老舗料亭の次男坊
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 宛名:アシタバ
 件名:Re:
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 わりー
 今アメリカ


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メールってすげぇよな決定ボタン一つで俺から明日葉まで一瞬で届いちゃうんだから。俺なんてここ着くまでに飛行機で12時間飛んで空港で手続きしてタクシー捕まえるのにも苦労してやっと乗ったタクシーに軽くぼったくられてやっと落ち着いてそれっぽくアメリカンドッグにありつけたってのに…。あー、来ちゃったな。アメリカ…



旅行会社の人に提示した条件。治安がいい・日本人が一人でも暮らせる・かといってド田舎はNG・ちゃんと近所にデリとかコンビニがあるところ・観光地じゃない。学生の間にバイトで溜めた金ほとんど全てATMで下ろせなかった小銭を抜いた貯金全て、貴重品と厚手のジャケット数日分の下着を登山用の防水使用で頑丈なリュックサックに詰めて俺は卒業と同時にアメリカに飛んだ。

のは、いいが…とりあえず宿探さねぇとな…。個人的にはベンチでもあればそこで何日だって寝ていられるけど、そんなことして不振人物扱いうけて日本に強制送還とか喰らったら何にも意味が無い…かといって立ち並ぶ建物にかかれて居るのはもちろん全てが英語英語英語…。高校に入ったときから一応英語だけは必死で勉強しておいたから読めない意味わかんないってわけじゃねぇんだけど…。うろうろしてるのもなんだから、とりあえず周辺地図をゆっくり見るため世話になる宿を探すため適当なカフェに入った。

のんびりとした店内。ああ、本当に治安がいいところなんだなーって肌で実感する。みんな喋り方はゆっくりだしにこにこしてるし立ち居振る舞いもゆったりしてる。コーヒーの匂いがむっと強く香って軽くパンチでも食らったような気分だったけど、慣れていかなきゃなー。まだ昼間だから店内の電気はついてなくてガラス張りになった壁からの自然光に頼り切ってる店内は昼間にしては少し暗かった。耳をすませば穏やかな人々の会話の奥にくつくつと湯が沸かされている音が聞こえる。とりあえずカウンターで飲み物を注文、ってもメニューがほとんどはげてて読めなくてコーヒーを頼むしかなかった。

太ったはげ頭のおっちゃんがにっこりとうなずいて俺のコーヒーを淹れる。見た目に似合わず繊細な手つきでまるで俺に見せ付けるようにゆっくりと丁寧にコーヒーをカップに注いだ。ついそれに見惚れてしまって席に着くのを忘れてしまった。それでもおっちゃんは「急ぐ事無いよ」とでも言いたげに目を細めてコーヒーとアップルパイを一切れのせたトレーを俺に手渡した。蜜のたっぷりかかったアップルパイはむせ返るくらいに甘い匂いを放ってコーヒーの細やかで柔らかい湯気が芳ばしい苦味と一緒になって俺の嗅覚を刺激した。

「え、頼んでなっ」

驚きに、つい日本語が出た。だめだコレじゃあ通じないんだ、そうおもって急いで口を開きなおして英語で対応しようとしたが二度目の開口はおっちゃんの太くて毛深い指に阻止されてしまった。不思議だよな、「喋るな」とかっていうジェスチャーは世界共通だ。

「welcome」

太くて腹の奥に響くような声でおっちゃんが恭しく俺にはげた頭を下げた。初回サービス的な…?俺はお礼を言ってトレーを受け取りそこかしこに空席のあるテーブルを眺めて一番居心地のよさそうな席を探した。トレーを持ったまま通路を進んでいると向かいから腹が出たおっちゃんが歩いてきた。道を譲ろうと思いトレーを少し持ち上げて体を退ける。おっちゃんの軽い礼の言葉と一緒に聴こえた声。

「…ぎゃむっ!!」

その奇声に店内の人間はみんなが声を上げて笑った。やべ…


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