03.早朝の異星人
週末に控えた誠凛高校との練習試合の件で監督に呼び出されて、そのまま朝練を早めに切り上げて教室に戻った。廊下からはまだ外部活が朝練に励む姿が見られた。もう少し体育館居てもよかったかなーとも思いながら教室に入ると、顔面にパンチを食らったような衝撃。驚きすぎて「わっ」すら口をつかなかった。

突っ込むべき事はたくさん在る。とりあえず、なんでこんな早くに教室に生徒が居るのか、1人っきりで何をしていたのか、黙ってじっとこっちを見て居るのは何故か、いつからそんな剥製のように固まった姿勢で居たのか、きちんと指定の制服を着こなして居るくせになんでウルトラマンのお面をつけているのか…。どの質問も頭の中をぐるぐると回って、捕まえられなくて口に出せず、結局すんなりと口からこぼれた言葉に自分でも少なからず驚いた。

「コスモス…」
「おお!良くわかったねっ!!コスモーースっ!!」
「あ、いや…だって思いっきり世代だしコスモス…」
「笠松くんも観てたー?私もね、いとこと一緒に観てたよー!」

えっと…みょうじ、たぶんみょうじだと思う。そういえば座ってる席が俺の横だから…声は、まだ判断できるほど聴き覚えが無いしそもそもお面の所為で少しくぐもっていてそれが判断材料にはなりえない。ただ、隣の席に座って居るってだけで突然目の前に現れた女子高生の格好をしたウルトラマンコスモスを、みょうじおなまえと認めない限り、今日一日…俺の平和な学校生活を取り戻せなくなるような気がして、とっさの判断であの伸びた背筋で窓側から2番目の席に座ってこっちをみているウルトラマンコスモスはみょうじなんだと思い込むように心がけた。でも何でだ…

「…あーえっと」

さっきは咄嗟の事でみょうじと会話…?って言っていいのか、受け答え?が出来たが、目の前のウルトラマンコスモスをみょうじだと認めてしまうと、どうにも声をかけ辛くなってしまった…。何を誤魔化せるのか分からないけど、自然と空いた手で頭を掻く。1度外した視線を、もう1度…みょうじの方に向けてみれば異常なまでに完成度の高いそのコスモスにガキの頃の記憶が蘇る…。あー、コスモスかっこよかったなー…懐かしい、コロナモードが好きだったなー…

「えっと…なんでコスモス?」
「笠松くん!せっかくお隣になったんだからさ!!お友達になろうイェイ!!」

精悍なコスモスの面持ちで、小さい両手の親指をぴっと立ててダブルサムアップ。イェイって…。すげぇコスモスの顔でそんなおどけた事するから、呆気にとられてそして笑えた…ってか笑った。俺が笑うとみょうじも声を上げて笑って、でもその声がお面で反響して変な音になって教室に響いて更に笑えて、みょうじもみょうじでお面の振動がくすぐったいらしく「顔が、コスモスの顔がかゆい」とか喚きながら顔を抑えて大爆笑してイスから崩れ落ちた。なんだこれ、すげぇ笑える俺ら朝っぱらから何してんの?

「うっはー!めっちゃ笑ったー!!笠松くんも超笑ってたね!」
「そりゃあ、コスモスが爆笑してたら笑えるだろう?!」
「あっ、そうか!!笠松くんから見ればコスモスが這いずり回って笑ってたわけかっ!!なにそれ私も見たいっ!!」
「いや、無理だろ?!みょうじがコスモスなんだからっ!!」
「うわっそうだっ!!忘れてた!!」
「なんだそれ!!」

鍛えてるはずの腹筋が痛いくらい笑う、顔の筋肉がひりひりする。コスモスの顔でわたわたするみょうじがおもしろくて何度も爆笑の波に攫われた。いい加減笑うのをやめて、みょうじの隣の席に落ち着くとみょうじがコスモスの顔でこっちをじっと見つめてきた…あー、なんか…コスモスにじっと見られると、気が引き締まる…。あと、やっぱり笑える…だって、コスモスの顔から急に細い首が始まってる。

「で、なんでコスモス?ってかお面?」
「私の作戦です!そして成功だッ!!私すごいコスモスすごい!!」
「作戦ってなんだよ?」

スポーツドリンクを一口。ずびしっ!!とみょうじに指を指される。なっ、喋ってる最中にドリンクなんて飲んでんじゃねぇって事か?!お面のコスモスは表情を一切変えないから、みょうじの喜怒哀楽がわかんねぇ…!!むせ返るのを我慢して、すこし口から垂れた分を腕で拭う。

「笠松くんとお友達になろう作戦だっ!!やっとおしゃべりできたっ!!」
「…?…、…っあ」
「森山くんから、笠松くんは女の子が苦手だって聞いてさっ!どうしたらいいかなー?どうしたらおしゃべりできるかなー?って考えたんだよ私っ!!それで思いついたのがァ」
「ヒーロー作戦?」
「女の子やめるのは無理だけど、ほかのものでごまかす事はできるよね?ほら、だって笠松くんちゃんとコスモスの顔見て喋れてるでしょ?!私の発想力すっげぇえ!!!!」
「大興奮だなお前…」

イスから飛び降りてガッツポーズを繰り返すコスモス、もといみょうじ。そういえば、女子だって分かっててもコスモスに集中すれば普通に喋れてたな…俺…。ってか森山…勝手にバラしやがってあいつ…!!悔しいとも恥ずかしいとも怒りとも言い難い感情が一気に爆発しそうになったが、目の前でくるくる自画自賛の言葉を並べながら踊っているコスモスを見ていると、そんな気さえうせてしまった…。とんでもない、女の子サイズの神秘の巨人が来たもんだ…。



「ちょっと!みょうじさん、学校でお面なんて何考えてるんですか?!今すぐとりなさい!!」
「あ、やっぱダメですか?コスモス」
「キャラクターの問題じゃないです!!」
「うーえー…前の学校では」
「許されませんッ!!」
「…はーい」

当たり前だけど授業の始めにお面について言及を受けたみょうじを、面白がってクラスが沸く。こういう変なやつが受け入れられるクラスだ…森山とか…。まさか授業中までコスモスで居ようと考えてるなんて思ってなかった俺としては呆れた…としか言いようが無い。普通に考えれば、高校生がお面つけてる時点でおかしいだろ…。

「笠松くん」
「ん?」

先生に注意を受けながらも最後にコスモスのまま俺の方を向き直るみょうじ。感情の無いお面のはずなのに、なんでか今このコスモスは申し訳なさそうに見える…みょうじのオーラの所為か…

「授業中はお面外すから、こっち見ないでね?」
「…は?」
「だって、本当はわたしがみょうじおなまえだって分かっちゃったら笠松くん、もう今朝みたいにおしゃべりしてくれなくなっちゃうでしょ?」
「…え、あ…、…。分かった、見ないから…はやくしねぇと、俺まで先生にどやされる」

しぶしぶ後頭部に手を伸ばしてゴムを外すみょうじから、お面が取れる寸前で視線を外した。意識しなければ、まだやっぱり隣には女子高生の格好をしたウルトラマンコスモスが居るような気がして、その授業は笑いを堪えるのに必死でまともに受けられなかった。

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -