日常
まだ脳みそにもやもやがかかってる。目もはっきり開かなくて、きっと生まれたてのパンダみたいな顔してる。指先の感覚もなんだかぼやけてて、ベッドの中で体を動かすとシーツが肌をこする感じが妙に他人事のように感じた。まだ、日が昇り始めてからそんなに時間がたってないんだろうな…ベッドの横の窓からの明かりは頼りない。

(誰かがいるような気がする)

私のぼんやりとした覚醒の理由。なんとなく…気配を感じたのか、物音がしたのか。顔までかぶったシーツをちょいっと引っ張って、部屋の中に意識を集中させると、ベッドのすぐ横に足があった。突っ立っているだけらしいその足が、もちろん男鹿くんの足だって事はすぐに分かった。というか、そうじゃなきゃ絶叫ものだ。

目をこすって、ちゃんと開けて、男鹿くんの事を見上げる。寝起きの私に負けないくらい、ぼうっとしてて、ふーって顔に息を吹きかけられて、ぽかんとしてる赤ちゃんみたいな顔をした男鹿くん。可愛いなー。お仕事帰りの男鹿くんの、たくましい肩越しに壁掛け時計を眺めると、5時の30分と35分との間を指してた。私が自分に課してる起床時間は6時。まだちょっと眠っていられる。

夜通しどこかのビルだどか、間接的には誰かを守って来た男鹿くん。味気の無いひっそりと悲しい夜を過ごして、人見知りなよそよそしい朝の空気の中帰ってきた。私が起きて、男鹿くんの事を見てるって事に気づいた男鹿くんがビクッと大げさに肩を揺らした。半開きだった口をきゅっと結んで、びしっと気を付けをするみたいに体をこわばらせる。注意すればドキッ!とか漫画みたいな擬音が聞こえてきそうで、おもしろくて、可愛かった。

「おかえりなさい」

起きたばかりの、もにゃりととろけたような声。自分でも間抜けだと笑えるくらい情けない声だ。掛け布団を捲って、男鹿くんが入るスペースを作ってあげると、男鹿くんは大人しく入ってきてくれる。やっぱりちょっと冷やっこい男鹿くんの体は、夜から朝にかけての冷たいにおいがしてちょっとだけ寂しいような、複雑な気持ちになった。ぎゅうっと男鹿くんのわき腹に腕を回して、あったかくなれーあったかくなれーと心の中で唱えてると、なんでか男鹿くんがふんっと気の抜けた笑い息?笑い息ってあるのかな?笑い声の一歩手前の、吐息?みたいなのをもらした。お母さんが優しく笑うアレに似てる。男鹿くんに私の呪文が聴こえたはずないのに、何がおもしろかったのだろうか?いや、むしろ私の呪文を感じ取って笑ったのだとしたらそりゃあ失礼な話だ。だって私は、切実に男鹿くんにあったまって欲しいと思ったんだから。

するっと、男鹿くんの腕が私の頭を包み込む。これ、他の人にやられたら、けっこう怖いんだろうな…。なんかひどく恐ろしいプロレスの技のようで、ぐうって押しつぶされたら、私の頼りないの頭蓋骨なんてバッキン砕かれて脳みそぷっしゃー眼球ごろりのスプラッター、タランティーノも驚きのグロテスクな絵が撮れること間違いなし!!って、そこまでは無理だけど…そのくらい恐ろしいことだよね。自分以外の人間が自分の頭を抱えることって。それでも、こんなに、とろけるくらいに心地よく思えちゃうだなんて、男鹿くん罪な男…。

男鹿くんの胸におでこと鼻を押し付けて、やっぱり私の足を捕らえた二度寝の悪魔に抵抗をしてみるけど、それにしては寝起きの私のパジャマだけという装備は頼りなさ過ぎて、どうにも起きてはいられそうにない。20分とか経ったら起きなきゃいけないくせに、これから寝るくらいなら、男鹿くんの寝顔とか、見ながら…ふわふわした髪の毛を、なでたり…ほっぺとか、つついて、遊んだり…して、すごしたほうが、絶対…いい、のに…

男鹿くんをぎゅうってする腕の力がふっと、抜けるのを感じる。ああ、その前に…おやすみとか…言わなきゃ…、おつかれさまー…とか…隙あらば、下ネタ…

「ただいま」

乾いた低い声が部屋にぽつっと。シーツの中の、男鹿くんの胸に寄せた私のおでこにじーんと声の振動が伝わる。いつの間にか男鹿くんの体は私よりもあったかくて、むしろぎゅってされた私のほうが暖められてるみたいで、無尽蔵の安心感の中、私はあっさりと眠りについた。





ちゃんと6時に目を覚ますと、今度は私を抱きしめてた男鹿くんの腕が緩んでて、見上げると少しだけ口を開いて、少しだけよだれをたらして、信じられないくらい可愛い顔で眠ってた。あー、男鹿くんがいるだけで朝がこんなに幸せなものに成りえるものだなあ。いつか寝顔を写メで撮ってやろう、そして待ち受けにしてやろう。


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