02.となりだんまり
教室を、前から後ろまで歩く間にハイタッチを求める愉快な女の子達。初対面なのにイェーイ!とか騒ぎながらパチン!っと手を合わせると、それだけでクラスに溶け込めた気がした。ああ、いいクラスじゃないかっ!!もちろん前の学校が恋しいと思うけど、見知らぬ笑顔もいいものだっ!!

「可愛い女の子ばんざーい!!」
「森山っ!!」

森山くんがまた急に立ち上がって、こっちに向かって叫んだ。驚いてハイタッチしてた子の手をぎゅうっと握ってしまって「みょうじちゃん大丈夫?」って笑われてしまった…なんだ、森山くんって普段からああいう爆弾みたいな子なのか…?驚いた、けど…面白いなー。もちろん森山くんは先生に怒られて、でも全然反省してなさそうな態度にクラスのみんなは大きな声でひやかしたり笑ったりしてた。おもしろいクラスだなー。森山くんと先生を見届けながら、新しい席についてイスのすわり心地を確かめる。慣れないなー、やっぱ。

「えっと、みょうじおなまえです。よろしく」
「…ああ」

…え?友好を深めようと思って手を差し出したのに、お隣さんはこっちを見ようともしてくれずにずっと窓の外を見てた。えーっと、返事は「…ああ」だけど、一応もらったわけだし…無視されてるわけじゃ、ないんだよね…?なんだろう、お腹痛いのかな?お腹痛いといろいろ面倒になるもんね、きっとそうだ、そういう事にしておこう…。…でも、新しいクラスにきて私が今まで身につけた処世術「まずはお隣さんと仲良くなってそこからお友達の輪をつなげよう良質ネズミ構友好法」が成らない…!!こまったぞそれは!!

「えっと、もしかして…お腹とか…痛い?」
「…違う」
「そ、そう?あーえっと、わかんない事ばっかりだから迷惑かけちゃったらごめんね」
「ああ」
「うん…うん、…えっと、名前、とか…訊いていい?」

な、なんだ…この子…そっけない…なぁ…、今までなら気を遣って相手の子から私の事質問攻めにしてくれて受け答えから仲良く慣れたのに…、さっきからこの子返事が大変短い…!!名前を訊いたらチラッとこっちを見て、とっさにウケのいい笑顔を作ろうとしたのにまたそらされた…仲良くなるチャンスすらくれないのかー?!

「…笠松」
「笠松くんっ!!じゃあこれから笠松くんって呼んでいいかな?」
「ああ」
「うん、笠松くんね、笠松くん!」

寡黙な笠松くんの名前をやっと訊けたところでSHRはチャイムを合図に終わってしまった。


「みょうじちゃんは前の学校で部活とかやってた?」
「おうちってどのあたり?電車で来てんの?」
「ねーお弁当いっしょに食べようよっ!穴場があるんだ!」
「委員会とか何にするか決めてる?私でよかったら一緒にやろー!」
「みょうじちゃん彼氏居る?居なかったら合コン誘っていい系?」
「てか後ろの席良いなー!あたし3年は絶対に後ろが良かったのにみょうじちゃんにとられちゃったー」
「あ、メアド教えてっメアドいい?」
「あー!私にも送ってー!」
「えーお前赤外線使えないの面倒だからやだー」
「お、おう!じゃあ私から直接送ろうか?みんなよろしくー!って変なデコメ送るよ!」
「みょうじちゃん優しいッ!!お前ら見習えよっ!!」
「ってかみょうじちゃん変なデコメって!!それ言わずに驚かせて欲しかったわー」
「あっ本当だ言っちゃった…!!」
「マジうけるー!!みょうじちゃん可愛い!!」

休み時間の間はずっと女の子に囲まれてわいわいがやがやきゃっきゃしてて、あー新しい学校だーって毛穴から感じた。1限目が終わるころには、授業中やむことなくやり取りが行われていたケータイの連絡先がたくさんの新しい名前で埋まっていた。先生に見つからないようにこっそりケータイを触るスリルと、ちらっと視線を上げたとき、一緒にこっちを見て小さく手を振ったりウィンクして笑う女の子達とのくすくす笑いが止まらなくって幸せだった。

「ねぇみょうじちゃん、俺もメアド教えてもらっていいかな?」
「あ、えーっと森山くんっ!!いいよいいよ!!赤外線いい?」
「やったー!!みょうじちゃんのメアドゲットぉお!!!!」
「うおっそんなに嬉しい?!じゃあ私のお母さんのメアドも教えちゃおうか?」
「え?!それは喜んだら可笑しくない?!」
「わはは、冗談だよー!はい、出来たー」

森山くんにケータイを返すと、森山くんはありがとーって言いながら私の前から足を滑らせてぬるーんと笠松くんの前に流れていった。あ、お友達なんだなー…当たり前か、筆箱投げあう仲だもんね!気心の知れた友な訳だねっ!!

「笠松、笠松!!みょうじちゃんのメアド教えてもらっちゃったどうする?!」
「どーしようもねーだろ別に」
「なんだよ冷めてんなー!!もっとわくわく生きろっ!!」
「うるせーんだよ!!」
「あ、あの笠松くん!よかったら笠松くん、も…」

メアド交換…なーんて言い切っちゃう前に笠松くんはガタンって席を立って教室を出て行ってしまった…。う…ど、どうしよう…なんか邪魔しちゃったのかな…、機嫌損なうようなタイミングだっただろうか…?!い、いきなりメアド訊くとか、馴れ馴れしすぎたかな…?な、なんか笠松くんって、気難しそうな人だな…。せっかくかっこいい顔してるのに…立ち姿も背が高くてたくましくて素敵だ…。きっとさぞかしモテるだろうに!!あ、もしかして彼女さんが居て、彼女以外の女の子のメアド登録しちゃダメー!とか?あるいは彼女以外の女の子みんな海岸に打ち上げられたクラゲ以下みたいな?そういう感じなのか?!だとしたら今朝の態度も頷ける…私だって海岸に打ち上げられたクラゲに愛想よくしないし、ましてやメアドなんて…いや、まぁ…クラゲはケータイ持ってないけどね

「ごめんねみょうじちゃん、笠松の態度悪くて。気にしなくていいから、みょうじちゃんが悪かったんじゃないよ」
「あ!ううん、大丈夫だよっ!!私だってクラゲは嫌だもん!!」
「なんかみょうじちゃんて、自分の世界が深そうだねー」
「えーっと、なんていうか…笠松くんのいきなりメアドは教えてやんないぜ精神も理解できるからね!」

森山くん優しいなー、わざわざフォローしてくれて!イケメンスマイルでそんなの帳消しだよっ!!っていうか、ちょっと寂しかったけど死ぬほど悲しかったわけじゃないからねっ!!メアド無しでも仲良くはなれるしねっ!!そして笠松くんは席が隣だからいつだってチャンスはあるからねッ!!私が森山くんに向かってガッツポーズしてみると森山くんは笑って、空っぽになった笠松くんの席に座った。頬杖をついて私のほうを見て困ったように笑ってみせる。おおう、やっぱり森山くんもかっこいいなー!個人的には笠松くんのほうが好みだけどねっ!!とりあえずはお友達にならなきゃだっ!!

「笠松さ、女の子に免疫が無いんだよ」
「ほ?免疫?風邪とか病気の免疫?」
「うーん、はっきり言って女の子が苦手なんだよね」
「へー!!なんか難儀だねっ!!クラス半分女の子だよ?!」
「そうなんだよねー、でも嫌いになったりしないでやってね。いいやつだから」
「もちろんだよ!!せっかく席が隣になったんだから笠松くんと仲良しになりたいけど…女の子が苦手とか…私じゃどうにも…ケーキ屋さん入って甘いの苦手ーみたいな厳しさだよね」
「よくわかんないけど、難しい問題だよねー」
「ねー」

女の子が苦手な笠松くん…。始業チャイムとともに教室に戻ってきた笠松くんを観察していると、なるほど…。クラスの女の子が笠松くんの前を通ったり、すれ違ったりするときに、ちょっと不自然に目をそらしたりガタっと立ち止まったりしてる…。女の子が苦手…かー、なにか手は無いものか…。女の子やめるわけには行かないけど、笠松くんとは仲良しになりたいなー…。ガタンっ、お隣に戻ってきた笠松くんはやっぱりまた何もない窓の外ばかり眺めてて、声をかける隙すらくれなかった…うーん、どうしたものか…

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