13 バカは空気が読めません

「ヴぅッ…ぐぅ…おうええ」

ダメだ私はバカだ誰かに大きな声で笑って欲しいみょうじバーカ!バーカ!!って笑って欲しいだって私は本当にバカだマジでなんでむしろタクシー頼めよなんで歩いて帰れると思ってんの私なに?ロシア人?あんだけお酒飲んで隣町から石矢魔まで本気で歩いて帰れるとか思ってんの?タクシーの中で吐けばよかったじゃんむしろッ!!なに遠慮してんのなんでこんな夜中に一人で吐き気我慢して歩いてんのバーカバーカ!!うげぇええ私めっちゃ臭い…














「おい」

「おい、みょうじ…」






「ん…むにゃ…ぁ?」
「起きたか?ほら水」
「なー?ほが、おがくん?」
「そうだな、ほがでは無いな」

あれぇ?男鹿くんがいる…どこに?あれ?ここどこ?あら?ベッド?ん?私ベッドに寝てるのなんで?ええっと…えっと…。友達と別れて、歩いてて、足痛いからって靴脱いではだしで歩いててストッキング破れちゃってばかやろー!って叫んでて、大きい声出したら気持ち悪くなっちゃって…でも吐くのは我慢し、た?あれ?私ゲロ吐くの我慢した?結構気持ちよくおろろん出しちゃった気が…してきたしてきた!吐いたね私全部吐いたわ気持ちよくげぇえええって!うわあいっぱい出たなーって思って…思って…うん。いっぱい出したなーって思って、それで…

「わたし、ここ…どこ?おがくん…てんごく?」
「あんたの部屋だよ。俺が居ると天国なのかよ」

私のふわふわした酔っ払い言葉に呆れながらそれでも男鹿くんは私にお水を差し出してきた。それを夢うつつに受け取ってごくりと一口飲むとやっぱり口の中が苦いような酸っぱいような…うわぁやっぱり私吐いてるの確実だわーって思わせるような味がした。アルコールでやけてた喉に冷たい水が触れるとその刺激に私はげほげほむせてしまった。水が顔に飛び散って布団に飛び散ってそれを拭おうとしたときに、自分がベッドの上でパジャマを来て居ることに気がついた。

「これ…男鹿くんが?」

パジャマの胸元を摘んで男鹿くんのほうを見ると暗くて判らないけどきっと男鹿くんは少し赤くなって私から顔を背けて「ゲロまみれのまま寝かせるわけにいかねぇだろ」って怒った。…着替えさせてもらっちゃったんだ私…。…今日どんな下着つけてたっけ?

「というか…私ここまで自分で?吐いてからの記憶がすっぱり無いんだけど…」

お水を飲み干して少しだけマシになった頭を押さえて男鹿くんに尋ねると、男鹿くんは今まで聞いた中で一番大きくて一番長いため息をついた。ああ、そんな呆れた顔しなさんなせっかくの素敵な顔面が台無しですよお前…

「昔々あるところに心優しき若者がおりました」
「ほほう…それでイケメンだったらいい物件だね」
「若者がコンビニに行こうと家を出ると道端には裸足でボロボロの服を着てゲロを撒き散らしたまま突っ伏して寝ている教師がおりました」
「…ほう」
「若者は言いました「おお、なんと完璧な酔っ払い!」若者はその教師の様子を良く見ようと近寄って見ましたすると…」

そこまで言うと男鹿くんはぴたっと喋るのをやめてしまった。どうしたのかな、とは思ったけどわざわざ突っ込みをいれる元気は私には残されていなかった。要約すればつまりは男鹿くんはゲロまみれの私を家まで連れてってくれてその上看病までしてくれたと…男鹿くんマジできみ、不良とかやってないでホームヘルパーとかになったほうがいいよ…私太鼓判押すよ。

「ねぇ、私くさかったでしょ?」
「今も臭ぇよ十分」
「重たかった?」
「別に」
「ブラジャー見た?」
「…」
「お尻とかおっぱいとか触った?」
「…ない、触ってない」
「触りたかった?本当は?」
「…」

気がつかなかったけど窓が開いてて風が入ってきた。カーテンがかしゃかしゃ鳴って、今の私の声は酒やけと眠気と疲労の中でとってもとっても小さくなっていたのできっと今しゃべってもカーテンの音にさえかき消されてしまう。私は男鹿くんの事を見ないで天井を見てた、男鹿くんがどこを見てるのかは判らない。

「男鹿くん」
「なんだよ」
「まだ、好き?」
「は?」
「私の事…まだ好き?」
「…」

返事が無かった。私は酔っ払ってて伸ばした手はフラフラしながら男鹿くんに近づいた。届きそうで届かない私の手を反射的に男鹿くんがとって握った。いつもは男鹿くんのほうがあったかいなーって思うけど、今日だけは私のほうがあたたかかった。

男鹿くんが私の手を握ったのを確認して私はぐいっとそのまま手を引いた。男鹿くんが私に引っ張られるというよりは、私が反動をつけて起き上がった感じになってしまったが私はそのまま男鹿くんに近づいてよく湿った唇を呆然と少し開いたままになっていた男鹿くんの唇に重ねて粘着質に押し付けた。男鹿くんの後頭部に手を添えて逃げられないようにした、けど男鹿くんは逃げなかった。それでも喜んで私のキスに応えるってわけでもなかった。私もそれ以上の事はせずに自分が苦しくなったところで唇を放した。よだれの糸がたらーんっと垂れて、私はそれをちゅるっとすすりとった。

「ありがとうね、いろいろ」

そう言ってしまうと私の眠気は大きな波のように押し寄せてきてそれ以上何も考えられないまま私はなすすべも無くその波に呑み込まれてしまった。ああ、ゲロはいた後の口でキスしちゃったー


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