エクレールとおまえ
「ボナペティ」

好きな女の口から発せられた聞き捨てならない外国語。とともに差し出されたひとつのエクレア。ビターチョコレートがいやらしくたっぷりと垂らされたそれは気持ちのいい焼き色をして脳みそをとろかすような濃厚なカスタードクリームの匂いを漂わせていた。読んでいた新聞をゆっくりと正確にたたんでから突っ立ったまま俺を見下ろしているおなまえを睨むと、彼女はとても愉快そうににやりとほくそ笑む。

「エクレール、私の自信作よ?」

俺の脳みそまで舐め削いでしまいそうな視線が試すように細められる。そういえばエプロンをつけたままの彼女、手にはところどころビターチョコレートがついている。おなまえは俺より幾分か料理がうまい。特に焼き菓子なんかは一度教われば簡単なアレンジなんかも加えてすぐに自分のものにしてしまう。ただ、なぜよりにもよってフランスの焼き菓子なんて…

「要らない」
「なぜ?私のお菓子…食べたくないの?」
「要らねぇって言ってんだろ」

すがる様な声はもちろん演技だって事は分かっている。おなまえの手作りだろうとフランスの菓子なんて食べたくは無い。きっと作り方だってフランシスに習ったのだろう…教えるだなんて口実でずっとおなまえにべたべたしていたのであろうアイツの事を考えるとはらわたが煮えくり返る気持ちだ。得意の泥甘い言葉を並べておなまえにささやきかけたのだろうか?その言葉は彼女の心に届いてしまったのだろうか?計算的に触れた手に彼女はときめきなんてもの覚えてしまってはいないだろうか?心配事は山ほどあるのに、自分ではそんなこと訊けない。紳士は必要以上に相手を詮索してはいけない…

「それじゃあ、私に食べさせて?」

そう言って俺の太ももに手を置き、股の間にもぐりこむようにしゃがみこんだおなまえは舌で唇を湿らせながらまた、試すような視線を向けてくる。ここで退くわけには行かない…そんな情けないことはできん。受け取ったエクレアは柔らかくクリームがずっしりと重たく、頭を垂れるかのように前方が沈み込んでしまった。そこにすかさずおなまえが吸い付くように唇をあわせ、舌を出しチョコレートを溶かすようにゆっくりと舐め始めた。まるで犬か何かに餌でもやっているようだ。

俺の股の間でしりを突き上げるかのような姿勢でエクレアにむしゃぶりつくおなまえは決してエクレアを噛んだりせず、舐めて吸い付いて生地を破りわざと音を立てながら中のカスタードクリームを吸いだした。ぐちゅぐちゅと焼き菓子には見合わないおかしな音がする。溶けたチョコレートとカスタードクリームがこぼれてあごに落ちる。彼女はあわてることも無くそれをそっと指でふき取ると口には持っていかずにそのまま穴の開いたエクレアに指を突っ込んだ。ぐぶちゅり

「ねぇアーサー、あなた勃起してるわよ」




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