08 男とはなんですか
真夜中の男鹿くん大告白から5日目。私は学校でことごとく男鹿くんの事を避けていた。


金曜の夕方には隣が生徒の家だという事に、すごいなおもしろいなーと言う、どちらかと言うとプラスな思考しか働かなかったのに、真夜中を過ぎたとたんに気まずくなった。

朝は男鹿くんと鉢合わせしたりしないように早めに出る。土日も、いつ男鹿くんが訪ねてくるかもしれない…と思って、ずっと家を留守にしていた。せっかくのプライベート空間が…だけど、また『返事』を尋ねてこられたら困る。『返事なんて出来ない』と言ったときの男鹿くんの顔。全く持って納得いきません、って顔してた。

学校で生活している以上、男鹿くんと顔を合わせないようにするって言うのは案外難しいもので、角を曲がると遠目に男鹿くんを見つけたり(そして急いで逃げたり)見つけられたり…

こんなの逆に不自然だってことは分かっている。そうだ、もっと気丈に振舞った方がいいって事も分かっているけど…男鹿くんを前にして、果たして私は強気な姿勢で大人ぶれるのだろうか?私があからさまに男鹿くんを避けているということは、さすがの男鹿くんも気付いたみたいで、たまたま目が合ったときとか、出くわしてしまった時はひどく不機嫌そうな顔をしていた。


何人かの男子生徒を私の元へとよこして来たこともある。顔に傷を作った生徒が泣きながら『屋上で男鹿が呼んでる』『教室で男鹿が待ってる』とか、そんな類の事を伝言に来た。私は『忙しいから』『時間が無いから』と男鹿くんに会えない理由を適当にでっち上げてその生徒に返事を頼んで逃げた。生徒の泣き声が胸を締め付けるけど…男鹿くんには会いたくない…

ずっと、こんな生活を続けなければならないのか…と、思っていたけど、転機が訪れた。


石矢魔に、女子生徒が居たなんて…正直知らなかった…

なんだか、私にはよく分からない世界(不良の世界)の色々を果たしてきた女生徒達が学校に戻ってきたそうだ。男子生徒はけっこう喜んでいた。私もそれを大いに喜んだ。むさくるしい校内に、同じ女の子が居るというのはなんだか安心するし、心強い。ちょっと悪っぽい子が大半だけど、男の子の不良に比べたら可愛いものだ。

どういう訳か私は女生徒のカリスマ的存在の3年生に好意をもたれたらしく(たった一人ジャージ姿で職務に励む私を哀れに思ったのだろう)ほとんどの女性とが私に好意的だった。

ああ、久しぶりの女の子同士の会話と言うのはこんなにも落ち着くものなのか…!『アタイ』とか乱暴な言葉もたまに出るけど、ちゃんと話を聞いていると、ちょっとおバカで素直な可愛い子達だ。男子生徒からのいやがらせは続いたけど、一緒に居る女の子達が逆に言い負かしてくれた。彼女達は仲間意識が強く、私のことも『先生』とは呼ばず『みょうじちゃん』と呼んで可愛がってくれた。

こうして、女生徒帰還にともない、めでたく私は石矢魔での自身の地位を確立した。女子生徒に守られて可愛がられる『みょうじちゃん』だ。女子生徒と仲良くなってからと言うもの、登校も昼食も、たまに下校も、ほとんどの時間を女子生徒と過ごすようになって、意識せずとも男鹿くんと距離をおくことができるようになった。

「みょうじちゃん、なんかフルイチってひょろいのが呼んでるけどシメる?」
「ん?ああああえ?!シメないシメない!!知ってる子だから!」
「ふーん、ならいいけどサ。気をつけなよ?」
「そーだよ、男はみんなトラだよ」
「は?ばかじゃねーの?おーかみだろ?」
「はぁ?トラだろ?てめぇの方がバカだろ?」
「ちげぇよオーカミだよ、トラってどこで聞いたんだよ」
「男はつらいよってトラさんだろうがよッ!」
「…ああ、そっか」
「ほら見ろ男はトラだろ?」
「確かに…」
(本当にこの子達かわいいなぁ)

古市くん。そうだ、男鹿くんを避けるようになって、自然と顔を合わせなくなってしまっていた…。彼には石矢魔に来たばかりの頃とってもお世話になったというのに…人懐っこいというか、おもしろい…古市くんは可愛いくてそれでも頼れる生徒だったから、極個人的なことで結果彼のことまで避けてしまっていたことに罪悪感を感じる。

「あー、ごめんね!久しぶり、ふる」
「ほんッと、久しぶりっすね。センセ?」



「…?!?!お、がッおおおおがくッ」

階段の踊り場に、私を待っているはずだった古市くんの姿は無く。ああ、なんでこんな簡単な罠に引っかかってしまうんだ私は…。女の子達に囲まれて平和ボケしてしまった…。

顔は笑ってるけど、オーラが全然笑ってない男鹿くんは、腕を組んで、らせん状になった階段の手すりにもたれてた。こ、こわッ…!!なんですかその貫禄?!

びくびくっと体が跳ね上がったのが分かった。おおう、私どんだけ男鹿くんの事怖がってんだよ。

脱兎の如く、その場から逃げ出そうと駆ける…なんて事は男鹿くんに許されることも無く…。可哀そうなウサギの腕は恐ろしいオオカミの腕にひっ捕まえられてしまった。あれ?トラだったんだっけ?まぁ、どっちだっていいけどさ。私ピンチ。


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