、れは…」

赤くなってぼそっとつぶやいた男鹿くんが、柄に似合わないその理由が、優しい言葉が、どうしても可笑しくって声を上げて笑ってしまった。


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