07.女女女の娘(こ)
「なんでお面してんの?」
「笠松くんのためにね!」

教室での、そんなやり取りを思い出す。だからなんだ?そう自問すれば返す言葉もない…でも、こういう衝動は理屈でもないだろう…。シャーペンなんて新しいの買えばいいだろう、そう一蹴してしまえば丸く収まる…?…そんな簡単な話でもなさそうだ…。きっと教室。こういう勘はいいほうだ。あの深刻そうな雰囲気…たぶん諦めきれずにまだ探しているだろう。


予想通り、空のはずの教室には床をはいつくばって必死に何かを探している、が顔だけは背後である俺の事を凝視しているコスモス…その面持ちは「遅かったな」とでも言いたげな…いや、それは俺の勝手な主観だ…

「あったか?」
「かっくん?!」

飛び上がって、後頭部に被っていたコスモスを前面に滑らせるみょうじ。…かっくんって、俺のことなのか…?心底驚いたらしく、ぎゅうっと制服の胸元を押さえているみょうじは、スカートと膝に埃がつくのも気にせずに床に座り込んだ。意を決して、俺も教室に入ってみょうじに向かい合う。

「シャーペン探してんだろ?2人のほうが早ェよ」
「でも、部活…」
「だァかァら、早く見つけるんだってば」

それ以上口答えしないみょうじは、やっぱり素直な性格らしく謝ったり恩着せがましくお礼を繰り返すでもなく、シャーペンの説明を始めた。ピンクの細身のシャーペン…胸ポケットに入れておける大きさで、今日はたまたま使った後に机の上に置きっぱなしにしてしまったとか…。あーそういえば、1回借りた事あったっけか?ちっさくて使いづらいシャーペン…それでも、みょうじ…なんか大事そうにしてたっけ…

「転校する前に、友達にもらったペンなんだー」
「そうか…」

みょうじは教室の前を、俺は後ろを探しながら少し声を張って呼びかけあう。そういえば、俺も消しゴムなくしたことあったな…。2年の時に…すげぇ探した気がするけど…結局みつけて…どこにあったんだっけ…。教室の構図は一緒だからもしかしたら、そういう失くし物のブラックホールがあったりするのかも知れない。

「もしかしてこれって、いじめなんじゃなかろうか…と」
「はァ?いじめ?!」
「うん…だって、私って新参者でしょ?『調子乗っててムカつくよねー?』みたいな…隠されちゃったんじゃ…って思って」
意外だ…あんな天真爛漫なみょうじでも、そんな事考えたりすんのか…!!って、失礼だけど、本当に驚いた。だって、クラスじゃ嫌われている様子なんて無いし…俺が気づいてないだけかも知れねぇけど…むしろすげぇ優遇されているもんだと思ってた…。

「アヤリーンとか、高スケとか…実は私の事嫌いで…」
「ちょ、待て…誰だって?あ、あやりーん?外人?」
「あ、ニックネームだよ!私の裏技。早く仲良くなりたかったらニックネームで呼び合うの」
「なるほど…でも、なんだよそのネーミングセンス…」

腹ばいになって、ロッカーの陰になってないか確認していると妙にみょうじの声が近くで聞こえてる気がして、教室前方に視線を移す。が、そこにみょうじの姿は無くて、むしろもっと近い位置で机に登って天井に接する窓のサッシを覗き込もうと必死になっていた。…!!危ないとかそんな所には無いだろうとか注意する事より何より、すぐに、スカートから覗く脚とかアングルから、より過激に主張される胸に度肝を抜かれて視線をはずした。脈打つスピードが上がる、驚いてからまわる呼吸を悟られないように必死に隠すと、無理な息使いに顔が赤くなっていくのが分かった。もちろん分かってる、みょうじは立派な女の子だ。

「笠松くんだとなんだろうね?そういえば名前って」
「…は?!え、な、まえ…名前、幸男」
「幸男かー、ユキリン?ユッキー…ユキオンとか?」
「…ああ」
「気に入った?どれか使おうか?!なんか仲良しっぽいよそれ!!」
「お、…ああ」
「…もしかしてダサすぎて怒ってる?」
「…違う」

ロッカーとベランダに繋がる段差との間に出来た隙間。埃と画鋲と消しカスがたまった狭いスペースに、夕日を反射するピンク色。

「あった!」
「本当ッ?!」

びょんっとみょうじが机から飛び降りる気配、そして滑り込むようにして俺の横に駆け寄ってくる。埃にまみれたペンを渡してやると安堵と喜びのオーラを纏ったコスモスが狂喜の声を上げた。時計を見ればまだ10分ほどしか経っていない。これから部活に戻れば丁度の時間だろう。

「よかったな、見つかって」

俺が立ち上がってシャツについたほこりを払っている間も、みょうじはずっとシャーペンを大事そうに握り締めていた。相当、大事なもんだったんだな…見つかってよかった…。「じゃあ俺は部活戻るから、さっさと帰れよ?」
「あ、笠松くん!」

歩き出せば、弾かれたようにコスモスが俺を見上げる。シャーペンをぎゅっと握った手が、どうにもしおらしく、やっぱりお面のコスモスとの不釣合いさに笑えてしまう。

「今度からユキオンって呼んで」
「だめ」
「でもポケモンみたいでかっこよく」
「ねェだろ」
「…ですよねー」
「笠松でいいから。無理に変なあだ名考えんじゃねぇぞ?センス無ェんだから」
「うわ!聞き捨てならん!聞き捨てならんよ笠松くん!!」

ばたばた騒ぐ両腕も、地団駄を踏む両足も全部全部、どこもしっかり女の子の癖に、お面1つでどうにでもなっちまうのは…どうしてなんだろうなァ…
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