ポッキーと私たち

「榊くん、私きょうポッキー持ってるんだ」

お昼休みに私はお弁当を食べ終わって自分の席で大人しく美しく読書をしていた榊くんにこっそり近寄って、通学用カバンからこっそり例のお菓子を覗かせる。榊くんは低い声で「ふ」とも「ん」とも言えない中途半端な声を漏らした。ぴりっと開けるお菓子の袋、中からとんでもなく甘ったらしい匂いがする。



「うぉりゃああ!!榊くん覚悟ぉぉおお!!」
「まだまだ」

大きく両腕を振りかざし、榊くんの眼前に振り下ろす私のポッキーは榊くんの髪にすらかすりもせずに空を切った。悔しがる私を見て得意そうにふふんと笑う榊くんは片手にポッキーを摘んで私を挑発するように剣先もといポッキー先をちょいちょいっと振るう。く…くそう…!!剣道部主将だからってぇえ!!馬鹿にするなよぉお?!

「でやぁあ!!」
「おなまえさんは大袈裟に過ぎる」

もう一回ポッキーを振りかざして榊くんの面を狙おうとしたら、榊くんはひゅっとしゃがんで私の視界から消えた。あれ?!って思うひまもなく榊くんが人差し指で私のわき腹をつんっと射す。うわああ私コレでもう榊くんに4回も殺されてるよー榊くん最強すぎるよー榊くん血風録だよー!!

私たちはポッキー(あるいはトッポ)を持っていると絶対にこうやってちゃんばらを始める。なんでか…は、知らない。なんでかそういう雰囲気になって、それがずっと続いてて…あ、でもこないだはちょっと斬りあいが白熱しすぎ廊下まで出ちゃった時にたまたま御前様に見つかって「食べ物で遊ぶなッ!!」って怒られた。めっちゃ、めっちゃめちゃ怒られた…から、榊くんもだいぶビビッてて私と榊くんはこれから絶対に廊下に出てやら無いようにしようって約束した。

「ね、榊くんベランダ出ようよ!」
「望むところ」

戦場を変えてベランダへ出た私たち。私が先にベランダに出てその後に榊くんが続く。風がぶわあっと吹いて、私のスカートがめくれ上がった。

「あ」

私が声を上げると榊くんは動揺はしなかったけど、一応(?)私のパンチラが気にかかったらしく剣筋が鈍った。その瞬間を私は見逃さない。びゃっと榊くんの目の前にポッキーを突きつける。パンチラに気をとられていた榊くんはしまった…って表情を曇らせて私の顔を見上げた。ふふん、ばかめ榊くん色香も立派な女の武器よッ!!わっはっは!!とかいって本当はパンチラ見られたの恥ずかしいけど…

「私の勝ちー」
「…はぐっ」

榊くんが澄ました顔で私のポッキーの先っちょを食べた。

「うわー!!ずるいッ!食べるの無しって約束じゃんッ!!」
「知らんな」

私のポッキーをくわえたまま榊くんが笑って私の脳天に自分のポッキーを振り下ろす。私はとっさに両手を上げて榊くんの太刀筋を…

「なッ…」
「ふふん、みょうじ流・真剣白刃取りぃ!!」

ってのはいいけど手にポッキーのチョコがべっとりと付いてしまった…うわあ…。私が手のひらのチョコをどうも出来ずに居ると、榊くんがぐっと私の手を引いて自分の口を近寄せた。

「おなまえさん…なんて無茶を…!!」

演技がかった榊くんの真剣な顔と臭いセリフ、手のひらをぺろぺろと舐められるくすぐったさに私の笑いはずっとずっと止まらなかった。


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