05.ウソツキマン
「笠松くん!」

突然、廊下でみょうじに呼び止められた。名前を呼ばれちゃ振り返らないわけにもいかないから、振り返ると、やっぱり?まさかの?何を期待したのか何を心配したのかも自分では分からないけど、振り返ればコスモスが居た。…ってか、廊下でコスモス…?他のクラスのやつらも居るのに…。断っておくと、みょうじのコスモスはクラス公認。

「なんでお面してんの?」クラスの女子の全うな質問に、みょうじは悪びれることなくでかい声で「笠松くんのためにね!」といい退けた…。背筋が冷えて、あまりのショックに吐くかと思った…。みょうじの発言の真意を理解しているやつも、理解していないやつも、みんな一様にニヤニヤ笑いながら俺を冷やかしてきたが、転入生の奇行を嫌悪し稚拙な差別に走るような奴は1人としていなかった。それは、俺のクラスがいい奴ばかりなのか、それともみょうじの屈託の無い性格が周りをもそうさせてしまうのか…。

「先生が呼んでたよ!あのー、何とか先生!国語の!」
「おう、ありがと…ってか、まだ名前覚えてねぇの?」
「覚えようとすると、混ざっちゃうんだよねー」

慣れってのは怖いもので、みょうじが平気でコスモスのまま廊下を歩くのと同じくらい自然に、俺もコスモスの横に並んで歩いている。抵抗も違和感も無い…って思ってるのは俺とみょうじだけで、やっぱり他のクラスの奴らは何度も俺たちを振り返ってえ?えっ?!と戸惑いの声を上げる…ってか、みょうじ自体、転入生な訳だから他のクラスの奴らにすれば根本的に誰アイツ?ってなってるわけだよな…こんな好奇の目にさらされて嫌じゃねぇのかなみょうじ…

「みょうじ、移動教室はお面外してんだよな?」
「ん?そうだよ!だァって、お面したまま歩いてたら可笑しいでしょー?」
「うん、それ今のお前が言うのか…」
「だって、今は笠松くんと一緒だからねー」

特有の、子犬とか子猫みたいな仕草…を、コスモスがしてる…。すげぇレアな瞬間だよなこれ…。というか、よくそんな事さらっと言いのける…、あ、いやー…深い意味は無いんだよなもちろん。俺だってそっちの期待はしてないし…。ただ、純粋に恥ずかしいよな、そういう特別扱い…

「授業では先生に注意されるけど、廊下では叱られねぇの?」
「あー!それねッ!!フフンっそれね!!」
「なんだよ…勿体ぶんなよ…」

わざとらしく片手で片肘を抱えてかしこぶったポーズ。フンフンフフンと、鼻歌のような声を漏らすみょうじはなんかすげぇ楽しそうで、その笑い方はちょっと不安を覚えるほどに不気味だ…さらにはコスモスの顔でそんな声出すから余計だ…。

「先生達にちょっと嘘をついてきましてね!」
「…嘘?」
「うん、お面無いと怖いんですーって」
「は?」

みょうじからきいた、度重なる転校に伴う友人との出会いと決別…そのサイクルが短ければいくら同世代ばかりの学校であろうと、物理的にも希薄な関係しか築けないのは誰にでも予想は出来る事で(みょうじに限って希薄な友人関係ってのは疑わしいが)そんな経緯を利用して先生達には「新しい学校に慣れるまでは他の生徒が怖くてしょうがないんだ」と泣きついたらしい…。転校初日であそこまでクラスに馴染んでおいてなんて白々しい…!!軽い人間不信だとか、コミュニケーション能力が低いんだとか、大袈裟な嘘をついて学年主任にすがってみれば「休み時間・3年校舎に限り」コスモス解禁となったそうだ…。信じらんねェ…

「お前…結構悪い奴なんだな…」
「まさかっコスモスに向かって悪いだなんてっ!!」

ゲラゲラ笑いながら教室に戻っていくみょうじを何気なしに見送って、職員室へ足を向ける。教室に入る瞬間、髪をゆるく巻き込みながらするりとコスモスを取り去りクラスの女子に声をかけるみょうじ…計算されたように、ぴったり俺には顔が見えなかった…。こんなに単純な事だったのか…?俺の女子への苦手意識ってのは…。顔を見ずに相手が女子であると深く意識しなければ?事実成功しているから反論は出来ないが、…考案者である本人に一番失礼な話だよなーそれって。まぁ、本人が楽しそうであるなら文句を言う必要もないけど…。
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