03 あげちゃいました
「って!なんだよ!!ここも売り切れかよ〜ッ!!」 私の存在に気が付いているのか、そうじゃないのか。気が付いているのにあえて無視しているのかは分からないけど、彼は自動販売機の前で苛立たしそうに頭をかきむしった。 情け無い事に、私は恐怖で腰が抜けてしまい、へなへなと廊下に座り込んで、一言も口が聞けない状態になってしまっていた。こわかった…。 溢れてくる涙をこらえるのに必死な私に向けられる、視線。男鹿くんの肩にしがみついているはだかんぼうの赤ちゃんが、じぃっと私が持っているパックのジュースに釘付けになってた。 これ?とでも言うように、私がそれを持ち上げてみると、赤ちゃんは目をキラキラさせながら頷く。ああ、これが飲みたいんだ。私は放心状態の中でパックにストローをさし、赤ちゃんに向けてヨーグルッチを振った。赤ちゃんは歓喜の声と供に男鹿くんの肩で暴れだす。 「うわッ!ちょ、ベル坊ッ!!って…あんた…何してんだ?そんなとこで…」 「…昼休憩…?ってか、男鹿くん、今気が付いたの?」 「なんで疑問系…おう、全然気付かなかった」 「そう…ありがとう」 「?」 「ダーブぅ!!」 「おい!暴れんなって!他の自販機で…」 私は男鹿くんにも見えるようにヨーグルッチを掲げて振ってみせる。赤ちゃんは、辛抱貯まらんといった風に、男鹿くんから飛び降りて、私の手からヨーグルッチを奪った。 ちゅうちゅうとヨーグルッチをすする赤ちゃんはとても無邪気で可愛くて…なんだか少し、癒されてしまった。 「あー、いいのか?あんたのヨーグルッチだろ?」 あのくらいの量、ベル坊飲み干しちまうぜ?少し罰が悪そうに頭をかく男鹿くん。 「いいの、別に…お礼のつもり」 「…なんの?」 「…男鹿くんって、鈍感だって言われない?」 「はァ?余計なお世話だっつぅのッ!!」 口は乱暴だけど、鈍感で周りに凄まじい影響力のある彼が、すこしだけ好きになった日のことでした。 (ッだ!) (ごちそうさま?) (んまァ〜) (…あんた、ベル坊に好かれたな) (え?!たったヨーグルッチいっこで?!) |