07.ぼく→→→→→きみ
俺が吹き出したオムライスの中身のケチャップライスの赤い米粒が飛び散った座席を、なにやらきゃあきゃあと喋りながら綺麗に拭きあげて、なんの躊躇いもなくそこにちょこんと座り込んでしまうみょうじ。連れの女子は森山の向かいに腰を下ろした。みょうじと連れの女子がなにやら森山と自己紹介的ななんかそういうの済ませていつの間にやら注文も済ませてもうこのまま何もかも済ませて、いや、なにかが始まる前にお開きにして逃げ出したいばっかりの俺はといえば「ふぅ」っとアイスでロイヤルなミルクティーを一口飲み下して、ようやく落ち着いたとでも言いたげなみょうじの吐いた息にすら肩をびくつかせる始末である。顔に宛てた手のひらが汗でべたつくし、顔も冷や汗がひどいし、みょうじはコスモスの面をつけてないし俺の方でも何かの面を持ち歩いているわけでも無いから、もうなすすべがない。ちらっと隣の森山を睨みつけると、俺の視線に気がついた森山は「こら、顔隠してちゃ女性陣に失礼だろ」とか抜かしやがる。せっかく俺のために集まってくれたんだからな!なんて偉そうに腕組みをする森山に、みょうじが得意そうに「やっぱり目には目を!バスケ部員にはバスケ部員だよ!」とか言って「みょうじちゃん天才ー!!」とかなんとか森山とはしゃいでるみょうじにバスケやってるらしい連れの女子は「笠松くんて本当に女の子ダメなんだ?」とささやきかけて、え、本当に、って何?俺が女子苦手っていうのそんな世間様に広まってんの?なんで海常の生徒じゃない(参照自己紹介)やつがそんな事知ってんだ?え?え?悪名高きとまでは言わないがそんな情けない(事実だが)不名誉なこと誰が漏洩させやがった?ってかマジでなんで俺の知らない子が知らない俺のそんな事知ってんの?困惑と情けなさに、指の隙間から控えめに視線をみょうじ(の机に乗せた肘)に移す。「そうなんだよ、笠松くん本当に女の子苦手なんだよ!」だからまさか今日の合コンに笠松くんが来るとは思ってなかったよー!明るく笑う声が、なんだかいろいろ主に俺のメンタルに深く大きなヒビを作った。・・・てか、これはやっぱ合コンなんだな・・・机の下で森山の足を踏んだ。

海常青春白書

「あ、でも笠松くんは前にも合コンしてたか」

明るく続けるみょうじの声でひたっと空気が変わる。少なくとも俺の心臓はひやりと凍った。あの時の即席合コンのことに関してみょうじは心配ないだろうと、俺がみょうじを好きだと知ってて応援してると言う森山が、心配ないだろうと言った、けど・・・やっぱり、本人が、本人を目の前にしてこんなに意に介してない様子で、こうもあっけらかんと言われてしまうと・・・なにが心配ないんだ・・・俺はまったく眼中にないということなのか・・・だって、好きな奴とか、ちょっとでも気にしてる奴が、合コン・・・とかしてたら、嫌だろう?普通・・・。俺は、いやだ。森山のための友達紹介って名目だったとしても、みょうじがこんな風に合コンの場にいるっていうのだけで、だって、もしかしたら、俺がいま座っているここに、みょうじの向かいに、知らない奴とまでは言わないが、俺以外の奴が座ってたかも知れないんだ。そいつとみょうじが楽しく会話を盛り上げてたかも知れないんだ。そんなの、別に学校の教室でも起きてることだけど、それでもやっぱり、女の子と上手く喋れないのは俺の所為だし、こういう場に不慣れなのも俺の問題だ。それでもやっぱりみょうじには俺じゃなきゃ嫌で、こんなに、嫌悪とは違うけど・・・嫉妬、とも違って、なんか勝手な独占欲みたいな嫌な感情が渦巻く。これは俺がみょうじの事を好きだからこそ生まれてくる感情であって、その感情が綺麗なものであろうが汚いものだろうが、この気持ちがキツいとか苦しいとか思うっていうのは俺がみょうじを好きだという証拠だ。ということは、そんなの微塵も感じてませんって風なみょうじに、は、そういうの、なくて、つまりは・・・そういうことなんだよ・・・森山がちらっとこっちを見やるのがわかった。恥ずかしくて情けなくて、それでもやっぱりみょうじのことは好きで苦しい。

「この子、学校でどうですか?みんなに迷惑とかかけてない?」

この話題が生み出す不穏な空気を読み取ったのか、前の学校の友達だったという連れの女子が話題を変えた。この子変な子でしょう?って、こっちまでくすぐったくなるような優しい声で言うもんだから、ああこの友達もみょうじの事が好きで大事でしょうがないんだろうなって事がよくわかった。そもそも愛される気質なんだろうな、みょうじは。愛らしくて、愛でずにはいられない気がする。いつも何かに一生懸命・・・というか、全力というか、思考がちょっとおかしいから変なことしてるようにも思えるけど、そういう、愚直ってったら失礼なんだけど、そういう真っ直ぐなところがいい。いつも楽しそうで、だから落ち込んだり弱った姿なんてまるで別人で、えお前そんな反応もすんの?って度肝抜かれて余計気になって、馬鹿なこと言ってるみたいだけど、ほかにはどんな反応するんだろう?とかわざと感情をゆすぶってみたいとか・・・そんなの思うくせに、動揺させられっぱなしなのはこっちで、うまくいかないから、思い通りにならないから余計に執着して、抜けなくなって・・・気づいたら好きで。俺ばっかり好きで、一緒だと楽しいとか言うし、試合も見に来るし・・・誘ったのは俺だけど・・・ひょいひょい来んなよ、そんなの・・・なんも思ってないなら、手とか、つないだり、そういうの・・・俺は、不慣れなんだから、嬉しかったけど、すげぇ嬉しかったけど・・・!!・・・っもう!!わかれよばかやろう!!!!期待と本音と事実と理不尽をまとめ切れずに脳みそがこんがらがって熱くなる。氷が溶けかけた冷水のコップを手にとって、ぐっと流し込もうとした瞬間

「やだ!!私そんな変じゃないでしょ?!」
「いや、みょうじちゃん可愛いし良い子だけど、なかなか濃いよ」
「でしょ?あんたやっぱりクラスの女子に陰口とか言われてるわよ」
「えー!!えー?!そんな、友達を人間不信に陥れるような事よくも言えたね?!」
「だってあんた基本アホだし、鬱陶しがられてんじゃない?笠松くんもこの子の隣の席なんて大変だねー?」
「えっえ?!そ、そんな事ないよね笠松くんっ?!」

必死に、唐突に俺に振り向くみょうじ。名前を呼ばれて反射的に顔を上げてしまって、ガッツリと、目線があった。しっかり、正面切って向き合うのは・・・初めてで、混乱の中、とてつもない勢いで混ざり合う感情の制御が出来ず、もう、俺としては、泣くのを我慢するのに精一杯で、無意識に力を込めてしまった手で、氷水が入ったガラスのコップを、割った。

「ぎぇッ?!」

みょうじがおかしな声をあげた。怪我とか無いかとか、気にしていられない。飛び散るガラス片とか水滴とか氷とか、そういうのが全部床とか机に落ち着いても、早鐘を打つような俺の心臓は何ひとつ落ち着いてくれやしなくて、もうとにかく、やっちまった・・・。吹き出る汗と、滲んでくる涙に、試合中では考えられない敵前逃亡。くだいたコップも何もかも、その場に置いて、駆け出した。冷房の効いた喫茶店から、未だセミの泣き喚く猛烈な残暑の中に飛び出した。どこにいきたいかも、どこにいけばいいのかも分からない。それでも、走るしかなかった。


「えっ、え・・・え?!笠松くんっ飛び出してっちゃッえ?!」
「やっぱり笠松くんはおなまえが隣の席で迷惑だったんじゃない?」
「笠松は短気そうに見えて、まぁ短気だけど。変なとこ溜めちゃう奴だからなぁ」
「この期に及んでそんなこというの?!」

笠松くんが走って喫茶店を出て行ってしまった・・・。咄嗟に立ち上がっちゃって、足がぶるぶる震えてる。ど、どうしてこの2人はこんなにも冷静なの?!?!
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