ぬれおかきとあなた
電子レンジで少しだけあたためた一口サイズくらいの茶色い甘い醤油の香り漂うぬれおかきをお盆に盛ってリビングに入ると、ソファで黙々と本を読んでたベールヴァルドさんがちらっと私のほうを盗み見た。おやつの時間になると必ず私がなにかしらお菓子を準備するって言う生活パターン?タイムスケジュール?が板についてきたって感じだ。

ベールヴァルドさんは私がテーブルに着いたのを見届けると飲み物を作ろうと立ち上がったけど、私が持ってるお盆の上の『今日のおやつ』を見ると進めかけた歩みを不自然に止めて困ったような驚いたような絶妙な顔をした。私の背後でとまってしまったベールヴァルドさんをちらりと見上げるとあからさまにビクっと動揺の色を見せる。このおやつにどういう飲み物を合わせればいいのかわからなくて困ってるんだろう…可愛い。

洋菓子だったらコーヒーとか紅茶を丁寧に丁寧においしく淹れてくれるベールヴァルドさん。私はベールヴァルドさんの淹れてくれた飲み物が大好きで、私がおやつを用意するとベールヴァルさんがお返しに飲み物を淹れてくれるって分かってるから毎日毎日おやつを用意してしまう。女の子としてはちょっと悩ましいところだ。自分のプロポーションをとるか大好きな人のささやかな優しさを飲み干すか…

「今日は日本茶でお願いします」
「…緑茶で、いいべか?」

訝しげな表情でぬれおかきをじっとにらみつけるベールヴァルドさん。まぁ、見ようによってはちょっと変わったチョコレートとかにも見えなくも無いのかな…?

「これ、おかきですよ。おせんべいみたいなものです」

前に硬いおせんべいを緑茶と一緒に出したとき、ベールヴァルドさん実はちょっと緊張しつつも口にしてみて結構おせんべい気に入っちゃったって事わたしはちゃんと知ってる。醤油の味が新鮮で良かったみたいだ。その時の、おせんべいをずっともぐもぐしてるベールヴァルドさんが可愛くってごりごりとかぽりって音が響くたびにちょっと嬉しそうにしてたのもしっかりと心のアルバムに収録済みなのだ。

本田さんに定期的に送ってもらってるお茶っ葉で淹れてもらった日本茶。ちゃっかりめおとの湯飲みを使わせてるんだけど、ベールヴァルドさんはだたのおそろいのマグだと思ってる。あたたかい香りを楽しんで、私はベールヴァルドさんがぬれおかきに手を伸ばすその時をじっと待つ。いまだにじっとぬれおかきをにらみ続けるベールヴァルドさん。

「どうぞ」

お盆をすっとベールヴァルドさんのほうに差し出すと観念したかのようにゆっくりと大きな手を伸ばす。甘いにおいを漂わせるぬれおかき。何個かのうちのひとつにベールヴァルドさんが手をつけると。電流でも流されたかのようにびゃっと手を引いてしまった。ぬれおかきに触った手をかばうようにしてもう一方の手できゅっと握り締めている様が女の子みたいで驚きに満ちた表情なんてそれ以上にずっとずっと女の子みたいで可愛かった。

「…やわっけッ…?!」

可愛いなァ



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