06 コンビニで出会いました
石矢魔勤務2週目の金曜日の夕方。

この歳になると、飲まなきゃやってられないって時がある…。

不良生徒からの冷やかし『殺すぞッ』とか『出てけッ』とか…ガラの悪い生徒からのセクハラ『パンツ何色?』から『最後にヤッタのいつ?』まで…

それら全てを右から左へ流していられるのもいつまでだろう…もともと気が長い方では、ない。そして今日はとうとうそのイライラが沸点を超えそうな予感がした。

学校帰り、7時くらいに、アパートの近所のコンビニにてアルコールとおつまみを大量に購入。

カゴいっぱい、色とりどりのチューハイやら発泡酒やらは、スーパーで買った方が経済的なんだろうけど、スーパーまで行く元気が無い。あと、すぐに一杯やりたい気分だし。

疲れの所為でからっぽだった胸は、カゴ同様にアルコールの量が増えれば増えるほど満たされ、高まっていった。お酒はいいよねッ!大人の味方だよねッ!まさしく!!

ふと、雑誌コーナーに顔を出してみる。週刊誌には興味ないけど、私だってファッション誌くらいは読むんだ。けど…

「だぶッ!!」
「ん?どーしたベル坊?…あ」
「おッおがくん?」

雑誌コーナーには、赤ちゃんを頭に乗っけた男鹿くんが居た。いやらしい雑誌とかパチスロ等の情報誌でもなく、漫画雑誌を立ち読みしていた…。

赤ちゃんが私に気が付いて、興奮気味に男鹿くんの髪の毛を引っ張る。そ、そうだよね!!校区内なんだから、こんな時間じゃ生徒と鉢合わせしたっておかしくないよねッ!!
男鹿くんはいつもの制服じゃない、私服(っていっても、Tシャツにダークグレーのパンツというすばらしくシンプルなものだ)を着てて…背も高いから、なんだかちょっとだけ大人っぽい。

「うわッはは、すっげぇ量。パーティーでも開く気かよ」
「…えッ?!ああ!!」

男鹿くんは私のかごの中身を見て笑った。そうだよね、普通に1人で女の人が飲む量じゃないよねこれは…!!気持ちが収まるまであさってたからなァ…

なんだか急に恥ずかしくなって、1人酒だってばらしたくなかった。『なんて寂しい女なんだろう』って思われたくないしッ!!いやいや、実際さみしいんですけどね。とっても…

「あーあの!これはねッ!今日お友達が家に来て飲み明かそうって事になってねッ!!あはははは!!」
「女ばっかでか?可哀そうっすねー」
「う、うるさいッ!!」

ち、ちくしょう!結局かわいそう扱いうけた…!!自分の生徒に寂しいとか、可哀そうとか言われて…!!

だけど、可哀そうなのは事実だし、何よりも男鹿くんはちゃんとお付き合いしている恋人がいるから、今の私が何を言っても『可哀そう』なんだろう…くやしい…

レジで清算をすませ、コンビニ内の男鹿くんに、時間を見てちゃんと帰るように注意しようと思ったら、もう居なかった。あれー?

「おい、何ぼーっとしてんだよ」
「え?あ、いやいや…別にボーっとしてたわけじゃないよ」

すでに外に出ていた男鹿くん。

日の長い、夏特有の湿気を帯びた生ぬるい風と、コンビニの過度の空調が生み出すキンキンに冷えた空気の狭間で見詰め合う。

外はもう夜で、でもまだまだ真っ暗じゃない空には、小さな穴のような星がぽつぽつと姿を現し始めていた。

「男鹿くん、気をつけて帰るんだよー」
「あんたもな」
「あんたじゃないでしょー、せ・ん・せ・い!!」
「センセー、サヨーナラー」
「ハーイ、オガクンもサヨーナラー」

って、足を進めた方向。

「おい、なんだよ。送ってく気か?」
「いやいや、私もアパートこっちなんだよ」
「へぇ、珍しいな…こっち方面ったら、ほとんど一戸建て…」

コンビには直ぐだ。歩いて5分もしない。

アパートの近所はほとんど一戸建てのお家で、お隣さんはすごくやかましいお家。噂では、少し前まで毎晩赤ちゃんの凄まじい夜鳴きが…

「…うそでしょ」
「じゃあ、俺ん家ここだから…」
「はッ、はははッ!!」
「な、なんだよ急に?!」
「お隣さん、男鹿くん家だったんだ…」
「えッ?!あんた…!隣の入居者ってあんただったのか…!!」
「そう!二階の真ん中ッ!!すげぇ!なにこの偶然ッあっははは!」

石矢魔って結構狭いんだなー。驚くべき偶然に。「よろしくな」っていたずらっぽく笑って握手の手を伸ばしてきた男鹿くんに。運命みたいなものを、感じた。

でも、ビニール袋につめられた、冷たい缶が足に触ると魔法みたいな酔いから醒めて、感じた運命に蓋をした。それ以上のものになる前に、アルコール漬けにしてしまえ。

私も男鹿くんの手を取って「こちらこそ」と笑った。


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