12.5 心優しき若者の受難
夜中にどうしても炭酸飲料が飲みたくなってベッドから起きて冷蔵庫の中をさぐってみたけど、目当てのものはもちろん無かった。面倒だけど、コンビニまで買いに行くか…いつもなら諦めてまた寝るのに、今日だけはどうしても飲みたくて仕方なかったので財布とケータイを持って家を出た。

家を出るとなんでかな、みょうじの家の窓を確認してしまう癖がついているようで1度そっちを振り向く。電気は消えてる。当たり前だな、真夜中近いんだから寝てるに決まってる。…みょうじの事は、あんまり考えないようにしよう。早くコンビニに行ってジュース買って早く帰って寝よう。って歩き出したのに、いつも見慣れている地面に何かの違和感を感じてもう1度振り返る。



人が倒れてた。

え…マジでか?


ちょっと悩んだけど、こんな時間じゃオレが放置したら朝までこいつ放置されちまうだろうなって思ってとりあえず近くによって様子を見てやることにした。近づくと異臭がしてあ、コレ酔っ払いだなゲロはいて寝ちまったどうしようもない大人だなって事が良くわかった。…ってか、みょうじだった。

「おいおい、マジかよ」
アルコールの臭いとタバコの臭い、多分居酒屋かどっかでくっつけてきた臭いだろうな…そして強烈なゲロの臭い…。道路にたっぷりと撒き散らされたゲロ…うーわー、こういう自制できない大人だけにはなりたくねぇな…。突っ伏して寝こけて居るらしいみょうじは吐いたことで多少すっきりしているのか気持ちよさそうに寝息を立てていた。

かける言葉が見つからなかった。倒れてるみょうじの横にしゃがみこんで観察していると、なんでか酔っ払ってゲロ吐きたての臭いダメな女なのに惚れたアレ?どうも寝顔が可愛く見えてしまう。あー、どうしてこんな面倒くせぇ奴好きになっちまったんだろうなァ…アホだし頑固だし融通きかねぇしアホだしバカだし頑固だし…あーでも、気兼ねなく絡んで来る所とか…そういうところがいいのかなー?なんだろう?…不器用なくせに包帯巻こうとがんばって、めちゃめちゃ難しい顔してるくせにめちゃめちゃ不器用で下手くそででもなんつーか、優しくて、手なんか赤ん坊みたいにちっちゃくって柔らかくってコロッケが上手で…うーあー、なんでだよ別にコロッケ上手な女とか山ほど居んだろ?なのになんで…なんでわざわざみょうじ?…先生?マジで…どうして好きになっちまったんだろーなー…こんな、ほっぺたにゲロつけたまま道路で寝こけてるような奴…服もボロボロだし臭ぇし…立場とか年齢とかそういうのうるさいし…

「お前なんて大ッ嫌いだ、バーカ」

蹴っ飛ばしてこのまま放置してやろうか?それともここで漫画とかドラマみたいにむちゃくちゃに乱暴して一生残るような傷つけてやろうか?俺の事好きにならないんならどうにかなっちまえみょうじなんて。このままここで寝続けて警察に補導されて教員免許剥奪されて、そんで先生なんて出来なくなっちまえばいいんだ。…みょうじなんて

「ふぅッ…ふぁっくぅ、がくっ」
「あ?」

みょうじが急に声を出し始めた。指先に少しゲロをつけたままの手をぎゅっと握って何かに耐えるように枯れた苦しそうな声を絞り出すように零した。声が小さくてからからしてる所為で何を言ってるのか上手く聞き取れないけど何かを必死に訴えて居るようだったので、真面目に聞いてみる事にした。助けてくれって言ってんのかも…。

「がく…ふぇっお、がく…おがくぅ、ん」

心臓がつぶれた気がした。みょうじは顔中に土をつけてちょっとゲロをつけて涙をぽろぽろ零しながら、確かに俺の名前を呼んでいた。驚いて、驚きすぎて体の力が抜けて情けない事にその場に座り込んでしまった。開いた口も開いた目も閉じなかった、閉じられなかった。その言葉が幻聴かと思った、涙が幻覚かとも思った。恐る恐る、手を伸ばしてみょうじの顔の、頬を伝った涙のあとに触ってみると確かに濡れててやっぱり泣いてるんだと判った。

「…みょうじ?」
「おっがく…うぇ、ひくっ…おがくん」

起きてるのかとも思ったけど、今まであんな…あんな態度をとってたみょうじがいまさらこんな状況でこんなことするとも思えない。こりゃあ、寝言なわけだ。ただの、寝言なんだ…けど、顔をくしゃくしゃにして泣いて俺の名前を必死に呼んでるみょうじを見てると、なんだかこっちまで変な気持ちになってきて正直目が熱くなってきた。くそっ…自分で教師と生徒がどうとか、高校生に本気になれるわけがないとか言ってたくせに…、なんで今さらこんな事…

「みょうじ、俺の事…好きか?」

寝言に返事しちゃいけない。誰が言ってたっけな…

「ほが、くん…おがくっぅえ…」

じょりじょり、みょうじが頭を動かすとゲロがコンクリートにこすり付けられて大層不快な音が響く。

「俺は、みょうじ…あんたが好きだ」

道路に放り出されたみょうじの手をとると、いつもよりずっとずっとあったかくて何でかそれだけでたまらない気持ちになってくる。

「すき…おがっく、ごめッんふぇッ、えぇ…」

寝言に返事しちゃいけない、何でなのかなんとなく分かった夜だった。だってそれには確信も確証も無く…ただ心に残ってしまう音の塊が返されるだけだから…起きて居る人間の方には何の得もないんだ。そんな風に自分に言い聞かせてみても、もう俺には彼女の事を道端に放って置くなんて事出来なかった。抱き起こしたみょうじの体の柔らかさとか、あたたかさとかなんだかそれだけで…胸がいっぱいになってしまったなんて、目を覚ましたあんたに言ったらやっぱり「高校生の癖にませた事言うんじゃないわよ」って言われるんだろうなーあーばーかばーか、好きだーばかやろー…



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