1.人より少し不器用だから
「どけ」
「…は?」

図書室で本を読んでると、私の頭のずっとずっと上の方から乱暴な言葉が降ってきた。ちなみに図書館はいま、私以外に生徒が片手で数えられる程度の人数しかいない。正直ガラガラ。それでもその声は、間違いなく私に向けられた言葉のようだった。

「どけっつってんだろ」

見上げれば、最近校舎を間借りしている石矢魔の生徒さんらしき男性。絵に描いたようなパステルパープルのアロハシャツ(そんな物が売っているんだなぁ)に、お約束のサングラス。頭頂部には…あのー、立派なー…あぁ…なんだっけ…なんか、これ。コレに似てる昆虫のサナギいたなー、名前なんだっけなー…いやぁ、それにしても立派な…

「いくらだ?」
「いやぁ、サナギの値段は」
「お嬢さん、舐めてっと痛い目に合わすよ?」

言葉は乱暴だった。ん?乱暴…って言うよりは、横暴か。あからさまに不良でーす!夜露死苦!!喧嘩上等!!ポリ公にパクられちゃたまんねーぜ!うっひー!!って感じなのに、なんで私がこんなに落ち着いていられるのか?というのは…きっと、初対面だけれど彼の声がそうさせるんだろう。ちょっと粘着質だけど、とろっと甘い響きの声が微塵と私に恐怖なんて感じさせなかった。

「お好きな席にどうぞ?たくさん空いてますよ?」
「俺はその席が良い、って言ってんだけど」

話し合いをしても不毛な予感。声とは裏腹、沸点の低そうな彼の外見を懸念して私は席を譲る事にしよう。別にこの席じゃないと読書に集中できないとか死んじゃうとか言うわけでもないし…先生には石矢魔の生徒さんとは関わるなって言われてるし…。というか、この人、図書館で本を読んだりするのか…以外だなァ…不良の歴史にまつわる歴史書でもあるんだろうか?

「じゃあ…どうぞ」
「譲ってくれんの?」
「譲ってくれって、貴方が言ったんですよ?」
「いくら?」

なにが?

私が席を立つと、長身の彼は足を大袈裟に折り曲げて席に着いた。私は彼の、謎の発言についてはそれ以上なにも言及はせず、おかしなことになってしまう前に本を抱えて他のテーブルへ移動してしまおうと歩き出す。けど、それは敵わず、彼は犬猫でも扱うかのように私の制服の襟をぐいっと乱暴に引っ張った。

「な、なんですか?!」
「いくらかって訊いてんじゃん」
「学校の施設に席の料金制は存在しません」

私がそういうと、彼は『何にも分かってないなー』とでも言いたげに、わざとらしいため息を吐く。もちろんやっぱりとろけそうな甘い声。息すら甘かったり、するんだろうか?

「名前訊いたら?隣に座れって要求したら?彼女になれって言ったら?キスさせろとかセックスさせろって迫ったら?あんた、いくら請求する?」
「なっ…?!」

勝った、とでも言いたげな表情。私とお友達になりたいんなら、あんな理不尽な態度とるよりも!初めからちゃんと自己紹介をして、しかるべき順序をたどるべきだッ!!なのにどうしてこの人は…!!呆れて怒れて声も出せない私に、彼はポケットから取り出したキャラメルを差し出してきた。…は?

「ま、コレは前金として受け取っておけよ。みょうじおなまえちゃん?」

名前知ってるんじゃないか…


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