12 持つべきものはアレです

「うおー!久しぶりー!!うわー!」
「おなまえあんたどういう根性してんのよ!」

石矢魔の隣町のとある居酒屋さんに呼び出された私はもう既に酔っ払い臭漂いまくる高校の頃からの悪友2人にとりあえずもみくちゃにされまくった。彼氏にフラれてやり場の無い苦しみに耐えかねて地元を飛び出した私は、もちろんこの二人にだって何で地元を出て何処に行って何をしていくつもりなのかも何もいいっこ無しに音信不通になったのだ。友人二人の顔を見て自分がどれほど水臭い事しちゃったんだろうって思う、そして自分の事を寂しい奴だとも思った。普通に考えて怒るわそりゃあ怒るわ私のアパート遊びに行ったらもう居ませんよお引っ越されました解約されましたさようならって…そりゃあ怒るわ…

二人に挟まれて怒られて泣かれてお酒飲んでご飯食べて泣いてご飯零してお酒飲んでお酒飲んで叩かれて叩き返して笑ってお酒飲んで笑ってお酒飲んでお酒飲んでお酒飲んでたらもちろん気持ちよく酔っ払ってきちゃったわけで、私はこんなにも友達思いないい人すぎる二人にお前ら最高だー!!って言ってほっぺたにちゅうしまくった。でも殴られた。痛くて涙が出たけど最近流した涙で一番心地よくてあったかい涙だった。

「そういやぁさ、アイツ結婚するらしいよ」
「はァ?結婚?おいマジかよふざけんなよー!!」

アイツって言うのはもちろん私の元の彼氏である激浮気野郎薄情者の彼のことだ。そうか…浮気相手と結婚するのか…ってか私のほうが浮気だったのか…?ん?酔っ払っててうまく頭が回らなくなってきた。脳みそは事を上手く呑み込んでいないみたいだけど少しだけちくちく痛むハートのほうはその痛みにアルコールを所望しているようで私の手は自然と泡の消えたぬるいビールへと伸びていく。

「ふむぁ…けっこんかァ…」
「…おなまえは?こっちで誰かいい人出来た?」
「そうだよ!先生でしょ?職場でなんか無いの?」

こっちでいい人?職場でなんか…?そんな事言われたとたんに脳みその中アルコールのもやもやした霧の向こうでいつか包帯を巻いてあげた後、下手くそだなって笑ってた男鹿くんの顔が現れた。夜中にいきなり私の部屋にあがりこんできて好きだって言った真面目な顔の男鹿くん乱暴に私の腕を引っつかんで不良らしさむき出しに怒った怖い男鹿くん告白の返事はできないしたくないって頑なになる私に辛そうな表情を見せた男鹿くん、男鹿くん男鹿くん…どうしてくれるんだお前。前の彼が結婚するだなんて聞かされて慰めてもらいたいそんな悲しい事分かんなくなっちゃうくらいぎゅううって抱きしめてもらいたい他の事なんて考えられなくなっちゃうくらいおかしくして欲しい…自分でダメだ出来ないムリです許されないって豪語しておいてこんな風に思うのっておかしいんだけど、今どうしても男鹿くんに会いたくなってしまった。

「しょくばなんて…不良こーこーせーばっかだもん…」
「高校生いいじゃん!可愛い子居ないの?」
「3年もしたら立派になるんじゃない?育てるってのもアリだし」
「かわいいこなんて…」


いつの間にか友人二人の電車の時間になってしまって名残惜しくもお別れに。また遊びに来るからって二人は私に笑った。私も気持ちの整理がすんだら戻るよって笑った。私のおぼつかない足と回らない呂律赤い顔を心配して二人は家まで送っていこうか?って言ってくれたけどここからじゃ二人のほうがおうちが遠いし電車だってギリギリなんだから大丈夫だ!先生を舐めんなッ!って言って断ると笑って「可愛くないー」って言われた。ああ、そうさ私は可愛くなんて無いのさ。でもそれでもいいんだ…。ありがとう。

「でも、おなまえ本当に大丈夫?」
「タクシー呼んで帰るよ」
「そう?じゃああたしらももう帰るね?」
「うん、気をつけてね」

そうやって言ったけど自分のコンディションを考えて、今コレでタクシーなんかで揺られたら絶対に吐くっていう確信があった。明日は休みだしゆっくり歩いて帰ろう。なんでか今夜はゆっくり石矢魔の景色を楽しみたい気分だった。そして友人二人に会ったことによってあるいはもうそこにはほのかにさよならのにおいがしていたのかもしれない。



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