ラムネとぼく

みょうじが小さなちょっとだけ水色のころっとしたラムネを一粒だけ指先で摘んで、僕の目の前に突き出した。鼻を抜けるような爽やかな匂い、ちょっとだけ冷たそうに見えるそのラムネをみょうじは目が寄っちゃうくらいの距離でぐうっと見つめていた。それにあわせてみょうじの顔は僕の顔に近づいてくる。

「食べないの?それ」
「ラムネ、あんまり好きじゃないのよね」

なんていいながら、みょうじは僕の前で僕の事を見ながらペロッと赤いべろを出してそこに添えるような仕草で摘んでいたラムネを優しく乗せた。赤いべろの上に乗った薄い水色のラムネはよく映えて、口の中に入って正解なものなのになんだか違和感を感じずに入られなかった。ふっくらとしたふたつの唇に柔らかく挟まれるように顔を出したべろはだ液でよく濡れていた。

べろの上でラムネは、少しずつみょうじのべろの表面を覆っているだ液を吸って色を濃くしていった。少しずつ、少しずつ。色を変え、ころりと軽そうだったその外見も変わり今ではぽったりと重たそうなだるそうな泥のように見える。

小さな氷が溶けるみたいなスピードで形を変えていくラムネを見つめる僕、をじっと見つめるみょうじ。何が面白いのかなんてどうせお互いわかっちゃいない。でもお互いに目が離せなくなってるのは良く判った。

みょうじのべろの上でどろどろに溶けたラムネはもうさっきまで自分がころっと乾いたラムネだった事なんて忘れちゃったみたいだった。爽やかな匂いもしなければ冷たそうな印象だってしない。ただそれはみょうじの赤いべろの上であたためられ湿らされどろどろに溶けてしまって情けなく形を崩し自分自身の事すらわからなくなってしまった悲しい粉の集合物だ。

とうとうどろどろだけになってしまったラムネはみょうじのべろをいやらしくなぞるようにゆっくりと下へ下へ下っていく。不思議な半透明の白いどろどろがみょうじの赤いべろをゆっくり覆って行くのを見てるとなんだかみょうじのべろが菌とかカビに侵されているようにも見える。

じゅるり

舌先にラムネがたまるとみょうじはそれを吸い込むようにすすった。少量のラムネをすすり上げるときに余分な空気もたくさん吸い込んでしまったようで、すすった後にあふーっと間抜けな吐息を漏らした。口元をきゅっと手で拭うとみょうじは僕の目を見たままぱちりと瞬きをした。僕もつられて瞬きをしてしまう。かちりと目が合う。

「見てんじゃないわよ」

勝手だなァ…


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