きみとあめ
さっきからおなまえの口の中から硬そうなカチンコロンっておかしな音がする。読んでた雑誌から顔を上げておなまえのほうを見てみると、ぼうっとした顔でほっぺただけがせわしくぷくぽこ動いてた。ほのかに甘い香りがする。

「あめ?」
「うん」

口の中でいじらしくちろちろ溶けては甘い匂いと味を伴う砂糖のかたまり。そういえばさっき包み紙か何かをくしゃりっと握りつぶすような乾いた音が聞えた気がしていた。

おなまえの口の中を泳いでいる1つぶの飴の事を考えているとなんだか自分も無性に飴がなめたくなってきた。ブドウの味とか舐めたい。本当は俺は飴よりも全然ガムのほうが好きなんだけど、今はどうしてもあの嫌に甘いジューシーなころころをほお張りたい気分だ。

「ちょうだい?」
「もうこれ最後だもん」

空っぽになったカラフルな飴の袋をぱすっぱすっと悲しげな音を立てながら見せ付けられる。あーあ、そうなのか…


おなまえの肩に手を置いて、怒られるって判っていながら飴を堪能しているその甘い小ぶりな唇に自分の唇を押し付けた。無理やりに舌をおなまえの口の中に突っ込むと、おなまえは抵抗しながらもその侵入を受け入れた。あたたかくて柔らかい口の中に一つの飴玉を探す。それにしてもどこもかしこも甘い甘い。おなまえの鼻とぶつかり合いながら何度も角度を変えて口の中の侵略域を広めていく最中に垂れるよだれさえ甘い。鼻から吸い込む肺にたまる空気さえも甘い。

硬い飴に舌が触ると、おなまえの舌に押し付けるようにして自分の舌を飴に押し付けた。二人の濡れた舌に挟まれて押されてはじけるように逃げ出す飴を、何度も追っては捕まえて、それをまた取りこぼして追いかけた。

熱くなる息に二人の体も温かくなり、俺はいつの間にかおなまえに跨って押し倒すような格好になってしまっていたけど、今日はそういう日じゃない。求めるのは飴だけ。そしてそれがおなまえの口の中にある。それだけの事なんだ。

どんどん小さくなっていく甘い塊は、もう追いかけるのも難しいくらい小さくなってしまって、きっとおなまえの歯の隙間とかに隠れてしまった。俺は口を離して甘い少しだけ粘着質なよだれでべたべたになったおなまえを見た。

「ブドウじゃなかった」
「イチゴよ馬鹿」


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