ベッド
寝室のカーテンは開いてるのに外が曇っている所為で部屋の中は冷ややかに暗かった。湿気で冷えたベッドに押し倒されると背中がひやりとした。ベッドが冷たすぎるのか俺の体が熱すぎるのかなんて分からなくて、とにかく目の前の事とかこれから起きうる事とかのことを考えると頭が爆発しそうだ。

そ、ういう…経験は、無い。というか誰かを好きになるとか付き合うとかそういうのだってみょうじが初めてなわけで…せ、せっくす…とか、を…したいとかしたくないとかするかもしれないとかそういう状況になったこと事態が初めてだ。その…何も知らないって訳じゃない、そりゃあ自分の身体的コンディションに合わせたマスターベーションくらいはしてるしそのためのちょっとアレな雑誌とかビデオだって少しは持ってる。

ただ、好きな人とこういう雰囲気になるってのは知らない女が不特定多数の読者(あるいは視聴者)のために服を脱いだり胸をさらけだしたり足を開いたりするのとは訳が違う。体ももちろんどきどきするけど、それ以上に心臓とか脳にかかる負担が半端じゃあない…。こ、れ…は、よろしくない…。気を抜くと涙がこぼれそうなくらいに俺は期待とか緊張とか喜びとかみょうじ好きだーって言うのが体の中でぐるぐるぐるぐる渦巻いててさらにはそれを増徴させるように外の雨の音は酷く冷たく部屋の中に響き渡った。

「男鹿くん、大丈夫?顔真っ赤だよ?」

俺の腹の上にまたがったみょうじがくすくす笑ってささやいた。いや、大丈夫なんかじゃないだろう、これ…。何か言い返そうと思っても言葉が思い浮かばないし、ばかやろうって言ってやろうかと思ったけど最初の言葉が渇いた喉に引っかかって結局口から出なかった。そんな俺の様子を見てみょうじはさらに笑う。耳をくすぐるような笑い方は余計に俺を惨めな思いにさせた。

みょうじが体をかがめて俺の首筋に顔をうずめる。少し冷たい鼻先がなぞるようにゆっくりと首筋をたどって顎に触れて、唇に到達する。じらされるようなそのスピードに心臓が高鳴り汗まで噴出しそうになる。ちゅっと軽く触れた唇が柔らかくてあたたかくってなんだかそれだけでもう…いっぱいいっぱいっつぅか、体がきゅうっと苦しくなる。でもそれだけじゃ終わらなくてみょうじは俺の唇に唇をつけたまま舌をべろりを押し付けてきた。う、わ…こ、これは…俺もみょうじにあわせ少し口を開くと予想通りぬるっと舌が口の中に入ってくる。温かい舌で口の中をなでられるように舐めまわされて自分の勝手に息ができない。

「ちゅっぅふぁッ、んむっはぁ…はぁ」
「んちゅッ…ふふ、苦しかった?」

最後に口の中のよだれとか空気とかを全部吸われてみょうじの唇が恥ずかしい音を立てながら放れた。すぐに口を手でぬぐうと自分で思っていたよりもずっと濡れててよだれで手がぬるっと滑った。

みょうじが体を起こして一瞬で上の服を脱ぎ去る。マジックみたいなその速さに驚いている暇もなく下着だけになってしまったみょうじの姿にごくりと喉がなってしまう。暗い部屋の中でみょうじの肌の白さはなんだか浮き上がっているように見えた。…結構、着やせするタイプなんだよな…。じっと彼女の体に見入っていると心臓と、その…だんだん硬くなってきていたところが本格的にやばくなってきた…

「…男鹿くん、触って?」
「…っ?!え、あ…」
「なに?ふふ、男鹿くん前に私の裸見てるくせに恥ずかしいの?」
「ちがッ…!裸じゃねぇって!!着替えさせただけだ…」

指先が冷えてて手をぐっぐって握ってたら、みょうじが両手で俺の手をとって自分のほうにゆっくりと引っ張った。ふにっと温かくて柔らかい胸に押し付けられた手を反射的にぐっと握ってしまう。それでも抵抗は無く俺の指は素直に胸に沈んで見せ付けられるようなその柔らかさに驚いた。みょうじは「んッ」と小さく息を呑んで、痛がらせてしまったんじゃないだろうかと心配になって声をかけようかと思ったけど、なんとなく表情がそんな感じではないのかな…って、その…き、きもちよかった…方なんじゃないかなーって思わせるような…絶妙な顔をしていた。

「ね、男鹿くん…もっと」

とろけた様に笑うみょうじにどうすればいいのかわからなくなった俺はとりあえず、この…俺がみょうじに押し倒されているっていう状況をどうにかしたくて起き上がり、みょうじの肩をつかんでベッドに押し付けた。シーツの上に髪が広がって、なんかすげぇ…すげぇエロい事になってしまったけど事実俺の下半身もすでに大変エロい事になっていると思われるくらいにズボンが苦しいので体制を変えられたのはちょっと救いだった。みょうじが笑って俺に手を伸ばすから、その手をとって自分に引き寄せてなんかちょっとだけ拘束してるみたいな格好でキスをする。

今度は俺のほうからみょうじの口の中に舌を突っ込んで、どうやってやるのが上手ってぇのか分からないけど歯茎とか頬の内側とか顎の上?のでこぼこになってるところとかを舐めまわした。そのあいだになんどもみょうじの舌にあたって、絡まってよだれが垂れないように吸い上げたりして。じゅぱって吸い上げる音がするたびにみょうじが「はぁっ」って息をすってる音がして、それを聞いてると自分がどこで息をするか迷ってできなくて結局口を放したときにすげぇ全力疾走した後みたいに肩で息をするはめになった。

「男鹿くん顔まっかだ」
「うるせぇよ」

またみょうじがくすくす笑う。なんでこいつこんなに余裕なんだよ…。俺はもう、こんな格好でベッドの上でキスしてるってのだけで頭破裂しそうだってのに…。悔しくてなんかぎゃふんと言わせてやりたいとは思うけど、どうすればいいのかが分からない。とりあえずみょうじの胸にふたでもするみたいに手を添えてみる。柔らかい胸の奥で心臓がしっかり動いているのが分かった。手を動かし始めると恥ずかしいくらいに柔らかくて気持ちがよくてまるで自分の手のためだけに作られた胸みたいにぴったりのサイズでなんかもういろいろ感慨深くてひどかった。

「ブラジャー外さないの?」
「え、あ…ああ」

みょうじが腰を浮かせて背中とシーツの間に隙間を作り、そこに手を伸ばしたのはいいけど…これ、なに?どうやって外すの?両手で外そうとしてもその絶妙な硬さで勢い余った手が繊細な動きをしてくれない。えー?!これってもっと簡単にぱちっと外れるもんなんじゃないのか?!何度か試してみたけど2つある内の1つだって外せなかった…。すると背中にみょうじの手が回ってきて魔法みたいに一瞬でぱちんっとブラジャーを外してしまった。…すげぇ

「これから慣れてけばいいから」

浮かび上がったブラジャーを丁寧に慎重にとりさらいみょうじが笑う。…笑えない、っていうか、あの…直視できません…。視線をちらちら泳がせているとみょうじがまた俺の手をつかんだ。心臓がうるさくてたまらない。そっと手で触れるとほかの事が分からなくなるくらい温かくて柔らかくてなんか感想のまとまりきらない滑らかな肌とかに意識がおぼれていった。同じ人間だとは到底思えない…



そろそろ限界だ。ズボンが苦しくて痛いくらいに勃起してて正直パンツをすでに少し汚してる…。できれば早く出して楽になりたいところだが、マスターベーションとは訳が違う。2人でしてんだから俺だけが勝手に楽になっていいもんでもねぇだろう…。かといってみょうじになんて言っていいのかも分からない…。「射精させてください」?とか言うの?普通どうするもんなの?ってかまだこれ順番的に全然終わんねぇよな?…え?ってか次の過程…みたいな、その…みょうじの…あれに、あそこに…あー………、え…出来んの?俺…?


「男鹿くん」
「…ッはい?!」
「?…ふふ、はいって何?」
「あ、いや…それは…」
「ねぇ、そろそろいいかな?」

ズボンの上から硬くなってるところを撫でられて変な声が出そうになった。直接も間接も他人に触られるのは初めてだ…。またベッドに寝かされて、前髪をちょっとよけられて額にちゅっとキスされる。みょうじは俺のズボンとパンツを最後まで全部脱がしてから自分も最後の一枚を脱ぎ払った。あ、たま…が真っ白になる…。自分のもみょうじのも見ていられなかった…顔が真っ赤になって汗もかいてみょうじが俺のに触れるたびに馬鹿みたいな恥ずかしい声を我慢することしか出来なかった。

「男鹿くんのおちんちんあったかいね」
「ふッ…ぅ、ぅあッああ…あ」
「こうすると気持ちい?」
「はぁっはぁ…、…ぃあッん、うァ」
「男鹿くん、私のも触って…?」

されるがままだった俺の手を引いてみょうじの…あの…そこに触れさせる。少しだけ濡れた柔らかい毛が触れてそれだけでも体がびくりとはねた。指先が触れたそこは温かく湿っていてみょうじの指に導かれるみたいにゆっくりゆっくり奥へと沈み込んでく。温かくて柔らかくてまだ指しか入れてないのにもうすぐに指じゃないものも入れることになるんだと思うと腰がひけて先端から精液のなりそこない見たいなのがぽろぽろ涙みたいにこぼれた。

「ふッ、ぅあ」

眉間に皺をひそめたみょうじが変な声を出して心臓が跳ねた。唇をきゅっと結んで何かに耐えるような顔がなんだかすごく…可愛くて?いやらしく、て…?手が自由だったらきっとそのまま勢いで抱きしめてた。みょうじは片手でベッドの近くに転がっていたカバンを探って何かを取り出した。…取り出したのはコンドームで、こんな近くでしっかり見るのは初めてでちょっと呆気にとられているとすげぇ手際よくみょうじが袋を破ってさっさと俺のにかぶせた。う、わ…はやッ

「じゃあ…いい?」
「…ん」
「ふふ、男鹿くん…はッ処女の子みたい…ははッ」
「なッ…!!」

根元にそっと手を添えられてみょうじが先端を自分にあてがってからゆっくりと腰を下ろす。ぬるっと滑るくせに押し開くみたいに進んでかなきゃいけない圧迫感のようなものがあってもどかしい、がみょうじはそれ以上に苦しそうで眉間の皺はもっと深くなって唇にはすこしよだれがたれてる。

「…ッはァ、あぁぅ…ん」
「くっ…ぅ、はァッ」
「お、がく…ん。きもちい?」
「あッ…ぅわッ、んんッ」
「ふふ、かわいッい…」

最後まで入ってしまうとなんだかもう腰が浮いてんのか沈んでんのなんなのか分かんないくらい気持ちよくて信じられなかった。こんなに気持ちがいい事ってあんのか、風呂であったかいシャワー浴びて気持ちいいってレベルじゃない。自分の感覚全てが奪い取られるような絶対的ななんか…すごい…って、いうのは…これ、セックスってなんでもそうなのか?これは…俺が今こんなにも気持ちよくて満たされてるのって相手がみょうじだからなのかな…。くちゃくちゃじゅぷじゅぷ液体に空気が混ざり合うねちっこい音をあげながらみょうじが俺の上で体を揺らす。そのたびに胸が揺れて髪が揺れてたくさんみょうじのにおいを感じた。洗面所から漏れるつけっぱなしの電気の明かりがなんだか唯一現実的で、そこには俺の乾かし損ねたTシャツが1枚ほうっておいてあった。

「な、ぁ…みょうじっ、ぅあ…」
「はぁッはぁッあ、なに?」

いつの間にか握り合ってた手を見つめて、ぎゅうっと強く握りなおす。…俺はみょうじが好きで、それこそ大好きで…学生時代から思ってて、こういう関係に…なれたらいいなーってのも正直ぼんやりとだけど考えた事も、無かったわけじゃない。だからこうなれて、嬉しい…と思う。男がそういうのって本当はあんまり気にしないのかも知んねぇけど…初めてこうやって、触れ合って繋がる相手がみょうじで本当に良かったと思ってる。好きだ、みょうじ。本当に、たぶん一番に。

「こういう、事…その、他の…奴とも」

だからこそ気になる。みょうじは俺よりも年上だしこういうどう考えたってセックスが初めてって感じじゃない…。訊いてどうするって話だまったく。でも、なんでかな…嫉妬…?じゃないけど、訊いておきたかった…。こういうの詮索されるのは、嫌かな?

「…他の人とも、エッチした事あるかって?」
「…ああ」

みょうじが腰を動かすのをやめてぺったりと尻を俺の腰に下ろす。柔らかい尻の肉が太ももを温めるみたいに乗っかって気持ちが良かった。濡れた毛が、俺の毛に触れて絡まりそうだった。

「あるよ、そりゃあ…いい歳だし彼氏だって居たし」

訊いたって、どうにもならない事だって分かってる。けど、理屈じゃない…なんかガキっぽいって叱られそうだけどそれでもやっぱり悔しいと思った。

「でも、」

みょうじが俺の手を握り返して自分の胸の前に、大事そうに引っ張ってって優しく撫でた。あたたかいその手つきはまさか今セックスをしている人間のものとは思えないくらい穏やかで優しくてついうっかり涙が出そうになる。

「男鹿くんとこうなれるって知ってたら…もったいない事しちゃったな」





非常に遺憾な事だが、この後の事は上手く覚えてない…。みょうじがそんな事言うから俺はなんか弾かれたみたい起き上がってみょうじにキスして…それから…その、ちょっと動いたら体勢が変わって急に気持ちいいのが強くなってみょうじがどうにかなる前に射精してしまった。みょうじは笑って気にするなって言ってシャワーを浴びに行ってしまった所まで覚えていて…俺は初めての体験に心身ともに消耗しきっていて、みょうじがくれたウェットティッシュであらかた汚れを取ってしまうと弱まった雨音に誘われるようにゆっくりと眠ってしまった。あたたかく穏やかな意識の喪失だった。


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